975 :Fate/式神の城 ◆v98fbZZkx.:2008/01/27(日) 05:05:28


バーサーカーの胸を貫いていた巨大な剣が、鼓動を打つように震えた瞬間。俺はセイバーに向かって駆け出していた。
「衛宮くん!?」
遠坂の驚愕の声が耳に届いた。
当たり前だろう。
セイバーに向かって走るということは、同時にセイバーと対峙するバーサーカーに向かって走るということなのだから。
「シロウ!? 何をしているのです! 戻りなさい!」
セイバーの声が聞こえた。俺の体がセイバーにたどりつくまで、あと2秒弱。
ずずと、バーサーカーの体から剣が引き抜かれていく。体を貫通した剣が、完全に引き抜かれるまで、あと2秒か3秒。
巨人の背後ではイリヤスフィールまでも、驚きでその表情を変えていた。
「セイバー!!」
叫ぶようにセイバーの名前を呼んで、そのまま彼女を押し倒すようにして路面に倒れこんだ。セイバーの背中に回した手の甲が、アスファルトで擦り切れる。

パキン。

同時だった。バーサーカーの体から剣が抜け出すのと、その剣が軽い音をたてて砕け散るのは。
そして周囲一帯を、轟然と爆発音が満たした。
剣が砕けたことで、剣を構成していた魔力が鋼のかけらを乗せた風と化して、周囲を薙ぎ払っていく。
零距離で直撃を受けたであろうバーサーカーの胸が、風船のようにポン、と爆ぜていた。
ザクザクと、自分の背中に何かが突き刺さる音がする。赤い液体が、首筋を伝ってセイバーの鎧の上に落ちた。
「シロウ。……」
セイバーが何かを言っているが、爆音を至近で受け止めた鼓膜は、もうほとんど機能していない。わずかに、俺の名前だけが聞き取れる。
遠坂が遠くで、何十メートルも離れていないはずなのに、ずいぶん遠くに感じる場所で何かを言っている。遠坂にも怪我は無いようだった。
イリヤスフィールは、バーサーカーがあんなことになったからだろう、他の二人に負けないくらいに驚いた表情をしていた。
「……ロウ……が」
セイバーが何かを言っている。
大丈夫だよと、声を返そうとして、ひゅうひゅうと空気だけが漏れた。首筋に手を乗せると、冷たい金属片に指が触れる。
声を出そうとすると、こぽこぽと気泡混じりの血が漏れた。これじゃあ、声が出ないのも当たり前だ。
それでも、俺とバーサーカー以外にはさしたる怪我も無いようで、そのことだけはよかったなと思いながら、俺は意識を手放した。

一方その頃/

その夜、美綴綾子は新都の街を早足で歩いていた。
そもそも、知り合いの少年にならって、ちょっとだけおせっかいを焼いたのがいけなかった。
はじめに引き受けたのは軽い雑用程度のものだったのが、そこから芋の根のようにズルズルといらぬ用事を背負い込んで、気がついたら日付が変わっていたと、そういう話である。
綾子は、月曜になって衛宮に会ったら何か甘いものでもおごらせようと心に決めて、少しだけ足を速めた。新都の夜は、あまり居心地のいいものではない。
「……ッ?!」
綾子は背後に何かの気配を感じて振り向いた。しかし、そこには何も存在するわけがなく、ただ夜道があるだけだ。
どうかしてるなと思いながら、綾子は、再び視線を正面へと向けて、腹部に衝撃を受けていとも簡単に昏倒した。
意識を失う前に彼女が見たものは、自身に当て身を入れた紫の髪の美女と、その背後に立つ少年の姿だった。


「どうだ? ライダー」
「……。はい」
癖のついた髪を持つ少年の言葉に、ライダーのサーヴァントは、わずかに言葉を詰まらせた後にうなずいた。
ライダーは、綾子の体を地面に横たえて、少年に仮面に覆われた顔をむけた。
少年は、ポケットからナイフを取り出した。
「結界は大丈夫だろうね?」
「問題ありません」
ライダーは少年の言葉にうなずいた。事実、ライダーを中心として人避け……人間の無意識に働きかけ、その接近を阻む結界が敷かれている。
あと数時間、少なくとも日の出までは、ここで《何があっても》見聞きする人間はいないはずだ。
少年、間桐慎二は、ライダーの言葉を聞くと、ククッと暗い笑い声を漏らした。
「いい格好だよ。美綴」
言いながら、慎二は綾子の制服にナイフを走らせ、
「―――うがっ!?」
そして、頬に拳を打ちつけられて、そのまま横方向に向かって派手に吹き飛んだ。
埃を撒き散らしながら、慎二がアスファルトの上を滑っていく。カラン、と音をたててナイフが地面に転がり落ちた。
「てめえ! そこで何してやがるっ!」
振るわれた拳と、怒りに満ちたその声は、慎二と同じ制服を着た少年のものだった。
「くっ! お前、誰だよっ! なんでここにいるんだよ!? ライダー!」
慎二は、殴られて激痛を発する頬を押さえながら、わめき散らすように自らのサーヴァントの名を呼んだ。
ジャ、と鎖の音とともに、ライダーが少年と慎二の間に姿を現す。その手には、釘のような形の金属が握られていた。
「ハ、ハハ……。ど、どうだ、泣いて謝るなら許してやらなくもないけど?」
「黙れ変態!」
少年は、慎二の言葉を一蹴した。そして、胸を張って名乗りを上げる。
「俺の名前は玖珂光太郎! 悪をぶっ飛ばす少年探偵!」

/一方その頃 了

くらいくらい闇の中に、一本の剣が浮かんでいた。
柄の部分に真っ赤な宝石の飾られた、短く真っ直ぐで綺麗な剣だった。
俺は、その剣に手を伸ばす。届くかな、届かないだろうな、そんな風に思いながら。
手は、もう少しで剣に届きそうだった。
だから、俺はもう少しだけ手を伸ばそうとして……。

「あだだだだだ!!?!?!」

悲鳴を上げて悶絶した。
「あがが……」
腕が痛みを発し、痛みに耐えるために体を丸めようとすれば腰が悲鳴を上げた。
全身がくまなく痛い。どこかを動かせば痛みが走り、その痛みに反応して体を動かせば別の場所が痛む。
「あー」
そんな訳だから、当然のように見た目の上からも、俺の体はひどいことになっていた。
シャツの下は包帯が占拠していた。血は止まっているようだが、白い布地には、どう見ても血痕であろう茶色い染みが浮き出ている。
手を見れば、指先まで包帯とガーゼが侵食しており、つんと、消毒液の臭いがした。

ミイラ。

そう、遠くエジプトに鎮座している四角錐の底辺りに安置されているアレが、今の俺の姿を言い表すのにちょうどいい模型だ。
ギッシギッシと、全身を軋ませながら、俺は何とか身を起こすことに成功した。周辺の景色は、見慣れた俺自身の部屋だった。
セイバーか遠坂か、あるいはアーチャー当たりが運んだのかもしれない。……アーチャーの背中にもたれかかる自分を想像したら、激しく気分が悪くなった。
「いて、あいてて……」
悲鳴を上げながらも、何とか立ちあがることはできたが、机の上の鏡に映った全身像はなんとも酷い姿である。藤ねえや桜には、ちょっと見せられない。
同じく机の上にあった時計は、昼過ぎを指し示している。デジタル時計の日付は、前に見たときと比べて一つしか変わっていないので、何日も寝込んでいたわけではないようだ。
俺は軋む体を励まし、喉が渇いていたこともあって、とりあえず居間へと向かった。
そして、妙に重い居間の戸を引くと……


我が家の居間では
1:金髪の美少女がまんじゅうの山を征服していた。
2:同級生がティータイム中だった。
3:なんか神父が昆布茶のんでる。


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最終更新:2008年01月27日 22:00