705 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/01/18(金) 01:54:37
*************************
アトルガン皇国――。
ミンダルシア大陸の東、エラジア大陸を版図とする国家。
西端はググリュー洋を望み、東端は極東諸国と境を接する広大な領土を有する大国で、宗教的権威と世俗的権威を兼ね備えた絶対君主、ナシュメラ2世――『聖皇』によって統治されている。
20年前のクリスタル戦争の折、アルタナ連合諸国、中でも最大の通商相手だったタブナジア侯国はアトルガン軍の参戦を切望したが、再三の援軍要請にも関わらず同国は孤立主義を貫き、ついに派兵しなかった過去がある。
そのため、今でも西方のサンドリア、バストゥーク、ウィンダス各国とは外交的に疎遠な状態が続いているようだ。
また一方の極東諸国――――
手懐けた樹林原生のモンスターを率いた獣人マムージャ族の軍、マムージャ蕃国軍。
トロール族によって編制された重装甲の兵団、トロール傭兵団。
ラミア族によって統制されるアンデッド共の百鬼夜行、死者の軍団。
――――とは現在、交戦状態にある。
*************************
「アフマウ、これは…………これこそが私の求めていた剣ではないですか!」
高鳴る鼓動は祝福の鐘のように――。
少女が携えてきた剣。それこそは我が愛剣、エクスカリバーの勇姿に他ならなかった。
簡素な造りながらも決して美の在り方を捨てず、尚且つ実戦における実用性を究極に追い求めた至高の宝具。一時は壊れてしまったとさえ思い込んでいた黄金の刀身は、しかし眼前にて爛々と光り輝いていた。何故最初にこれを見せずに折れた剣を見せたのか、少女の不可解な行動に怒りが沸いてくるものの、だがそれ以上に予期せぬ再開に喜びが押し隠せない。
そうして嬉々として渡された剣に抱き縋る私とは対照的に、アフマウの困惑しきった声が私達の間に割ってはいる。声音には私に対する申し訳なさと躊躇いが含まれてあり、それが舞い上がった頭を急停止させ、正体不明の危機感を煽った。
「え、と……セイバー? 多分、というか確実にそれは貴女の剣じゃないと思うけど……」
「何を……何を言っているのです、貴女は! この剣は間違いなく私の剣だ。これは腕の延長と錯覚する程に使い込んだ代物……。それを今になって見紛う筈がないでしょう!?」
「だから違んだってば! ちゃんとマウの話を聞いてよっ、セイバー!」
「そうダゾ! ひとノハナシは、サイごマデ、キクッ!!」
「…………」
いったい何だというのだ……。
突然の癇癪が胸の中に湧き上がっていた怒りを吹き消し、一時の平静を取り戻させる。……いや、確かに先程の私は迂闊に過ぎたかもしれない。
「……セイバーよ。……この剣はな、お前が持っていた物ではなく、半年程前、とある武芸者から譲り受けた物なのだよ」
「そうそう。無銭飲食で投獄されそうになっていた所を助けてあげたんだけど、その時にお礼にって貰ったの。何でも物凄い名刀でお宝でレアアテイムなんだって! 売るのも勿体無いから使わずに置いておいたのだけど……」
「ソノなもエクスカリパーとイう! イカしテルダロ? イカシテルよネェ? そこにシビれる、アコがれるゥ~!」
「エクスカリ『パ』ーですか……。パーね。パー……」
何だろう。何かとてもエクスカリバーを馬鹿にされた気分だ。
――とにかく。
少女の真摯な眼差しに嘘の気配は感じられない。彼女らが言っていることは多分に不本意ではあったが、恐らく真実に違いないのだろう。この剣の姿形、そして名が似通っているのもまた縁。却って不思議と鼓舞されたように思える。
「疑ってしまい申し訳ありません……。ではありがたくお借りすることにします」
「セイバー、無理はしないでね」
「貴女も。決してここから出ないでください」
ドアを潜り抜けてから魔力を放出し、鎧支度に身を調える。
外には何処の国か、明らかに日本の建築様式とは趣を異にする建物がそびえ立っていた。そして――――かつて耳にタコが出来るほどに聞き慣れた、戦場の音。
「……多くの兵達が互いを鼓舞し合う怒号……。進軍に伴って響く金属音……。懐かしい、な。ブリテンではそれが日常だった」
最早ここは平和を擁する冬木に非ず。
知らずとテンションは戦場を駆け抜けたあの頃へと戻りつつあり、高揚した精神の前に取るに足らぬ些細な疑問なぞ弾け飛び――――
「――行くぞ……!」
――――遥か数世紀の時を超え、伝説のアーサー王が再度戦場へと舞い降りた。
――Interlude
「今度の蛮族は死者の軍団か……。アンデッドには剣や斧が効き辛い分、今まで以上に苦戦するでしょうね……」
「フンッ、たかが蛮族じゃない! みんな! 一気に蹴散らすよッ!!」
「少々危うい考えではあるが、ミリ・アリアポーの言うとおりだ。皇国の未来は我等の双肩にかかっている。勝利の栄光を聖皇様に捧げん!」
「皇国の興廃はこの一戦で決まる。者共、死ね! 死中に活を求めるのだ!」
「ガハハハハハッ、死んじゃあ何もならねえだろうが! 皆、生きろよ! ひとつ奴さんらを軽く捻ってやろうぜ!」
――Interlude out.
鼻腔を擽る芳醇な香りは腐臭。
なるほど、戦場に死体があるのは常識であり、死臭など至極当然の結果であろう。――それが時間を経たものであれば。
人間が死を迎えて腐りだすのは大体四半刻。骨しか残さず風化するには一週間もの時を有する。だが視界を埋め尽くすこの光景は……。
「――――……」
骨。骨。骨。骨。
肉。肉。肉。肉。
そして四方を自在に跋扈する干乾びた死体。
人間同士の戦いじゃない。これは……こんな、馬鹿な……。
ふと、広場に集合した異形の群れの中で、全長10メートル近くに及ぶ巨大蛙の姿が目に入った。否、それを蛙と称してよいものか……。醜く潰れ線となった目に、紫色の体表とそれを覆う黒い斑点。数日捨て置いた生ゴミすら生易しいくらいの刺激臭を醸し出す、何か。
腐った臭い。骨を見出せぬくらいに盛り上がった肉塊。蛙らしくない、赤紫をした体表。
――――まさか。いや、そんな……!?
「うっ……!」
途端、酸味を含んだ胃液が咽喉を焼き、体の奥底から逆流しかけるが、口を手で覆い、どうにか無様を晒さぬよう堪える。
……酷すぎる。こんな惨い仕打ち、断じて許せるものではない。
地獄の炎の如く燃え上がる怒りを抑え、改めて冷静に周囲に視野を広げる。敵の数は200程度。……そのどれもが人間にあらず、それぞれにこの国の兵士であろう武装した者達が追討に当たっている。
そして隊長らしき複数の人魚が各個小隊を担当しているようだ。……いや、人魚、と称するにはおよそその容姿は人とかけ離れ過ぎていた。青白い肌に蛇をそのまま被せたかのような頭部。不気味な赤い眼光。いくら黄金の彫金細工で身を飾ろうとも、空しく醜悪さに輪をかける結果となっている。
……どうする? 敵の実力は未知数。数もそれなりにある。私はどう動けばいい?
投票結果
最終更新:2008年01月27日 23:42