230 :Fate/式神の城 ◆v98fbZZkx.:2008/02/06(水) 00:49:39
我が家の居間では
→金髪の美少女がまんじゅうの山を征服していた。
居間の戸を抜けると、そこはまんじゅうの山だった。
ぴしゃと音をたてて、俺は開けたばかりの戸を閉ざした。ぐらぐらと眩暈がする。
落ち着け衛宮士郎。なに、驚くことはない。ちょっとまんじゅうが積んであるだけだ。キニスルナ。キニスルナ。
「――よし」
包帯とガーゼのまとわり突く指先を、額に当てて黙考すること十秒余。俺は掛け声を発すると、一気に引き戸を開ききった。
居間の戸を開けると、まんじゅう山は半壊していた。
崩れた。俺の体が。
へたり込む、って行為の模範的なやり方なんじゃないかと胸を張って言える。
さて、その原因は何か?
A:散らかった居間。
NOだ。居間が散らかっているのは、昨夜青いのが暴れたからであり、ある意味で当然である。
B:ごみ箱におさまった大量の紙。
近い。非常に近いが違う。アレはまんじゅうの包装紙で、まんじゅうが大量にあるのも、例によって藤ねえが持ち込んだからであり、驚くにはあたいしない。
C:―――――
ゴメン、親父。俺はもう限界です。
「もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ」
頑張っていた心が崩れた。途端に、耳が聞き取ることを拒絶していた音が、濁流のように鼓膜を叩く。
そして、この音の発生源(ぬし)こそが、俺をへたらせた原因であったり、なかったり。
繰り返すが、まんじゅうはいい。別にまんじゅう食って悪いことなど一つも無いと断言する。
だがしかし! 山と積まれたはずのまんじゅうを、金髪の西洋系超美少女が、もっきゅなどという奇妙な音とともに次々に食していく光景を見て脱力しない人間など、いるものか!
しかも、あろうことかその美少女様は一騎当千の英雄だったりするわけでして、俺のダメージ1.5倍(当社費)である。
だから
「……おはよう、セイバー」
観念して彼女に挨拶した俺の声が、微妙に疲れていたのは見逃して欲しい。
「体の具合はいいのですか?」
セイバーがそんなことを聞いてきたのは、俺が、彼女の食べっぷりに敬意を表しつつお茶をいれはじめた頃だった。
「痛みは残ってるけど、見ての通り動けないわけじゃないし、傷も塞がってるようだ」
「なるほど」
陶器の湯飲みにお茶を注ぎながら答えると、セイバーは目を細めてうなずいた。
どうでもいいけど、湯飲みが妙によく似合う。
「では、リンの言う通り、あの神父の神霊医療の腕は本物でしたか」
「は?」
なにかとんでもなく信じ難い、もとい信じたくない言葉が、セイバーの口から漏れた。
「あ、ああと、セイバーさん?」
「はい、なんでしょうか?」
「その、神父、言峰とか言ったりして……」
一縷の望みにすがるように、あの教会にもう一人神父様がいらっしゃいますようにとか、彼岸の親父殿に祈りながら、俺はセイバーに訴えるような視線を向けた。
「はい。コトミネキレイと名乗っていましたね」
セイバーは、ご丁寧にフルネームで答えてくれた。
途端に、自分の顔がひどく不機嫌になったのが分かる。
いや、もちろん、あの神父が医療系の魔術を使うことはすごく意外であり、実は呪いの間違いなんじゃ、とも思うのだが、どうにもこの気分は別の場所から出ている気がする。
簡単に言えば、アイツに礼を言いたくない。すごく言いたくない。頭を下げるなんてまっぴらだ。
そんな感じ。
さらに言えば、あの神父に感謝してる自分がいるのが嫌だ。すごく嫌だ。
「不満そうですね」
「あ、いや……」
気分が出た顔に気付いたのか、セイバーが声をかけてきた。
俺は慌てて顔をこすってごまかす。
セイバーは、心なしか笑っているように見えた。心が狭い人間に見られたようで、ちょっと悔しい。
「あ、ところで遠坂は?」
「リンですか」
話をそらしてやると、セイバーはあっさりと乗ってきた。実際遠坂の行方も、気になってはいる。
「夕刻には戻ると。何でも、ミク……いえ、ミコでしたか……それを迎えに行くそうですが」
「ミコ?」
ミコ。魔術関係で考えれば巫女だろう多分。
遠坂と巫女さん。あまり接点は無さそうだ。
「なんでまた、巫女なんだ?」
「私に聞かれても困りますが。……そうですね、彼女はミブヤのミコと言っていましたね」
「ミブヤねぇ」
まったく聞き覚えが無い。ミブ。壬生と言うと京都のほうだろうか? 考えても、答えは出そうに無い。
そうだな、とりあえず―――。
「シロウ?」
俺がゆっくり立ち上がると、セイバーは俺を見上げて首を傾げた。
「いや、セイバーの食べっぷりを見てたらおなか空いてさ。何か作ろうかな、と」
照れくさいので、頭をかきながら答えた。
セイバーは、無言。
いや
「ほう」
小さく呟くように、セイバーの口から声が漏れて、なぜかその瞳が俺を射止めた。
あれ?
それからのことは、よく覚えていない。気付いたら、俺は再び部屋で寝ていた。
―――腕が痛くて動かない。
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最終更新:2008年10月25日 16:23