955 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/01/26(土) 01:00:47
先には――視界一面を占める、妖しげな光を秘めた深紅の双眸。
底のない深い瞳に魅せられ知らずと息を呑んだ直後、異常をきたした視界は次第に正常な機能を取り戻し始め、教会の質素な扉の縁に立った、華奢な少年の姿を瞳孔に捉える。
華奢。そう、2人の無骨者が織り成す男の世界に到ってそぐわない、あでやかな1輪の花。ただし、窪みから匂う蜜の薫りは全てを塗り潰すくらいに、濃い。
燃える赤の煌きを覆うブロンド、そして常人ではあり得ない美貌より、彼は少年が人ならざる者――これまでの旅で得た知識から推測して――であると察することができた。
どうしたものか。
彼が目にしてきたこういう手合いは、総じてロクな者がいなかった。人を超えたことへの油断、即ち慢心。彼らの脳裏を蝕む慢心が条理を逸した優越感に浸らせ、終には決して叶わぬ幻想まで引き起こす始末。……そうして目の前のこの少年。初対面だというのに自分達を蔑みきったこの赤い瞳は……紛れもなく慢心の顕れを秘めていた。
重苦しい緊張が教会を満たす中それを露とも知ろうとしない少年は、二対一の不利にも関わらず、あくまでも傲岸不遜を貫き、言い放った。
「弁えぬか、雑種よ。みすぼらしいとはいえ、ここは王の寝所ぞ。犬と戯れるのならば外で行うのが道理であろうが」
呆然。まるで脈絡のない暴言に対し、突然すぎて返すに相応しい悪罵すら浮かんでこない。
少年は何の躊躇もせず己の傲慢さを振舞った後、言うべきことは言ってスッキリしたのか、唖然とする武芸者を尻目に、教壇の隣にある扉へ向けて歩き去っていった。
――さて、少年が消えた後に残されたものは、すっかり冷めきった場の空気と、熱意を削がれて白けきった男2人。どうすることもなく黙しながら定位置に留まること2、3秒。再開という雰囲気でもなし。目的意識を奪われ軽く混乱する両者であったが、やがてモップを携えた偽神父の方から苦笑交じりの問いが投げかけられてきた。
「……とりあえず、お前さん、お祈りしに来たんだよな?」
「ん? ああ、そういやそうだっけ……」
「ま、所詮正式な手続きを踏んでない半端な代理人だけどさ、ズブの素人よりかはいくらかマシだと思うぜ。ひとつ、よろしく頼むわ」
「こちらこそよろしく頼む。……っと、代理ってのは本当だったのな。あちゃ~、何やってんだろ、俺。その、色々と済まなかった……」
男の落ち着き払った態度からこれまでの悶着が自身の勘違いに過ぎなかったことに気付き、無害な彼を騒動に巻き込んでしまったことを詫びるべく、出来る限りの謝意を込めて頭を下げる。対するランサーは、照れ隠しの意味も兼ねてか陽気な笑みを浮かべながらそれを迎え入れた。
その後簡素なお祈りを捧げ終え、暇を持て余した2人だったが――――平和な世では得難い同好の徒がせっかく一つの場所に集まったのだ。世間から切り離された僻地に立つ孤独な彼らが互いの武芸について講じあったのは、ごく自然な成り行きだったのかもしれない。
曰く槍の持ち方がどうとか。曰く多くの武器をコレクションしているだの。両者の瞳は童心に返ったが如く光り輝き、その度に積み重ねた経験を語る弁舌はますます冴え、その道の達人にしか解らぬ談義は夜遅くまで続けられた。
そうして――――。
「そういやアンタの名前、まだ聞いてなかったな。俺の名はランサー。ちょっくら奇妙な名前だが、まあ字みたいなもんだ。アンタは何ていうんだい?」
「おう、俺か? へへ、よっく頭に刻んでおけよ……。俺様は世紀の大剣豪、その名もギルガメッシュ様よ!」
この後、更なる一悶着があったのは言うまでもあるまい。
――時に武芸者の心中では既に記憶の彼方であったが、その頃間桐邸では、臓硯翁が帰りの遅い武芸者を心配し、一人ハラハラしていたとか。
――Interlude out.
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最終更新:2008年01月27日 23:49