574 :遠坂桜 ◆0ABGok2Fgo:2008/01/12(土) 18:00:53
――へえ、結構いいお尻してるじゃない。
目の前にある後ろ姿に、桜はそんな感想を抱いた。まるっきり助平親父の台詞だった。ただし主体と対象の性別は入れ替わっている。
歳若い衛宮士郎の体はまだ出来上がっていなかった。それでも、その肉体はなかなかのものだ。
上半身には引き締まった筋肉がつき、下半身もがっちりとしている。
中でも特筆すべきは尻だろう。ギュっと締まっていて、キュッと上がっている。矯正用下着でも着けているのではと疑ったほどだ。
若い男は得てして腹筋や力こぶばかり自慢したがるが、桜から言わせれば尻を忘れている連中は失笑に付されるものでしかない。どれだけの筋肉の持ち主でも、尻がブタのようでは美しい肉体と言えないのだ。
桜は人型の使い魔を作った経験から、それをよく理解していた。腹部から腰部の美しさは腹筋のみならず、尻が多くを占めている。競馬だって馬の尻を見れば大体の予想がつくほど尻は大事なのだ。
それにしても、かなりのデザインだった。観察すればするほど桜は感心した。美術部は士郎の尻をモデルにして彫刻を作るべきだろう。
「すごいなあ……」
桜は呟き、しゃがみ込んだ。士郎の記憶操作は後回しだ。これほどの尻を生で拝む機会はそうあるものではない。
下から尻を見上げ、桜はさらに唸った。
やや硬質ではあるが、欠点らしい欠点が見当たらない。この尻にもっと早く出逢っていれば、使い魔のデザインは容易だったに違いない。
マネキン、近所の美術館の彫刻、そのテ向けの写真集。桜もそれなりの研究はしたつもりだった。
だがこんな身近に黄金の尻の持ち主がいようとは想像だにしなかった。こうなっては桜は自身の不明を恥じるのみである。
ところで、異性の下半身を凝視しながら、桜の脳みそはまるで欲情はしていなかった。人型使い魔のデザインに劣等感を持っているために、単純に士郎の尻に感心していたのである。
その研究心から士郎の尻を様々な角度で精査し、桜は結論を下した。
これはよもや生来の素質だけではあるまい。絶え間ない鍛錬と摂生が絶品の尻を生んだのだろう。
だとすれば衛宮士郎とは大した男である。弓道部のエースの一人にして、さらに奉仕活動を絶えず行い、その上にこの尻とは。
さすがにあの一成が唯一の友とするだけの男だった、ということだろう。
「う~ん、本当にすごいなあ」
「……何がすごいんだ?」
声に応えて桜は仰いだ。
士郎の目は自分の下半身を眺める桜をばっちりと捉えていた。その表情は困っているというよりも不審の色が強い。
世界の人口のどのくらいが自分の尻をまじまじと観察されたことがあるのか判らない。中には強い嫌悪を覚える人もいるのだろう。
だが士郎の嫌悪感は少々行き過ぎだ、と桜は思った。
「とりあえず、離れてくれるか?」
桜は素直に従った。
しかし士郎の眼差しは氷のように冷たいままだった。
痴漢に間違われた人っていうのはこんな気持ちなんだろう。桜はそんなことを考えていた。
さて、どうしたものだろうか。
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最終更新:2008年01月27日 22:34