209 :遠坂桜 ◆0ABGok2Fgo:2008/02/05(火) 21:58:55


2.衛宮士郎の日曜日

 夢というのは、自分の裡にあるものらしい。
 過去や深層心理が夢の形をとって現れるのだという。
 しかし、それにしては妙である。目の前に広がる情景に、士郎は覚えが無い。
 そこは僅かに光射し込む土蔵。
 女は細い息で男を見ていた。既に視界は滲み、その姿も正確には捉えられない。
 けれど、女は心の底から嬉しかった。男と会えただけで、至福が胸に広がっていた。
 すまない、と男は言った。女は嘘偽りのない笑みで答えた。
 ――いつか、………に見せてあげて、サクラの花を、夏の雲を――
 そうして女は『理想の具現』を委ね、男はそれを受け取る。
 いつの間にか、士郎の視線は男のものになっていた。
 じゃあ、行ってくるよ。男はそう言い、士郎もそう言った。
 土蔵の外へ出ると、太陽のあまりの眩さに視界が白く染まった。
 そうやって不可解な夢は閉じるのだ、いつも変わらずに。
「……何なんだろ、あの夢」
 士郎は呟いた。
 湯気と香り沸き立つ味噌汁をぼんやりと眺め、炊飯器の仕事が終わるのを待っている。
 日課の鍛錬も終え、朝食の準備もほぼ整った。
 他にやることもなく、士郎は今朝の夢を思い返していた。
 士郎はあまり夢を見ない。
 見るときも内容は決まっていた。少なくとも記憶に残っていたのは赤い地獄だけだった。
 それが、何故あんな夢を見るようになったのだろうか。
 この二ヶ月はしばしば現れ、しかも内容をはっきりと覚えている。
 自分に通ずるものが、あの夢にあったとも思えない。
 土蔵繋がりだっていうのなら、他の話を夢に見てもいいだろうに。
「この家、色々と曰くがあったって話だしなあ…」
 炊飯器が笛を吹き、作業の完了を告げる。
 士郎は堂々巡りになっていた考察を切り上げた。
 家を出るまでに時間はあるが、余裕はあまりない。お弁当も用意せねばならない。
 自分の分だけなら楽なのだが、間桐慎二と藤村大河の分まで作るのである。
 付け加えれば、ハゲタカ連中や一成のことも考慮に入れて多めにする必要もあった。
 肉の味しかしない学食より、士郎の手料理の方が女子には好ましいらしい。
 こうなると、ちょっとした寮母さんの気分である。
 炊き上がったごはんを弁当用と朝食用に分け、士郎は後者をお椀に盛った。
「おーい、ごはんだぞ」
 士郎は居間に向かって呼びかけた。


虎:大河は歓喜の声を上げた。
藻:慎二はやる気の無い声で応じた。
乱:大河と慎二は歌い始めた。


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最終更新:2008年03月06日 22:50