360 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/01/05(土) 03:30:36
「――よし!」
もう決意は固まっていた。
今彼女は衰弱しており、尚且つそれを救う手段が残されてあるというのに、その道を辿らない道理が果たしてあるであろうか。
今も調査を続けているバタコや、チョコボに乗る努力をしている巻菜を放って出掛けるというのはさすがに気が引けたが、もはや彼女らを待つ時間すら惜しい。一刻も早くカレンからこの苦痛を取り除いてあげたい。
「フランツィスカさん、ちょっと伝言を頼まれてくれないかな? この街でバタコってタルタルが歩き回っている筈なんだけどさ、そいつに俺がサンドリア王国へ向かう旨を教えといてくれないか。あと、巻菜っていうヒュームにも同様に伝えといて欲しい」
「バタコさんにマキナさんですね。それは構いませんが……あの、まさか今から行くので? もう夜になりますが……」
「もちろん! ……それとコーネリアさんにも俺が出て行くことを伝えといてくれ。話の途中で席をたったものだから、心配してはいけないし」
玄関先に預けておいた鞄を覗き、矢の本数と薬の数を確認する。きちんと毒消しも持ったことだし、ある程度の事態には対応できる筈だ。
「お気をつけください。夜の魔物は総じて強いものと相場は決まっておりますので」
「うん、ありがとう。それじゃ頼んだよ」
確固たる決意を胸に秘め、向かう先は最速を誇るチョコボ厩舎。慣れる慣れないなど言っている暇などない。多少の震動など覚悟の上で、チョコボに跨りバストゥークを後にした。
周囲を見渡せば、荒野は深い闇の世界。街の中では案外気付けなかったが、今の時間帯はしっかりと夜を迎えていたのだ。
夜の世界は魔物の世界。緊張を促す汗が、一滴頬を垂れた。
「急ごう。それでもチョコボで走れば追いつける獣人がいないというのは実証済みだ。頼んだぞ、お前!」
「クェッ!」
威勢の良い鳴き声が響き、おかげで景気付けられた所で速度を一気にトップスピードまで持っていく。二回目ともなれば慣れたもので、体にかかる負担を自然と減らす術が知らぬ間に身に付けられていた。
駆ける。
荒れた大地にチョコボの屈強な鉤爪が刻まれ、石の硬さを有していた土を削り飛ばす。風を切る音が耳につんざき、微小な羽虫が顔に打ち当たっていく。
だがまだだ。これじゃ遅い。
揺れる下半身をぎっちり引き締め、更なる速度を促すべく手綱を振り払う。それに比例して上下に巻き起こる震動も幅を強めていくが、もうその頃にはむしろ心地よさすら感じるようになっていた。
荒地から高地を抜け。いつか少女と通った砂丘を越えて高原へ入り。それさえも過ぎた先には静かな森が広がっていた。走りに走った足を止めさせ一里先を仰ぎ見れば、夜空の中に壮大な城の偉観が構えていた。サンドリア王国の到着である。
俺の身勝手な意思に応えてくれたチョコボは己の限界まで頑張ってくれたらしく、息が切れ切れという有体であった。彼には本当に感謝せねばなるまい。
「ごめんな……。でもお前の助けでこんなに早く着くことができたよ。可能ならば好物のギザールの野菜でも食わしてやりたかったけど、持ってないんだ……。すまん」
「グ、グエ……」
褒美なしという事実に相当落胆したらしく、がっくりと首を撫で下ろす。その反応を見ているとやはり申し訳なさで一杯になり、次こそは野菜を常備しておかないと、と肝に銘じるのだった。
そうして城の前まで駆け寄り、褒美がない代わりに優しく首筋を撫でてから、チョコボを帰らせた。残った俺の眼前にあるのは、周囲の森と渾然となった巨大な門。僅かな緊張を宿らせ、一歩を踏み出す。
夜だというのに門は開いており、堂々と街の中へと入り込むことができた。代わりに左右に立つ門番の視線が痛かったが。
出来れば任務も含めてサンドリア王国の景観と国風も楽しみたかったのだが、急いでいたこともあり横目で確かめるだけに留める。
街を歩くエルヴァーンの通行人から適当な人を捕まえ、早速レッドテラピンのことを訪ねれば、予想以上に早く情報は得られ、何でもここから西に行ったゲルスバ野営陣という場所にある池で釣れるのだとか。魚かと思えばカメのような形らしく、要は元の世界のスッポンであるらしい。釣具は投影で代用すればどうとでもなるだろう。
「ありがとう! 早速行ってみるよ!」
「あっ、でもあんた気をつけてくれよ。ゲルスバはオークどものほんきょ……」
皆まで聞かずに早々に切り上げてゲルスバまで走る。目的地は近郊の森の本当にすぐ傍にあり、易々と入り込むことができた。木々豊かな森と隣接しているというのに、ここは無機的な岩場の集合体であり、いかなる理由か人の手が加えられた証である木製の柵が立てられていた。開発している途中なのだろうか。
「……でも何かブタみたいな顔した獣人がたくさんいるけど。何だろ? でも一々気にしても仕方がないか」
狩人の修行の成果により、自然と一体となって身を隠す技能を用い、移動していく。沼らしき沼など全然見つからないが、こうして進んでいけばいずれ辿り着けるだろう。
「それまで待っていてくれよ、カレン……!」
――Interlude
「どうもここにも、お前の目当てのものはないようだな」
「ああ。オークどもがあの剣を持っているのかと思ったが、それは見当違いだったようだ」
「……しかし、何だ? この不穏な気配は……」
――――我が声へ応えよ、邪竜……。
我が敵は汝が敵なり。我が剣となりて眼前の敵を打ち砕け……。
「……!」
「アーリマン?……だがもう片方の、この化け物は?」
「気をつけろ、こんなモンスターは見たことがない」
「ククク、バカな人間どもめ。何かを探してここまで来たようだが、当てが外れたようだな。お前達の目の前で何が起こっているのかもわからんだろう。今から死に往く者が知る必要も無いがな」
「ロシュフォーニュ。お前が言うとおり、どうやら獣人どもの裏で厄介なことが起きているようだ」
「いや待て、ヴォーダラム。後方からも誰か来たようだ」
「ほう。冒険者か? ……これはいい。連中を利用しない手はない」
「無益な戦いは愚者のすること。ここは冒険者に任せて、次へ行くとしよう。……『テレポ』発動」
「――フン、逃げたか。クク、まあいい。別の獲物も来たようだしな。邪竜よ、その力存分に振るうがいい!」
――Interlude out.
「な、な、な、何じゃこりゃーーーーっ!?」
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最終更新:2008年01月27日 23:36