665 :エルメロイ物語 ◆M14FoGRRQI:2008/01/17(木) 12:27:37
おっさんの拳が振り下ろされる。
やられる!そう思った。だが、
「永劫の怠惰を求めし寂寞の巨人よ…、その痛みを解き放て!」
拳が止まった。いや、おっさん全体の動きが止まる。
見ると、おっさんの下半身にセメントの様な物が張り付き体の自由を奪っている。
僕はこの魔術を詠唱した人を知っている。そう、今学食の入り口に立って印を結んでいる
男、明らかにこの時計塔にそぐわないオレンジ色の着物を着た白髪白髭のこの男こそ
時計塔内の治安を守る男。僕は彼に駆け寄り彼の名を本名ではなく、かつて知れ渡った
リングネームで呼ぶ。
「ありがとう、ちょっちゅねエダブエ!!」
「礼にはおよばん。あぶないから離れていなさい」
「はい!!」
僕は席に戻って奢りでパスタを食べる作業にもどる。
するとすかさずチャダがこちらに話しかけてきた。
「なあ、ウェイバー。あの中年は何でお前を殴ろうとしていたんだ?」
「そんなの分からないよ。むしろ、最初に会った時の関係から言うとこっちがあいつを
殴りたいぐらいだ」
でもその必要ももうない。あのおっさんはこれからエダブエさんにフルボッコにされる
からだ。
「さて、お前がなぜそこの青年を殴ろうとしていたかは私の知る所ではない。
が、学食は皆の場所だ。暴力を振るう場にするのはいけない」
「そんなの知るかぁ!俺を騙した相手にしかえしに一発殴る事の何が悪い!!」
「私は時と場合によると言っているのだ。例えば、小学生の姪が仕事の終わった後に
遊びに来たので学食へ案内してみれば何やら修羅場が始まっていたらお前も気分が
悪いだろう?」
「あー、ようするにえらそうな事いっちゃあいるが、お前も結局はなんかムカつくから
という理由で俺に喧嘩売っているのか?」
「実はそうだ。で今お前の右足をがっちり掴んでいるのが私の姪」
「ハッ、そんなベタな嘘に引っかかるとでも…なにぃ!!」
おっさんの右足、すでに足止めに使われたセメント状のものはとっくにはがれては
いたがその代わりにいつのまにか本当に少女が絡みついていた。
青い服を着たすんごいドリルヘアーの子供がおっさんに向かってにぱーと笑っている。
こりゃあもう勝負はついたな。
「ルヴィア、ヒザ十字固めだ」
「了解ですわ!!」
エダブエさんの合図に従い少女がおっさんの足首を両手で引っ張る。
どでんっ!!
テコの原理でうつ伏せにひっくり返りおっさんは頭から床に落ちる。
もちろん、攻撃はまだ終わらない。グラウンドになった状態からさらに間接を攻められる。
ミチミチとヒザの靭帯が軋む音が学食に響き渡る。
「ぐぎゃああああ!!!!!!!」
40代前後のおっさんが10歳に満たない女の子の関節技を外せずに本気で痛がっている。
はたから見ればこれほどおかしな光景もない。だが、完璧に決まった関節技には力の差
など関係ない。魔術でも使わない限り関節が壊れるか掛けた側が自分から外すまで決して
外れる事はないと本で読んだことがある。
つまり、この後起こった事は魔術だったのかも知れない。
「痛えぇぇぇぇ!!だが、だがなあ、この程度筋肉で補う!!」
そういい、おっさんは関節技が決まったまま普通に立ち上がろうとしていたのだ!!
無論ヒザ十字をそのままにしていれば足のダメージは蓄積され続ける。
靭帯が痛めば人は歩行できない。でもおっさんは立ち上がった。
驚きに目を見開く少女をぶらさげたまんまエダブエさんに向かって突撃していったのである。
「何で俺がこんな目にあわなきゃいけないか知らんがぁ、とりあえず喰らえー!!」
おっさんは僕にやろうとしていたのと同様にパンチを打つ。
が、おっさんの反撃はここまでだった。運動神経ゼロの僕にはともかく、あんな大振りの
パンチが元時計塔プロレスチャンピョンにそうそう当たるものか。
パンチを軽々とかいくぐりつつ左足をがっちりとホールド。
こ、この体勢はまさか伝説の!!
「おい、チャダ今から僕の言う通りにするんだ」
「突然なんだ」
_, ,_ ∩
( ゚∀゚)彡 えー! で右腕をこうあげて
_, ,_
( ゚∀゚) でる! でこう下げる。
⊂彡
「????」
「いいから僕に続いてやるんだ。これはこれから発動する必殺技を見る時の観客の義務
みたいなものだかな」
僕はテーブルの上に立ち先導役となる。
「えーでる!えーでる!えーでる!えーでる!」
やがてチャダが立ち上がり、それをきっかけに学食内の皆も次々と立ち上がり僕に続く。
「えーでる!えーでる!助けてえーでる!えーでる!えーでる!ウワァァン!」
観客からのパワーを受けた二人はゆっくりとおっさんを持ち上げていく。
だが、まだ高さが足りない。ここから先は僕たちがさらなるパワーを送らねばならない。
「みんなー、もっと気合いれろー!」
「オー!!!」
「えーでるえーでるはーやくきてよ、えーでるえーでるたすけにきてよ」
「えーでる!えーでる!」
学食内は完全に一つになった。学食のおばちゃんまでもがシャモジを振り回しエールを
送っている。そのパワーを受けエダブエさんと姪っ子はさらにおっさんを持ち上げていく。
そして、ついにこれ以上持ち上げられない高さにまで来た所でいったん姿勢を完全に
固める。おっさんはすっかりあきらめきった顔で、もーどうにでもしてくれといった風だった。
「えーでる!えーでる!助けてえーでる!えーでる!えーでる!助けてよ!」
さあ、クライマックスだ。二人が呼吸を整え投げの準備をする。
「なあルヴィア、プロレスは楽しいだろ?」
「もちろんですわ叔父様」
「では決めるぞ。タイミングを合わせるんだ」
二人はゆっくりと倒れこんでいきながら技名を叫ぶ。
「二身!」
「合体!」
「「エーデルフェルトドロッッッッッップ!!!!!!!!!!!!!」」
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最終更新:2008年01月27日 23:20