725 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/01/18(金) 23:40:49


 人生には往々として選択肢が付きまとうものである。
 たとえばある問題に直面したとき、人は自分がどうするかを選ぶことができる。
 まずはその問題を放置するか、それとも解決に向けて取り組むか。
 あるいはさらにややこしくするか、果てまた両断するか。
 ただいずれにしても、選ばないという選択肢はありえない。
 選べずとも時間は過ぎ、状況は変化する。時間は冷凍保存できないのだ。
 なればこそ、この物語の主人公は本来と異なる道筋を歩む。
 さて、簡潔にその道筋の下地を述べてしまおう。

 遠野志貴は『事故』に遭い、その両眼に死を映し――

 しかし遠野志貴は恐れ竦み、病室から抜け出すことができず――

 魔法使いと遭遇できずに、そのまま退院する――

 ――これから紡がれるのは、そこから派生する物語である。

◇◇◇


◇◇◇

 その部屋に光は差さない。
 窓は厚ぼったいカーテンで覆われ、さらにその上からダンボールが張り付けられている。
 蛍光灯などの光源はあるのかもしれないが、すでに何年も使用されていない。未だ使用に耐えるのかは疑問であった。
 そういった理由で、部屋の中は暗かった。控えめにいって、居住するのに支障が出る程度には。
 だがこの部屋の主はすでに八年、この中で暮らしていた。
 外に出るのは夜中に一度だけ。一日のほとんどを寝てすごすのでトイレや食事はその一度で済む。
 家人は朝起きて、テーブルの上に乗った食事が空っぽになっているのを確認することで彼の生存を知るのである。

 そんな生活が八年続いた。そして今、その生活は転機を迎えようとしている。
 コンコン、と控えめに部屋の扉がノックされる。
 志貴は寝台の上で目を硬く閉じていた。だが、深くまどろんでいたわけではない。
 すぐに意識を覚醒させ、硬く目を瞑った上で布団を頭からかぶる。
 もしも扉が開いても、光を見ないようにするためである。
 誰何の声はかけなかった。この家でこの部屋のこのドアをノックするのは、すでにひとりだけだ。
 ノックの主は――

【選択肢】
赤:都古だ。
紅:秋葉だ。


投票結果


赤:5
紅:2

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最終更新:2008年01月27日 22:47