864 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/01/22(火) 02:20:16


「その教会ってどこにあるんだい? 是非とも行ってみたいね」
「おう、そうかいそうかい。お主は教会派かいの。なに、そんな難しいトコに建っとらんからすぐに見つかるじゃろうて。……それはそうと」
「ん?」

 それまで穏やな口調で語っていた臓硯翁だが、突然端と異様な雰囲気を纏いだし、一種の慎重さを含めた言い草へと改める。今し方快活に話していた只中だというのに、その変化の様はむしろ不自然さを感じさせない滑らかなものであり、不思議と眼前の老人の本性が垣間見えたような気さえするではないか。
 互いに心許した関係と自負していたギルガメッシュだけに、老人の変貌には少々の不気味さと、微かな落胆を感じずにはいられなかった。

「な、なんだよ……」
「ふぇっ、ふぇっ。いや、のぅ。半年前まではあそこも立派な教会じゃったが、そこに住んでいた神父は二代に渡って不可思議な死を遂げ――――後任としてやってきたシスターも原因不明の失踪で姿をくらました、曰くつきの場所じゃてのう。果てさて、だというのにお主はそこへお参りに行きたいという。それが可笑しくてのぅ……」
「………………ゴクリ。――い、いやいやいや、何言ってんだよ爺さん! んなアテのないモン、悪い偶然が重なったに過ぎないじゃねえか! ええい、もう行くからなっ、俺は! じゃあなっ」
「ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ!」

 実際に湿っぽい空気を手荒く扉を開閉することで新鮮な空気に換気させ、陰湿な翁にせめてもの仕返しを施す。とはいえそんな稚拙な復讐で背中に虫が這うかのような怖気が取り払われる筈もなく、そこは精一杯の虚勢を張った大股歩きで間桐邸を後にすることで、どうにか萎縮した己を景気付けることにした。
 ――まったく、あの翁の時折見せる怪物めいた仕草には勘弁してもらいたいものだ。

「ま、あのおっかない魔女よりかは遥かにマシだけどな。何が時間圧縮だ、あのクソババアめ。おかげでまた違う世界に飛ばされちまったじゃねえか」

 出来る限りの怨みを込めて呟くも、胸に渦巻く鬱屈した気分はいくらも晴れてくれない。こうなればいよいよ拠り所は神様しかあるまいとそう結論付け、武芸者は教会への足を速めるのだった。
 ――さて、夕暮れ前の道中、よりにもよって武芸者は商店街のど真ん中を教会へのルートとして選んだ。勿論件のお気に入りの一張羅を纏って、だ。
 荒れ狂う怒号。泣き喚く子ども。職質の嵐。何を勘違いしてか、サイン色紙とペンを取り出すオバちゃん達。――それでいて尚、平然と威風堂々を崩さぬ尊大さ。間違いなくこのギルガメッシュも強者の一人であった。数ある平行世界を旅してきた図々しさは、元からの人一倍アレな性格を増長させ、とりわけ根拠のない不動の自信を築き上げるまでに到っていた。
 そうして予定していた時間よりやや遅れて教会へと辿り着き、空には既に赤みが差し始めた頃。

「お、立派な教会じゃねえか。ったく、爺さんが余計なこと言うもんだからどんなおどろおどろしいヤツが出てくるのかと思っていたが、別段驚く程でもないな」

 とか言いつつ、蝶番が錆びて重くなった扉を開ける際は、ついつい腰が引けてしまうのは業の成せる業であろうか。いくらお調子者の彼とはいえ、自身の都合の悪いことに蓋をする性格でない故に、まったくの無自覚という訳ではなかったが。

「お、お邪魔しま~す。誰かいますか~? 参拝者ですが~……」

 口内に溜まった唾を一飲みしてから、思い切って力を前面に押しやる。すると蝶番はギギ、と嫌な音を鳴らし、木造の簡素な、しかし建造物に見合って豪奢な大きさをした扉がゆっくりと左右に分かたれていった。
 ――正体不明というものは得てして怖い。事前に知識を得ていない不明を暴くという行為は、目隠しをして細道を歩く行為に等しく勇気を必要とし、真実を白日の下に晒そうとするには、時に己の身を差し出す蛮勇すら求められるだろう。見えないものは怖い。……そう。例え、中身が一切害意のない、チャラついた軟派神父の笑顔であったとしても。

「はぁい、いらっしゃいませ~! 一名様ご案内~!」
「…………」

 ――彼、ギルガメッシュが常識と知っている教会とは、まず静かで、不思議と厳かであることが挙げられる。理由は、原色が鏤められた美しいステンドグラスから透けた光が神々しいこと、敬虔な参拝者が沈黙を尊ぶこと、祈る対象の神様が喋らないこと、そして決め手に……。

「へへ、募金する気あります?」

 ――教会の主である神父という存在が、神の徒の模範生であること。
 一巡して落ち着いた思考から離れ、焦点を目の前の神父へと移し、こめかみを押さえながら改めて神父の身形を観察する。まず目に入るのが男の耳に大胆にぶら下げられた金色の耳飾りだ。金独特の油断ならぬ輝きが神聖なる祭殿を照らし、ただそれだけのことだというのに、男を神父の役職から遠ざける役割を果たしている。
 軽薄そうな口元は言わずもがな。本人は着こなしたつもりであろう黒服も、体現すべき静粛さは欠片も用を成さず、ただ逆に水と油を強引に混ぜ合わせたかのような不自然さばかりが際立っていた。整髪剤でピンピンに逆立てた髪もやはり減点であろう。
 ふむ、と腕を組みながら息をついてみる。武芸者はどうしたものかと再度思考に耽った。



Ⅰ:ツッコミを入れる
Ⅱ:そんなことより奥に居る子どもの姿の方が気になった
Ⅲ:とりあえずお祈りを済まそうと思ったけど、態度の悪い参拝者が気になった
Ⅳ:オチなしで本編に戻る


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最終更新:2008年01月27日 23:45