155 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/01/03(木) 03:30:36


前スレで投票してくださった皆様方、本当にありがとうございましたo( _ _ )o
個人的に背水の陣で構えていましたので、この結果は本当に嬉しいです。
Ⅲに2票入っていたのが残念ではありますが(1票はネタですよね?;)よりいっそう精進いたします。

 ――逃げよう。
 闇の中に聳え立つ巨身は人の姿こそしていれど、俺には一等の怪物にしか見えない。
 所詮人間の範疇に収まりきっている俺に勝ち目などないのだ。
 早々に見切りをつけて練成された螺旋剣を分解し、構えた身体を180度回転させる。そして、後ろに控えていた熊の子どもと目が合った。

「――――……」
「兄ちゃん?」

 自分のことしか考えていなかった己に舌打ちする。贖罪の意味も兼ねて子どもの腰に手を伸ばし、一息に脇に抱え込んだ。そして――走る。
 傍らのグンパが何か叫んでいたが一々聞き届ける余裕なんてあろう筈がない。ありったけの魔力を足に流し込み、ハードル走者並の歩幅で前へと進んだ。
 果たして何分走っていたのか。
 子どもを抱えて逃げるという姿に意外な既視感を感じて我に返れば、俺達は外門の前にまで来ていた。後ろを確認して追ってくる者がいないことに安堵し、抱えていたグンパを地に降ろす。彼の顔は何故だかいやに大人びていた。

「――――怖かった?」
「…………」
「安心していいよ。彼はザイド。暗黒剣の使い手さ。敵じゃないし、無用な殺戮は好まない頼もしい奴だよ」
「暗黒、剣……」
「うん。人の悪しき感情から生まれ出るモノ……業を剣にのせて戦う剣士。闇を敢えて肯定することにより絶大な力を発揮するんだけど……反面、闇が己を傷つけることをも厭わぬ修羅の剣。元はガルカ族に伝わる己の業と向き合う生き方の教示を、ジョブとして世に浸透させた人物がザイドさ。その名を暗黒騎士と呼ばれている」
「暗黒騎士……」

 己に宿る闇を肯定……。即ちそれは自らの罪悪を認めるということ。
 そんな生き方正気じゃない。狂っている。
 人は悪を否定しようと日々もがいて生きているからこそ、自らの存在意義を確立できるのだ。悪ぶっている奴だって、果たして自身の行いの悪性に面と向かって立ち合えるだろうか?
 勇気の問題ではない。自らの醜さ、愚かさを直視し続ける……。思えば言峰もそうやって生きてきたのではないか? しかしそんな生き方、俺にはできない……。

「怖いんだな、暗黒剣ってのは。やっぱり逃げてきて正解だったかもしれない」
「ハハ、最初にちゃんと紹介しとけば良かったね。せっかく静かにお話できると思っていたのに、兄ちゃんを驚かせちゃって」

 体表を濡らしていた汗が冷め、ひやりとした不気味さが肩から背中にかけて走る。暗黒騎士についての話はそろそろやめておこう。
 またグンパの家に戻るのも躊躇いを覚え、どうしたものかと広場を歩いていた時、明後日の方角から誰かがこちらに向かって駆けて寄って来る姿が目に入った。誰だろうかと鷹の目を持って観察するも、夕暮れの紅が背となってよく見えない。
 仕方ないのでしばらく正体不明の人影を待っていれば、徐々に影に色が差し始め、遂にはハッキリとした輪郭と目鼻を確認するまでに到った。そしてその姿は俺の知っている人物の一人だった。思わず姿勢を正し、相手と面と向かう。相手は息を乱して背中を丸め、呼吸を整えていた。

「コーネリアさん! どうしてここに…………いや、お久しぶり! 元気だった?」

 俺の言葉により彼女は丸めた背を戻し、目の前まで歩み寄ってきた。半身を上げた反動で長い髪が波のようにはためく。

「ハァ、ハァ……お久しぶり、シロウさん。貴方も元気そうでホッとしたわ。……ところでバクヤちゃんは?」
「莫邪、は……」

 答えられない。答えられる訳がない。
 自分の無力さに憤慨し、奥歯を噛み締める。例え俺がサーヴァント並に強くなっていたとしても、あの脅威に立ち向かえたかは怪しい。
 だが天と地ほどの圧倒的実力差があっても、俺は自分が救われる言い訳なんてしたくなかった。
 今更後悔したところで意味はない。しかし少女のことを思えばいくら後悔してもし足りないほどの罪悪を感じられずにはいられないのだ。
 自然と浮かんだ無念の表情で察してくれたのか、コーネリアさんはそれ以上莫邪のことに関して触れようとはしなかった。

「ごめんなさい、フランツィスカが失礼を働いたみたいで。私看病に付きっ切りで気付けなくて。とにかく改めてお家にご招待します。さ、グンパも来るでしょう?」
「いや、僕は遠慮しとくよ。今兄ちゃんとは別に客人を待たせていてさ、これ以上待たすのも悪いし僕はこれで失礼するよ。じゃ、兄ちゃんまたね」

 手を振りながら別れを告げる。今度は再会の約束を忘れずに結んで。

「……いつもあの子は遠慮ばかり。自分はガルカだからヒュームの家に招かれるのはよくないって……。私、納得できない、こんなこと……」
「コーネリアさん? えと、さっきから気になっていたんだけど、ガルカとヒュームって仲が悪かったりするの? 久しぶりのバストゥークなのに、俺戸惑いっぱなしで……」

 彼女は俯いていた顔を上げ、こちらの肩を掴みながら真っ直ぐな瞳で凝視する。そして静かな必死さを含めた口調で訴えてきた。普段と比べて強引な様に、頭の中が掻き乱される。

「この国は……バストゥークは間違っている。ここは私達ヒュームが経理や運営を担当して、力仕事に優れたガルカが重労働を担当しているのね。お互いが頑張ってるから成り立っているのに……感謝すべきなのに……なのに、ヒュームのみんなはガルカをぞんざいに扱って自分達は……。そんな差別、私は許せない」
「そう、なんだ?」
「そうなの! 聞いてよ信じられる!? ヒュームのみんなはね、ガルカに本来ある名前が呼びづらいってだけの理由で、自分達で勝手に名前を定めちゃってるの。冒涜よ! 人を何だと思っているんだか!」
「ふむ……」
「生活レベルだってはっきりとした差が出来ているわ。……どうにかして変えたいの。この国の嫌な部分を捨てて、皆が平等に笑いあえる体制にしたい。今のバストゥークがどうしても好きになれないの」

 鉱山区で出会ったガルカの乱暴な態度にようやく合点がいった。あれは自分達にろくな扱いをしないヒュームに怒っていたのだ。
 差別、か……。まさかヴァナ・ディールにもそんなものが存在しているとは、軽い失望を覚えざるを得なかった。
 元いた世界にも肌の色の違いや職業の違いで存在している差別がある。大抵が不条理な理由で起こっており、俺だってそうそう許せるものだとは思っていない。過去、切嗣も新聞でそういう記事を読んで憤慨していた記憶がある。誰だってできるものなら解決したいのだ。
 ――もう決意は固まっていた。握りこぶしを作っている彼女の手を取り、今度はこちらがコーネリアさんの瞳をじっと見つめる。どうにか自らの覚悟が伝わって欲しいと信じて。

「コーネリアさん! なら変えよう! どうするかは全然わからないけど、一人でやるより二人の方が心強いだろ? 徐々にでも変えていく努力をしていこう!」
「は、はい」

 キラキラ光る瞳をキッと見つめる。どうしてか朱色に染まった頬にはときめいてしまうが、それはそれ。無理矢理頭の隅の方へと追いやる。

「と、とにかくっ! 日も暮れてきましたし早く私の部屋に行きましょう!」
「へ、へへへへ、部屋っ!?」
「バカッ! ヘンな想像しないで!!」


 ――――――――――。


「えっと、ここ、です。フランツィスカ、いる?」
「はい、お嬢様。……あら、貴方は昼間の。おやまあ、その真っ赤に腫れた頬はどうなさいましたか?」
「は、ははは……へぁはっ」

 おばさんの冷たい手が労わるように頬を撫でてくれた。ひんやりとした感触が本当に気持ちいい。初対面の時は冷たいイメージだったが、実は結構いい人なのかもしれない。

「お客さんが来たから。おもてなしの用意をお願いね」
「? あの、よろしいので?」
「いいの。お願い」
「かしこまりました、お嬢様」

 案内されて扉を潜った先に、質素ではあるが落ち着きのある内装の部屋へ通される。いかにも女の子らしい、ぬいぐるみがたくさんあるような部屋を想像していただけに、これはフェイントの効いた出来事である。

「お邪魔します。そこの椅子、いいかな?」
「は、はい。どうぞご遠慮なく」

 二人しておどおどしながら席につく。話したいことはたくさんあった筈なのに、言いたいことが口から出てこない。あんな勘違い、最低だよなぁ……。
 そのまま段々時間が過ぎていき、赤く輝いていた日が沈みつつあった。
 ……いかん。このままでは、いかん。
 微妙な空気から仕切りなおすべく、ちょっと外の空気を吸ってこよう。

「あの、トイレ借りてもいいかな?」
「あ、はい。部屋から真っ直ぐ出て突き当たり、です」

 息苦しかった部屋を抜け出し、長い廊下を進む。
 まったく、どうしたらいいものか。慎二の奴なら女の扱いに困らないだろうし、名案が浮かんできたり……いや、逆ギレして終わりそうな気がする。
 とにかく何事もなくスルーするか、思い切って謝るべきか。大事なのはこの二つだろう。というかこれ以外思い浮かばん。
 長い廊下を進んでいく最中、ふと扉が開けっ放しの部屋が目に付いた。覗くのは失礼だと自覚してはいたが、つい目が中の様子を探ってしまう。そして――――。

「……………………え」

 流れる髪は銀の煌き。薄っすらと輪郭がぼやけて見える程に透明な白い肌。
 思えば俺はずっと彼女を探していた。首に巻かれた赤い聖骸布を返すため。彼女の安全を確保するため。
 長かった――。
 よもやこれほどの時を費やしてようやく得ることができるだなんて。
 叫ぼう、探し人だった人の名を。ありったけの愛を込めて。

「――――カレンっ!!」



Ⅰ:カレンはぐっすり眠っていた
Ⅱ:カレンはこちらを睨んでいた


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Ⅰ:5
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最終更新:2008年01月27日 23:34