306 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/02/10(日) 22:57:37
どちらかといえばいつも寡黙な筈の少女が、何故か今に限って多弁に過ぎる。
見目麗しい顔は痛ましくも蒼白に色落ち、平時のあの凛とした佇まいは跡形なく崩れ、枯れ木のような危うさを感じさせた。この毅然とした少女が見せる年相応の弱々しさには一種の憐憫の情を抱かずにはいられず、やはりどうしようもない保護欲に駆られざるを得なかった。
出来ることならば彼女を傷つけず、そっと労わってあげたい。だが――自分がそんな柔軟を持ち合わせているなどあろう筈もなく、出来ることといえば、投げかけられた呟きに対し正直に、自分なりに誠意を込めて臨むしか仕様はなかった。
「でもさ――それを何とかするのが正義の味方の役目だろ?」
正義の味方。
衛宮士郎の究極の理想形であり、到達点。何よりも、俺が生きる理由に他ならない。
都合の良い言葉だとは解っている。総てを正義の名の下に括れば良いという訳ではない。それでも、喩えその存在が夢幻に過ぎない虚像だとしても、それで誰かを救うことができるのなら、あの月夜の切嗣の安堵を裏切らずに済むのなら、あの■■に取り残された彼らへの■■になるというのなら――――俺は正義の味方になりたい。
半ば予想していた結果とはいえ、思いも依らなかったであろう単語に直面した彼女は呆気に取られたが如く目を丸め、まじまじと珍しいものを見るかのようにこちらを眺めていた。途端、理想を語る清々しさは粉微塵に吹き飛び、胸中には苦々しい恥じらいだけが残される。
「そんなにおかしいかな。正義の味方」
「いや、おかしいというか……えっと……」
言葉とは裏腹に体全体に顕れる明らかな動揺。蹲る俺。
「ああっ、おかしくないっ! 全然おかしくないぞっ、シロウ! だ、だけど、正義の味方だなんて、昔ははう……母が読んでくれた絵物語でしか知らなくて。まさか貴方の口からそんな言葉が出てくるなんて思いも依らなくてな、少し驚いてしまった。
しかし、各地を転々とする冒険者でさえ、その活動は利益を前提としたものに限られる。彼らだけじゃない。誰だって労働に対する報酬があるからこそ頑張れるんじゃないか。なのに、所詮無償でしかない正義で動くだなんて、シロウ、そんなこと……」
「む、それは違うぞ。誰だって大なり小なり正義……言葉を変えればそれなりのポリシーを持っていたりするものさ。内に抱える大切なモノを守るためならば、仮に益体ないことであっても足を踏み出すことができる。違うか?」
「…………」
「さっきお前は人が抱える矛盾を指摘していたけど……でも反面、悪いことばっかりの矛盾じゃなくてさ、中にはこういう善行もあったりするんだよ。でなきゃ俺達はこうして立っていることもままならなくなっちまう」
「ん……それが人の内に秘める正義心、ということか……?」
言いたいことは言った。果たしてそれが彼女の心に響いてくれたのか否か。少女は目を伏せ、左拳を口に当てながら熟考している風を作り、俺には聞き取れぬ小さな呟きを漏らす。流石にそうそう簡単に納得することなどできないであろうが、これは俺に課せられた問題ではなく、彼女の問題に他ならない。何が正しいかなんて彼女が身を以って体験し判断するしかないのだから。
思考が一段落したであろう頃合いを見計らい、改めて歩を進める。次いで、彼女も俺の後に寄り添って来た。
「ではシロウは貴方の言う正義を履行する正義の味方になりたいと? 矛盾に弾かれた誰かに手を差し伸べる自分でありたいと?」
「そーだよ。昔からの夢なんだ」
それっきり何を言うでもなく会話は途切れ、黙々と歩は帰り道を辿っていく。
辺りは歩行者達のざわめきに溢れかえり、洋々として雑音の域をはみださない、毒にも薬にもならぬ有象無象の様を呈していた。そんな中、ポツリとこぼれた一言が、妙に耳に引っ掛かった。曰く――――それじゃあいったい誰が正義の味方を救ってやれるの?――――と。
答えはない。ある訳がない。脳はその言葉の受諾を拒否し、気付けば周囲のざわめきと同じく他愛もないノイズとして処理していた。
――翌日。
結局カレンの体調を考慮してバストゥークに一泊逗留することになったのだが、ここでまた一つ問題が起こった。先日俺と同じく莫耶を探しに出て行ったらしいバタコが帰ってこないのだ。
挙句莫耶を連れ帰った足をそのままに再度街を探しに出掛けたのだが見つけること叶わず、満足に休養すら得られない徒労と終わった。それとなく莫耶本人にも問い質してみたのだが、どうにも煮え切らない返答しかつかめず、埒が明かない。
「もしかしたら街の外に出てしまっているのかもしれないわ。でもそうなった場合、彼女は自分の意思で私達から離脱したと考えるのが自然となるでしょうけど」
「いや、理由がない。もしそうだとしても何も言わずに出て行く意味がわからない」
「万が一誘拐された、としてもメリットはなさそうですしね。彼女、お金持ちの令嬢って訳でもありませんでしたし」
それどころか天涯孤独の身。だからこそ二国の調査員に加えられたのではないか。
彼女が課せられた責任を途中で放棄するような奴だとは思えないし、現に初対面同士だった俺達を纏めるべく気を遣っていた姿は責任感の顕れとして脳裏に刻まれている。だからこそ唐突過ぎる失踪が不自然に浮き彫りとなっているのだ。
「なあ、莫耶。念のためもう一度確認するけど、本当に会わなかったんだよな?」
「あ、ああ。私は何も見ていない。知らない」
「……そっか」
ご覧の通り、とっても怪しい。
更に問い詰めるのは簡単ではあったが、果たしてそれがどのような結果をもたらすのか容易に想像できず、聞くに聞けないジレンマを抱える羽目に陥っている。一応警戒の意味を込めてカレンの様子を横目で窺うも、人一倍鋭利な筈の彼女はこの話題にさして興味をもつことなく、波がかった髪を指に巻いて遊んでいるだけだった。
「巻菜。お前はどう思う?」
突如話題を振られた彼女はさして動揺するでもなく、軽く首を傾ぐ仕草をした後、僅かな時間を隔てて答えた。
「彼女が自分の意思でいなくなったのならこうして考慮していること自体茶番に過ぎないけど……もし第三者の意思が介入しているとしたら迂闊に動くのは自粛すべきじゃないかな。でも、状況を鑑みるにその可能性は無きに等しいですが」
「つまりバタコは自分でいなくなったと?」
「僕が思うには」
ますますわからない。
結局のところ、謎の焦点は何故彼女が去らねばならなかったに帰結するが……どう記憶を巡らせてもそこに到る原因がわからない。彼女との関係は円満であったと自負できるし、時折衝突することがあったものの互いに心通じ合わせる位置にいたと思う。長らく隣にいた俺がそう感じているのだ。彼女も同じくそうであったと……信じたい。
どう動けば良いのか判別つかず、不動の姿勢で数分を惰性に費やす。
1分……2分……3分……4分……5分……。
そのまま時が止まったかのように静かな時間が流れるが、不意に閑静が包む部屋をけたたましい、木がぶつかり合う音が響く。すぐにそれがドアを開ける音だと判り微かな期待を込めて首を回せば、しかしそこには意中の人の姿はなく、代わりに体格ばかりが似たタルタルの姿があった。落胆が身を包むと同時に、目の前の彼に対して謂れのない苛立ちが湧き上がる。
「す、すみませんっ! 自分はバストゥーク所在、ウィンダス領事館に勤めるトプル・クペルと申しますが……あの、貴方がたがウィンダスから派遣されてきたエミヤシロウ様、バタコ様、ヒサオリマキナ様で相違ございませんでしょうかっ!?」
「はあ」
「本国からの伝令をお伝えしたく馳せ参じました! 任務は中断! すぐに指定の場所に向かって欲しいとのことです! 場所はジュノ! 約束の物もそこで手渡すとのことです!」
「――え? ちょっと……」
唖然とする暇もない。
伝令者は課せられた使命を果たし満足したらしく、恭しく一礼し去っていった。
「衛宮士郎、アレは何ですか? 説明を」
「わ、私にも頼む。任務やら約束の物やら、全然話が見えないぞ」
カレンと莫耶の質問攻めもどこか空しく、現実としての厚みがまるで感じられない。巻菜の方に顔を向けてみるも、当事者の一人である筈の彼女は俺と視線があった途端ぷいと目を逸らし、興味なさげにそっぽを向く始末。ますます纏め役のバタコの不在が悔やまれた。
「それは……いや、追々後で話す。今はまず動こう。えっと……」
2群
Ⅳ:『型月』キャラ一名追加
(5票目に記載されたキャラを転送。士郎かセイバーのいずれと共に行動させるか、もしくは孤立させるか、も記入してください。戦闘力皆無キャラでも構いませんが、恐らく地獄を見ますw)
Ⅴ:追加はいらない
1群、2群から一票ずつ選んでください
投票結果
最終更新:2008年04月05日 18:28