820 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/01/20(日) 17:30:57


――Interlude side Gilgamesh


 ギルガメッシュは拳骨を振り上げていた。
 固く握られたソレは長年の修練も相まって岩ほどの無骨さを示し、反面、振り下ろす際には精一杯の労わりを以って、尚且つ適度な優しさを込めて叩く。トン、トン、と拳は軽快な音を醸し出した後、返ってきたのは老人の至福に包まれた笑顔だった。
 薄暗い閑居に閉ざされる中、翁の緩んだ表情は、彼にとって場を和ませる唯一の安らぎとなったに違いない。恐らくは壁一面を飾りつくす薔薇の花よりも、無骨な武芸者にはそれに勝る価値があったのではないか。
 しばし無言の、しかし心地よい時間が流れた頃、老人はほっと息を吐いた。

「ふぃ~、気持ちいいのぉ。ありがとうの、ギルガメッシュさんよ。肩たたきの感覚なんぞ、ここ数世紀、久しく忘れておったわい」
「へへ、オーバーな爺さんだなぁ。でもいいんだ。タダで居候させてもらうってのも気が引けるしさぁ、第一俺爺さんいないから、こういう感覚って何か気分いいんだよ。妙に新鮮っていうか……」
「嬉しいこと言ってくれるの。……全く、ウチにも2人孫がいるというのに、どちらもワシに冷たくてのォ、家に居ても肩身が狭くて……。ギルガメッシュさんが孫だったら良かったのじゃが……」
「爺さんも大変だな。ま、残り少ない人生、楽しんだモン勝ちさ。あまり気にしていても仕方ないって。……でも、ここにいる間は俺を孫だと思って…………甘えていいぜ~?」
「フォフォフォフォフォ!」

 老人は心底愉快で堪らないといった風に、武芸者はそんな様を見るのがとても楽しいといった風に、薄暗く、且つ微かに湿った屋敷に2人分の朗らかな笑い声が響く。もしここに老人の言う2人の孫が居たならば、嫉妬したという可能性も見過ごせないだろう。――もっとも、この屋敷、もといこの老人が通常の枠内に当てはまるような翁であれば。
 あらかた叩き終えた肩をそっと撫で、武芸者は指を鳴らして揉みにかかる。トドメとばかりに受けた追い討ちに、老人――間桐臓硯は不覚にも短い吐息を漏らす。武芸百般に通ずる男の指は夏の青竹を越える硬直さを有しており、頑固な肩の凝りをほぐすには充分過ぎた。

「いいのぉ……。妹や姉の方じゃなくて、ギルガメッシュさんが良かったのぉ……」
「よくわらないけど褒めてくれるってのは嬉しいぜ」

 やがて幾許かの時間が流れ、頃合いを見計らい武芸者は腰を上げた。細かい指の動きで凝った掌をポキポキ鳴らせながら肩を回し、腰を曲げる。夕飯まで穏やかな時間に浸り続けるのも悪くはないが、今の彼にはそれ以上にやっておきたいことがあった。

「爺さん、肩たたきはこれで終了だ。俺はこれからちょっと出掛けてくる。夕飯前には帰ってくるから」
「ほ? どこに行くのかいの?」
「神様にお参りさ。こう見えても俺は信神深いんだ」

 無論半分は口実である。眼前のこの益荒男が、実体の伴わない神を信仰するなどそんな柄に見えるだろうか。もしも百人がこの場に居合わせたとしたら、百人とはいかなくとも八十人くらいは『ノー』と答えるに違いない。しかし毎度毎度文明そのものを異にする平行世界を旅してきた身である。状況確認が即己の身の安全に繋がるという鉄則は、経験を得ていく内に自然と脳内に刷り込まれていた。

「神様かいのう。ワシは信じとらんがのう。……それはそうとして、お主が祈る神さんはキリストさんかいの? それともお釈迦さんかいの? この町には教会と寺が互いに鎬を削りあっとるでのぅ……」
「そうだなぁ……」



Ⅰ:寺
Ⅱ:教会
Ⅲ:どちらでもない


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最終更新:2008年01月27日 23:44