186 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/02/04(月) 22:38:37
「じゃあ、士郎が食べさせてくれない?」
水銀燈は、なんか、トンデモナイことを口にした。
食べさせる?
誰が? 誰に? なにを?
「……なに固まってるのぉ?
士郎が、私に、手ずから料理を食べさせるのよ」
「え……えええええ!?」
ご丁寧にも、水銀燈は物覚えの悪い生徒に言い聞かせるかのように、判りやすく言い直してくれた。
もっとも、その内容は小学生でさえこっ恥ずかしいものだった……!
「な、なんでさっ!?
そんなことしなくても、すぐに代わりのものを作ってくるから時間とかかからないし!
わざわざ無理があることしなくても、っていうか無理! 無理だからそんなことは!」
「あら、士郎は私にだけ、間に合わせの簡単なものを食べさせるつもりなの?」
「い、いや、間に合わせってわけじゃあない、けど……」
だけど、確かに片手で食べられて、すぐに作れるものとなるとあまりレパートリーが無い。
それに、水銀燈はただでさえ周りからの目が気になる状態なのに、その上一人だけ例外扱いするのは気まずい。
と、一瞬の逡巡をしているうちに、水銀燈は更なる追い討ちをかけてきた。
「それに、さっき言ってたじゃない……してほしいことがあったら言え、ってぇ」
「そ、そりゃ確かに、そう言ったけど……!!」
そ、それとこれとは話が違うんじゃないでしょうかっ?
俺が必死に脳を回転させて、水銀燈への反論を考えていると……不意に、外部からの圧力で、脳の回転が急停止。
「えーみーやーくーん?
公衆の面前で、ちょおーっとふしだらが過ぎるんじゃないかしら?」
「うふふ、ふふ。
やっぱり先輩、水銀燈ちゃんまで守備範囲だったんですね」
俺の後頭部を掴んで離さないのは恐らく見果てぬ夢を掴む遠坂アーム。
そして聞き捨てならない不穏な言葉とともに零下の視線を送ってきているのは桜か。
そう、背後に立っているのは地獄のどくどくシスターズ……!
「えっと、とりあえず遠坂、こうガッチリ掴まれてると土下座どころか頭も下げられないんだ。
あと桜、その守備範囲って言葉について詳しく」
「あら、殊勝な心がけね。
でも、罪人の頭は下げるものじゃなくって吊るすものなのよ?」
「くすくす。
その前に、水銀燈ちゃんとどんな約束をしてたのか聞きださないといけませんね」
うわーい、遠坂ってば上手いことを言うなぁ。
そして俺の質問はまるっきりスルーですか桜さん。
「いや約束とか、お前たちが想像しているものじゃないぞ!?
それにほら、こうしている間にお腹は減るし、料理は冷めるし、そして俺の頭は割れそうだし!?」
「その三つとも、些細なことよね?」
言い切らないでほしいなあ、特に三つ目。
そんな声にならない声を上げながら、現実から容易に逃避していく俺の意識。
あー、そういえば午後は水銀燈の服をどうにかするんだっけ。
一体誰に頼ればいいだろうか、と、俺は薄れ行く意識の中でぼんやり考えていた……。
――Interlude
「……」
「どうしたの?
まるでお預けを喰らった犬のような顔なのだわ、水銀燈」
「なに言ってるのよ、真紅。
ミーディアムが自分の命令どおりに動かなかったから、ちょっと不愉快なだけよ」
「あら、貴女、いつから呼び方を下僕からミーディアムに変えたの?」
「……うるさいわねぇ、ほっといてちょうだい」
「ええ、わかったわ」
(まったく……次は邪魔者がいない時に言ってみようかしら?)
――Interlude out
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最終更新:2008年03月06日 22:17