628 :エルメロイ物語 ◆M14FoGRRQI:2008/01/15(火) 03:27:44
アルバさんが変なおっさんにさらわれて早二時間―、
おっさんの足は異様に速くというか僕が遅く、1アルバ分のハンデがあるにも関わらず
追いつけずに見失ってしまい、荒耶さんからもらったお金は日本円のみなのでタクシー
に乗る持ち合わせもなく、僕が例え追いついたとしても何が出来るのかと半分あきらめ
ながら、それでも時計塔へと歩き続けて到着までに掛かった時間が三十分―、
それじゃあ差分の一時間三十分で僕は何をしているのかと言うと、
「パスタうめー」
正門の前で僕が来るのを待っていたルームメイトに学食のパスタを奢られていたのである。
こいつの事は嫌いだがタダで食べるパスタはうまい。アルバさん?どうせ無事でしょ。
「とりあえず生還おめでとう。うまいかウェイバー?」
「ああ。学食のパスタは最高だね。奢りだからさらにうまい」
6皿目のパスタを注文しにいきテーブルの上に置く。学食だからもちろんセルフサービスだ。
「食いながらでいい、話を聞いてくれ」
「ヒジュラにはならんぞ」
こいつ―、インドから来たマリアンヌ・ダグラス・チャダはヒジュラというインドの
ニューハーフのたかり屋集団のボスの息子で、こいつが僕にパスタを奢る時は必ず
一緒にインドで仕事をしないかという誘いが来るのだ。
失礼な話だ、僕のどこをどうみれば女装が似合うと思っているのだろうか。
何ヶ月も共同生活していてそんな事も分からないのか。大体こいつ自身、
顔とか体とかのっぺりしていて、しゃべり方も全然女らしくない。服も普通に男物だし。
「お前を部族に加えたいのは今も変わらんが今回はその話じゃあない」
「ぽえ?」
「いいニュースと悪いニュースがある」
「じゃあ、定石通りに悪い方から聞こうじゃないか」
「悪いニュースというのはだな、お前はまだここの学生だという事実だ。
お前がロード・エルメロイに対して行った数々の仕打ち、にもかかわらず学籍は
失われていない。これはつまりどういうことか―」
「僕の行った行動自体は魔術師として採り得る自己防衛手段としては妥当だったから?」
思った通りの事を口にする。確かに触媒を盗んだ事は不味いなと今は思うけど、
ライダー抜きで僕があのバケモノ軍団を相手に生き残れただろうか、いや無理。
だったら退学通知が来なかったのは聖杯戦争を生き延びた功績とでプラマイゼロになった
からだろう。死ねば自業自得、生きてれば調査対象として囲い込む、時計塔のトップ達
が下した決断はそんな所ではないか。
そう思っていたのだが、チャダの考えは違っていたようだ。
「時計塔全体としてはそういう考えかもしれない。が、エルメロイ派の考えは
多分違うな。奴らはこう考えているのさ。権力を用いてお前を除籍したら、お前に
対する罰はそこで終わってしまうと。
おそらくエルメロイ派は指導者という立場を隠れ蓑にしてロード・エルメロイを失った
恨みを最悪の形でお前にぶつけようとしているのではないかと俺は考えている。
その証拠に、学園運営者がお前に何の処分も下していないのに対してエルメロイ派が
大人しすぎる」
言葉を失った。そんな手もあったかと感心すると同時に心の芯まで絶望が染み渡る。
『あの』ロード・エルメロイの保護者集団がこれからネチネチと僕をいたぶり続けると
いう未来、ちょっと想像してみる。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「指が壊死するまで謝罪文を書く人生なんてまっぴらだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「落ち着けウェイバー」
「これが落ち着いていられたらちゃれば!お前にとっては他人事だば、僕にとったは
自分事らっちゃれ!」
「良いニュースもあると言ったはずだ。良いニュースとはお前をエルメロイ派の悪意から
救う方法だ」
「あるのそんなのー!?」
「ああ、二つ方法がある。一つは俺と共にインドで―」
「ふざけるな」
「おいまて、話はまだ―」
「聞く気はない、いいかげんにしろ!でもパスタはおごれ!!」
結局いつもの話じゃないか。何のことはない、チャダは僕の不安を煽ってまで
僕をヒジュラの仲間にしようとしているだけの話じゃないか。
心配して損した。大体、大の大人が僕の様な一学生に対してそこまで本気になる訳ない
じゃないか。
とりあえず溜まったストレスを解消するためパスタをもう一皿頼みに行く。
もちろん代金はチャダ持ちだ。
「「すみませーん。ナポリタンもう一つお願いしまーす」」
同時に注文しに来た人と声が被ってしまった。こういう時ってちょいっと照れるよね。
思わず苦笑いをしながら横の人を見る。
「「お、お前はー!」」
何と相手はアルバさんをさらった変なおっさんだった!
「よくも騙してくれたな!とりあえず一発殴らせろー!」
そう言いおっさんはこちらに向かって拳を振り上げる。大の大人が学生相手に本気だ!
ピンピンチ!
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最終更新:2008年01月27日 23:19