906 :エルメロイ物語 ◆M14FoGRRQI:2008/01/24(木) 11:28:37


「ここに来る前夜俺は族長から一つの話を聞いた。もし、俺の隣人となる男に災いが
降りかかった時は助けてやるようにと」
「ほーほー」

僕は今ベッドに腰掛けてチャダの話を聞いている。
張り紙とオッサンのおかげですげーピンチな現状に今更ながら気付いた僕は、このまま
バカ正直にエルメロイ派に謝りにいくのは自殺行為だと考え、ひとまずアルバさんや
プロレスの事は頭の隅においやり自分の人生を守り抜く事に全力を注ぐ事にした。
その為にはインド人の手も借りなければ。

「最初に言っておく。これはいわゆる預言の話だ。族長が俺に語った起こるべき未来の
一つの形。いきなりこんな事言われてもうさんくさいだろう?だが、族長の言った通り
親しき友人となったお前に大きな危機が訪れてしまっている。なあウェイバー、お前は
俺と一緒にインドに逃げてヒジュラになるのとこの困難に打ち勝って時計塔内で堂々と
就職口を探すのとではどっちがいい?」
「んなもん後の方に決まってる。後、さりげなく親しき友人とか言うな」

少し眠くなってきた僕はベッドに潜り顔だけを出して返事をする。

「俺はお前ならいいヒジュラになれると思ったんだがな、ちょっと残念だ。
まあいい、これも我が友ウェイバーの為、そして族長の教えに従う為だ。
話の続きをしよう。…おい、起きてるかウェイバー?」
「ん、んなー、ね、寝てませんよ?話きーてますよ?」

まずい、ベッドに入った途端昨日飛行機の中で一睡もしていないツケが一気に来た。
加えて何やら長く退屈になりそうなチャダの話。くそっ、こらえるんだ僕!!
こういう時は究極技『顔の半分だけ寝てもう半分で起きる』だ!!

「族長はこう言っていた。『我が娘マリアンヌよ。お前はロンドンで一人の友に出会う
でしょう。そして、もしその子がロンドンで大きな変革に巻き込まれた時はお前が
傍に付いていてあげなさい。さすればゲミ・ラマンの導きによりその子は救われる
でしょう。あ、後ロンドンで可愛い男の子を見つけたらスカウトしてきなさい』と」
「げみらまん?何それ」

なんか、発音がエミヤーマンを連想させてちょっと嫌だなと思った。

「赤き衣白き髪のゲミ・ラマン。小さい頃から族長に聞かされていた御伽噺の主人公だ。
ある所に一人の欲深い少年がいた。少年は自分の知りうる全ての人間が安全と平和の内に
暮らしていかないといけないという考えを持っていた。だが、少年が成長し大人になり
世界の広さを知った。自分の知らない場所で不幸な人間が沢山いる事を知ってしまった。
普通の人間なら、あきらめるか、あるいは世界平和を夢見ながらも自分の手の届く範囲で
だけ人助けをしていこうとするだろう。だがこの話の主人公は恐怖の中で暮らしている
人がいると言う事実に対して押さえが効かなかった。人を救う行為に貪欲であった彼は
安定した仕事も故郷にいる大切な人も自分の健康と安全すらも捨て去り、一人でも多くの
人を救おうと走り続けていた。だが、個人の力には限界がある。彼の努力も空しくついに
とある町で彼は人々を救えぬまま戦場で散ろうとしていた。ところがその様子をずっと
見ていた者がいる、天にいる世界の創造者だ。創造者は死にゆく彼に語りかけた。
『その魂を私に捧げよ、その代わりに不滅の体をやろう。お前は永遠に世界の為に
奉仕する事が出来るのだ。』
そして、世界の平和を愛した一人の男は超人ゲミ・ラマンとなり時代を越えて世界の
危機に現れ人々を今日も救っているのだ。という話」
「それで終わりか?」
「ああ」

何か色々とムカついてきた。
まず話が長い。そして意味がない。預言だとか言っても結局は二人で頑張れば神様が
助けてくれますよっていう程度の話じゃないか。第一、僕を助けたいというのなら何で、
何でっ、

「何でお前は聖杯戦争の時は助けてくれなかったんだよ!あの時僕がどれだけ辛かった
と思っているんだ。一番やばい時期に無視したくせにいまさら僕を助けたいとか言うな!」
「預言にはロンドンでの友の危機とあったので日本での出来事に手を貸す必要はないと
判断させてもらった。それに、仮に俺があの時手を貸していたらそれをきっかけに
ケイネス講師の方に他の学生が援護に向かい、結果いらぬ死者が多数でる恐れがあったし、
そのような事になれば日本の魔術師の時計塔への心証も悪くなるだろう。そしてお前への
処罰もより重いものになると考えられる」

うわー、こいつ僕が必死な声でわめいてるにもかかわらず冷静に即答しやがったよ。
こいつのこういう空気読めない所とかいつも表情を変えずロボット見たいに話す所が
嫌いなんだよ。
もーやだ、寝る。不貞寝するぞ。所詮僕の味方は僕自身オンリーなんだ。

「チャダ、もう僕はお前には何も期待しない。だから二度と僕に話しかけないでくれ。
それと、復学の届けをした後6限目ぐらいには授業に出ようと思うから2時頃に起こして」
「分かった。何かあったらいつでも相談に乗るからな。それじゃあちょっと外に行って
くる」
「何しに行くんだ」
「外の張り紙を片付けてくるだけだ。やっぱりあのままじゃあ気分悪いからな」
「そうか、それじゃあ2時に」
「ああ、ところでやっぱりインドには」
「いかん!」
「でもなあ、お前にはぜひ」
「くどい!もう僕にその話は禁止!!罰として夕飯も奢ってもらうぞ」

チャダに最後通告をした後、頭まで布団をすっぽりと被って眠りに付く。
ドアの開閉する音の後、しばらくして意識は完全に夢の中へ。
この時僕はこれがチャダとの最後の会話になるなんて思いもしなかった。

【人物紹介9 族長】
ヒジュラの里の族長であり、チャダの育ての親でもある。
夢見の才能に恵まれており、幼いころから世界の危機、そして抑止力の働く姿を夢に
見ていた。その夢を元に『ゲミ・ラマン』の物語を創作し、若いヒジュラ達に
聞かせるのが趣味。
ただしヒジュラという組織が閉鎖的であり魔術師としての学が得られなかった為、
自分の夢で得た知識を利用し魔術師として大成する事はできなかった。
その事を後悔し現在は外部との交流を視野に入れた活動も行い始めている。

【選べット】さあ、目指せハッピーエンド
鬼隠し編:消えたルームメイト【視点:アルバ】
綿流し編:消えたルームメイト【視点:エミヤ】
祟殺し編:最悪の会議【視点:サラ】
暇潰し編:俺様会議室へ戻る【視点:ケーン】


投票結果


鬼隠し編:0
綿流し編:5
祟殺し編:2
暇潰し編:0

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最終更新:2008年01月27日 23:27