257 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/02/07(木) 23:06:32
――Interlude out.
思いのほか、すぐに探し人を見つけることができた。
へばって傾ぐ首を努めて持ち上げれば、眼前には確かに存在する彼女の姿。
もし街の外に出られていれば追いつくことなど実質不可能であったろうが、ただ行き先が街の中に限定されていたのが幸いしたのだろう。当てもなく走り回っていただけとはいえ、探索区域が狭まれば、自然といつかは見つかるのも必定というもの。
すっかり火照って熱くなった吐息を出来る限り多めに吐き出し、背を向けて佇む彼女の肩を軽く叩く。途端、ビクリと強めの震動が手に伝わり、目の前に俺の見知った莫耶の端正な顔が差し出された。
「ふぅ~……。つ、疲れた……。徹夜明けにあまり激しい運動をさせないでくれ」
「……ぁ、シロ……」
言うほど多大な時間を費やしていないとはいえ、明確な目的地もなく街中を走り回った代償は、しかし確実に体内に疲労として蓄積されていた。最早体は肩で息をする体たらくであり、相手の顔も見ず俯きながら喋る程度の無作法は勘弁してもらいたいものだ。
「とにかく、すぐに見つかって良かった。外に出たりしていたら魔物に襲われちゃうからさ、無事で何よりだ」
「…………」
「どうしたんだよ、急に走り出してさ。皆心配していたぞ? 早く戻ろう」
「ん……」
「莫耶?」
返ってくる筈の言葉はなく、気付けば会話は俺だけの一方的なものとなっていた。
そこでようやく事態の変異に違和感を覚え、顔を見上げれば――――目線の先には、彼女の、だがいつも以上に白い……否、それこそ真っ青に変色した顔が在った。ふとそれがテレビやらオバケ屋敷やらに出てくる低俗なメイクにそっくりなのだと合点し――――見知った相手とはいえ、自分は死人と話しているのではないかという焦燥すら覚えた。
「――だ、大丈夫か?」
精魂込めて搾り出した第一声がコレ。我ながら間抜けとしか言いようのない気の利かなさ。
彼女は僅かに首を傾ぐことで肯定の意を示し、フラフラと幽鬼の如く元来た道を歩き去っていく。慌てて後に追い縋るも、何も語らぬ背中は拒絶の意思が示され、容易に声をかけることもままならない。そんな刺々しさを看破できぬほど俺は愚鈍でもなく、また、馬鹿でもなかった。
――と、付き従うままいくらか歩を進ませたとき、堅く閉ざされていた彼女の口が、唐突に、何の脈絡もなく開く。
「私、は……」
「うん?」
「自分のためのことが、誰かにとっては損になり、誰かのためのことが、自分にとっては損になる。そんな当たり前のこと、充分理解していると思っていた……。けど、現状の自分が本当の自分だなんて、いったい誰がわかってくれるというのだ?
今だって、幸せになりたくて、愛を手に入れたくて、他人を傷つける人がいる。幸せになりたくて、自分を傷つける人がいる。そんな矛盾が私達を囲っている以上、皆が平等に幸福を謳歌することなど実現不可能な戯言でしかない。私はただ、皆が笑っていてくれればそれでいいというのにな……」
「…………」
「いや、すまない。これはただの愚痴だ。聞き逃してもらえると助かる」
「それは――」
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最終更新:2008年03月06日 22:09