216 :はじめてのさーう゛ぁんと ◆XksB4AwhxU:2008/02/05(火) 22:40:49
スパナは衛宮で出来ている。:人物が多いと書くのが大へn「だが断る。スパナを生け贄に、衛宮召喚!」
「――ところで。街中で貧血を起こしたって聞いたのだけど」
お見舞いのパイを四人で食べ尽くし。わいわいと雑談に花を咲かせている最中。遠坂が突然、そんな事を言った。
「え?」
「うむ。その通りだが、それがどうかしたのか?」
「いえ、特には。ただ、健康そうなお二人が急に倒れた、というのが不思議でしたので」
何でもないことのように遠坂が話す。だけどそれは、何と言うか、コ○ンが犯人を追い詰めるようなものに聞こえた。
「医者が言うには、それこそ『急性の』鉄分欠乏症だそうだ。まあ、我々には月に一度、血を失う日がくるものだし、不思議はあるまい」
「か、鐘ちゃん……それを言うのはどうかと思うな……」
際どい下ネタ発言に、由紀っちの顔が赤く染まる。
「ふむ。事実は事実だし、ここには男子はおらん。別に恥ずかしいことはあるまい?」
「誰に聞かれても恥ずかしいの!」
「由紀っち憧れの遠坂もいるしなー」
「蒔ちゃん!?」
ニヤニヤと笑いながら、由紀っちをからかう。予想通り、顔を真っ赤にして抗議してくる。
「倒れた日は、『あの日』だったわけね?」
「む……?」
遠坂は尚も食い下がる。鐘っちは不思議そうな顔をして、口を閉ざす。しかし、遠坂の目を凝視したあと、素直に答え始める。
「いや、私も由紀香も……先週に終わっている……」
「そう。じゃあ、何で倒れたりしたのかしらね?」
「そ、れは……」
「偶然? それとも……」
「そっ、そんなこと、『覚えていない』……!」
絞りだすかのような擦れ声。実際、鐘っちの顔は険しくなり、口元が――顎が震えていた。
「覚えていない。覚えていない、か。『知らない』でも『分からない』でもなく『覚えていない』……」
ぶつぶつと、遠坂は眉をしかめて何かを呟いている。良く聞こえない。遠坂らしくない。いつもの遠坂らしくない。何かがおかしい。
やがて、遠坂は決意したように顔を上げる。それはきっと、一言のナイフを話すために。日常を刺し、普通を削り、常識を血みどろにする。
恐い。改めて遠坂 凛という存在に恐怖する。始めて恐怖を覚えたのは、それこそ初めて会った時。嫌味にもならないぐらい完璧な女生徒、対峙した時の受け入れるけれど探る視線。柔らかいけれど拒絶する仕草。その全てに恐怖し――恐いぐらい魅かれた。
さっきまでの和気靄々とした空気は逃げ、固まる前のコンクリートのようなどろりとした空気が現れる。そんな現象を引き起こしたのは、遠坂 凛というただ一人の少女の手。
そして。
遠坂の、口が、開く/ナイフが、振り上げ、られる。
「そ」
「だっ、――だが断るッ!!」
その次の瞬間私は叫びそしてそびえ立つ。
ガターン! と。簡易イスが喧しい音を立てる。
しかし、そこから先が続かない。そんなの当たり前。
この場の主役は遠坂で、
この場の台詞は遠坂で、
この場の空気は遠坂だった。
だから私は空気を壊す。空気を私は読まずに壊す。空気を読んで私は壊す。
他の三人の視線が私に集まる。その視線を受けて、ようやく体が動く。ネタ振りは完璧、後は派手にスベるのみ――!!
「スパナを生け贄に、衛宮を召喚ッツ!!!」
懐に忍ばせたスパナを、投げ放つ。スパナ、宙を舞う。緩やかな曲線を描き、微妙に開いた病室のドアから飛び出すスパナ。カランカラン……と軽い反響音を立てるスパナ。
そして、静寂。
重苦しい沈黙に耐え切れなくなった頃、由紀っちが視線で問うてくる。いきなりどうしたの? と。
「い、いやー、こうすれば衛宮来てくれるかなー? って思って。って言うか衛宮ってばひどいんだってばよ!? お見舞い行こうぜって誘ったのに、『今日はバイトがあるから』とか言いやがったんだぜ! しかも私とバイト、どっちが大事なの? って聞いたら『バイト。』だってさ! 即決かよ! 少しは悩めよ! ムカついたから衛宮の懐からスパナをパチっておいた! 奴は全然気付かずバイトに行った! 可憐でうら若き乙女を放っぽりだして男は働く……正にしょぎょーむじょーだよな! ところでしょぎょーむじょーって何だろう、速いのかな!? 黒豹とどっちが速いのかな!?」
勢いに乗って私は喋る。喋りまくる。私、間真贋(※『マシンガン』一発変換)だもん!
呆然とした空気を裂き、言葉を発したのは鐘っちだった。
「あー……楓が可憐でうら若き乙女かどうかは置いておくとして」
「そこかよ!? まず真っ先に突っ込むところがそこかよ!」
「恋人に『私と仕事、どっちが大事なの!?』と聞かれて、『パチンコ!』と答えた御人なら知っているぞ」
「ひ、ひどい人だね……? 誰なの?」
「うむ、昔通っていた塾の恩師だ。面白い御仁でな? 田山 花袋の蒲団を『日本で初めて出版されたストーカー小説』と言うのだ」
うわー。覚えやすいけど間違って覚えそうだー。
ちらり、と遠坂の様子を伺う。
「――ふふ。面白い講師ね。さぞや人気があったんでしょう?」
良かった。普通で、日常で、常識だった。
「さーて、折角パチったスパナを盗られないうちに回収するかー」
「盗るのはお前ぐらいだ、蒔の字」
「と言うより蒔寺さん? 本気であんな方法で衛宮君を呼ぼうとしていたのかしら?」
「衛宮君はそこまで変じゃないよ?」
皆から痛い視線を受ける。……うう、私頑張ったのに。あんなに頑張ったのに。泣いていいですか?
「わ、私だって分かってるよぅ! あんな方法で来たら、そんなのただの変態だよ!!」
「……何で俺のスパナがこんな所に?」
「「「「ホントに来ちゃったーーー!!!?」」」」
四人のツッコミが唱和する。声のする方を振り向いて見れば。放り投げたスパナを片手に、ドアを開けている衛宮 士郎その人だった。
「何で衛宮が何でここに何でいるんだよ!? 手前さてはエミヤーマンだな!?」
「何の話だ? て言うか呼んだのは蒔寺だろ?」
「スパナで呼び出されてんじゃねぇよ! このあほ時計!! 変態ハードル!!! 鬼畜スプリンクラー!!!!」
「何でさー!?」
ちなみに今叫んだ三つの物には共通点があるよ! なーんだ? 答え:衛宮が直した物。
衛宮はスパナを懐にしまいつつ(しまうなよ)、反対の手に持っていたフルーツバスケットを差し出してきた。
「氷室、三枝。これお見舞い……って遠坂!?」
今頃気付いたのか。
遠坂はさっき叫んだ時の唖然とした顔を引っ込め、優等生の顔になっていた。
「あら衛宮君、奇遇ですね? 今日はバイトがあると伺っていましたが?」
「あー……バイトには行ったんだけど、お見舞いのことを蒔寺から聞かされてて、少し気になってたら仕事でミスして……事情をネコさんに話したら、『代わりの人は私が見つけておくから』って言って……あ、ネコさんっていうのは、バイト先の店長の娘で……」
「要するに、店側の配慮でお見舞いに来られることになったのね?」
「お、おう」
しかめっ面で視線はきょろきょろ、空いた右手は学生服の裾を掴んだり離したり。そんな衛宮。
これはまさか……。
「いっただっきまーす♪」
私にフルーツを食べさせたかったんだな!
バスケットからバナナを一本掴み出し、頬張る。
「こら蒔寺。これは氷室と三枝へのお見舞いだぞ」
「ふはは。ぼーっとしているのが悪いのじゃ」
さらにリンゴを取り、丸齧《かじ》りしようとする。その瞬間、衛宮の手によって奪い取られる。
「私のリンゴに何するんだよ!?」
「……はぁ。分かった、食べるのは止めない。だからせめて丸齧りはよせ」
衛宮は懐から果物ナイフを取り出し(何で持ってる?)、リンゴを八等分する。芯を切り抜き、皮を矢印のように切り取り、若干切り込みを入れる。そして、フルールの紙箱を破り取った即席の皿の上に、リンゴから生まれた月の使者が鎮座した。
「ほぅ……」
「ウサギだ……!」
「へぇ。やっぱり器用なのね」
「こ、これぐらいなら……簡単だ」
鐘っち、由紀っち、遠坂の三人の言葉に、そっぽを向いて頬を掻く衛宮。
……はっはぁ。さてはこの中の誰かに惚れてるな?
誰に惚れてるかは知らないが、ここは一つ協力せねばなるまいて(・∀・)。名付けて『衛宮って無愛想な人だと思ってたけど、面白い人だったのね! 私惚れちゃうっ!』作戦だ!
さて、衛宮には――。
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最終更新:2008年03月06日 22:27