369 :はじめてのさーう゛ぁんと ◆XksB4AwhxU:2008/02/14(木) 21:07:28
エドワード:面白い芸を見せてもらおうか。
ここは一つ面白い芸を見せてもらおうではないか。
「なー衛宮ー」
「何だよ」
「何か面白いことしてくれよー」
「いきなり言われてできるかっ」
ちっ。つまんない奴。
しかーし、ここで諦めてたまるか。
「良いじゃんかよー暇なんだよー退屈なんだよー」
「だからって俺に芸を振るな」
「由紀っち由紀っちー。衛宮の芸見てみたいよなー?」
「そこで三枝に振るな」
突然声をかけられた由紀っちは、ふぇ? と曖昧な音を出す。
「えっと、その……」
「なー? 見たいよなー?」
「……す、少しだけ」
控えめな、だがしっかりした肯定の意に、今度は衛宮がふぇ? と発した。
「あそれ、え・み・や! Hai、E・MI・YA! つっよいぞぼっくらっのメ・イド・ガイ!!」
「一人で衛宮コールするな。後誰が仮面でメイドなマッチョだ」
「……え、えーみーや。えーみーや。」
「お。珍しく由紀香がノッてきたな」
「さて、衛宮君はどんな面白いことをしてくれるのかしら?」
私が煽り、衛宮がツッコミ。由紀っちがノッて、鐘っちは眼鏡を光らせ、遠坂は微笑む。
――あ。遠坂の目が何となく怪しい。例えるならそれは、悪戯に翻弄される人間を、楽しそうに眺める小悪魔のような。
皆の視線が痛かったのか、ぐっ、とだけ言って衛宮が押し黙る。やがて、意を決したように口を開いた。
「分かった。やるよ、芸」
おぉぉー! ぱちぱちぱちーっ。どんどんパフパフパフー!
「ただ、期待するなよ!? 準備もしてないし、そもそもこういうの苦手だし……!」
「言い訳は良子さん! さっさとやるヨロシ!!」
「いつの時代の何人だっ」
「で、何をするつもりかしら?」
衛宮はため息に似た深呼吸を一つすると、
「モノマネを」
と呟いた。
そして、すっと瞳を閉じた。
空気が変わる。
衛宮を中心に、空間が変わっていく。
私達の発した空気も、衛宮色に塗り替えられ、やがて衛宮へと取り込まれていく。
……いや、取り込まれたのは私達の方なのかもしれない。
視界に衛宮が入るのか、衛宮が世界に居るのか。あるいは破壊を射るのか。あやふやな俯瞰。
衛宮はゆっくりと緩く拳を握り、上下に重ねてヘソの前に置く。何か細長い物を持ち、構える仕草だ。
その構えは不動にして一閃。落とした重心は堅く、力みの無い体は俊敏。
すぅ……はぁ……。
呼吸が聞こえる。虫の声のような小さく小さい音なのに、今ははっきりと聞こえる。それもそのはず。なぜならここは世界《衛宮》で、そこに衛宮《私達》が居るのだから。
すぅ……。
吸気と共に、下地を整え、
はぁ……。
呼気と共に、無駄を削ぎ。
すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……。
外観を整え、内面を解体し。動作を模倣し、工程を無視。共感を引き入れ、狂感を取り除く。
「!!」
衛宮が目を見開く。
両手を思いっきり振り上げ、空気を引き裂いて叫ぶ。
目蓋の裏にだけ存在したものを、こちらの世界に引きずりだす言葉《呪文》を。
「ふぃっっっっっしゅ!!!!」
引き裂かれた空気は真空を生み、辺りを静寂に包み込む。渦を巻いた酸素が真空を押し退け、甘い香りとなって漂う。
やがてゆっくりと衛宮は手を下ろし、そして、
「ふぃっっっ――――!!!!」
「繰り返すなぁ!!」
ドゴン、とやたら良い音でめり込む私の拳in衛宮の顔。脇を締めてー抉りこむようにー。
「つーかお前は何だ!? 何の真似だ!? 誰を真似た!?」
「えっと……ブラックバスを釣ることに命を懸けた少年の漫画で――」
「知ぃらぁねぇえぇよぉ!!」
倒れた衛宮にまたがって、襟首前後にがっくんがっくん。
「私らが知らないキャラを真似してどーするんだよ!? もっと他にあるだろーが!」
「わかっ、わかわかっ分かったから揺らすなまたがるな重い!」
「私は重くねー!!」
そんなわけでテイクとぅー!
「次は何をやるか、事前に言えよなー」
「わ、分かったよ」
再び目を閉じた衛宮に釘を刺す。
「じゃあ次は、暴れん某将軍――」
「ほう。これは期待できそうだ」
時代劇が好きなのか、眼鏡を光らせ鐘っちが唸る。て言うか一々光が反射して眩しいんだけど。
まあなにはともあれ、今度こそ楽しめそうだ。
「――を見た翌日の後藤くむぐりゃっ!?」
「だから誰だよぉぉぉぉ!!!!」
地獄突き、地獄突き、地獄突き、地獄突きぃ!!
衛宮咽喉、衛宮眉間、衛宮頬骨、衛宮咽喉ぅ!!
僅かによろめいただけの衛宮は説明を始める。しかし、二度に渡る喉への直撃に、多少首をさすっている。
「げほっ……後藤君って言うのは俺のクラスメイトで、昨晩見たテレビの口癖が翌日に感染す《うつ》るという特技を持った男子だよ。あと、昨晩家が大破したらしい」
「衛宮のクラスメイトなんか覚えてるかぁぁぁぁ!!」
「家が大破って大丈夫なの!?」
「やはり衛宮か……」
要らない説明に、三者三様の反応を示す。遠坂だけは、なぜかビクンッと体を震わせたあと、首を傾げた。
「まああれだな。衛宮に面白さを求めたあたしらが間違ってた、っつーことでFA?」
「ファイナルアンサー、だな」
「……たかが一発芸なのに悔しいのはなぜだろう」
衛宮は病室の隅で『正義』の字を書き始めた。
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最終更新:2008年04月05日 18:12