434 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2008/02/18(月) 02:37:58


「名城、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「え? 何?」
「その、オーギュメントの必殺技……カレイドフェノムだっけ? アレを撃てるのは一発と考えた方が良いよな?」
様々な思考が浮かぶ中で幾つかの可能性を除外しつつ聞く。
「うん、それで?」
「足止めに特化したカレイドフェノムはあるか?」
「……幾つかあるけど、あの速度が相手だと厳しいかも」
少し考えてから名城が答える。
「当てる自信は無い、でも手段は『ある』んだな」
「うん、ある、けど……」
「なら行ける」
交差点の中央に莫耶を突き立てる。
「ライダー頼みの大味な作戦だが、紛れはないはずだ」
「あれは一直線にしか発動できないから真正面に立たないとならないし、打つまでシールドが持つかどうか分からないし……」
「……安全に立たせてみせるさ」
自信たっぷりにそう言いながら、その実自信などまるで無い。
だがこの膠着状態を長く続けるわけには行かないというのは共通の認識ではあった。


作戦の大まかな説明を終え、帰ってきたのは否定だった。
「先輩が危険すぎます」
「それに無茶しすぎ、命がけでしょ、それ」
「そうですよ! それなら私がやります」
「でもな、他に確実な作戦は無いだろ? だからやる……少しくらい格好付けさせてくれないか?」
そう言って歯を見せて笑ってみせる。
震える足を叩いて止める。
呆れるような溜息が漏れた。
「そういう事を言うとは思わなかったわ」
「私も初めて聞きました」
「……今日の映画の影響かな」
その言葉で一瞬だけ笑う。
気付けば桜も、名城も口元に笑みを浮かべていた。

名城の手、その甲が胸元に触れる。
「頼んだわ……行くわよ桜」
少しだけ表情に迷いを浮かべ、背を向ける。


一度深呼吸をして左右を見やる。
左手側には屋根の上に上った桜がこちらを見やり準備良しのサインを送っている。
右手側では名城が忙しげにオーギュメントの準備をしている。

『あと5秒』
桜からの念話が入り、雑念を打ち切ると、僅かに血の残る干将を構える。
名城が準備良しのサインを出す。
弓を引き絞るように、目標点を見据える。
『3秒』
脳内に設計図を走らせる。
同時に走った頭痛は、全身に広がり掛けている。
設計図を走らせただけで既に限界は近い。
この魔力行使に失敗すれば自滅するという事実を理解しても止まらない。
『1秒前――!』
屋根の上で桜が立ち上がる。
視界の先にライダーが現れ、その直後に敵が視界の中に現れる。
それと同時に、干将を渾身の力を込めて投擲する。
『ゼロ!』
桜が屋根の上から魔術の連べ打ちを放つ。
ダメージなど無い、だが一瞬ライダーからの注意を逸らし、それと同時に干将が敵の目前に到着する。

――I am the bone of my sword

全身に魔力を滾らせる。
それを驚異と見て取ったのか、それともただ目の前に在ったというだけの理由か。
既に射程の外に逃げ去ったライダーも、屋根の上で連べ打ちを続ける桜をも無視し、真っ直ぐに直進してくるのが見えた。
その背後に存在する、そうと認識できるほどの空間の歪みは、腕に突き刺さったオーギュメント『ロッティン・バウンド』のカレイドフェノムの前兆に他ならない。

絶叫と共に『それ』が放たれる。
それは颱だ。
全てを飲み込む大竜巻が迫る。
非現実でありながら現実を侵食する強固なる幻。

それに対する手段はただ一つしかない。
阻む物の無い路上で、走らせた設計図を真名と共に真実と為す――!

狂い、暴虐を振るうのみとなったバーサーカーが一瞬動きを鈍らせる。
目の前に現れた物への対処を決めかねたのか、その宝具の特性故の僅かな隙故か。
そこにあったのは城壁である。

熾天覆う七つの円冠。
かつての『アーチャー』が最も得意とした防具であり、衛宮士郎の使える最大の防壁である。
だがそれは同時に自らを切り裂く鋭い刃に他ならない。
既に数度の投影を行った上での最大の護りの展開。
それは脳髄を切り裂くような幻痛を巻き起こし、防壁の維持さえも不可能としてしまう物だ。
歯を噛み砕くように食いしばる。
だが続いて巻き起こった炎の柱が、存在を失いかけた城壁を吹き飛ばしていく。
阻む物の無くなった路上で、それでも両者が笑みを浮かべた。

輝く泥のような波紋がバーサーカーの周囲に広がっていく。
その泥に飲まれ、衛宮士郎の存在が歪められ、空間内に情報体として撒き散らされる。
だがそれは分かっていたこと。
狙いの通り、バーサーカーが立ち止まったその位置は、名城の真正面。
この時あるを待っていた名城に対し、ウツロはその存在すら知覚できていない。
その完全なる隙を突き、名城の『ジーザス・シュラウド』がそのカレイドフェノムを発動させる。

炸裂する数個の光塊。
それは呪縛の『原罪』だ。
ありとあらゆる色を含んだ呪縛の光がウツロを包み込み、本来僅かでしかないオーギュメント特有の隙を最大まで拡張し、その身を停止させる。
時間にすれば数秒でしかない隙。
だがそれだけの時間、完全な自由を得ていたライダーが何をしていたか、最早それを考える時間すらバーサーカーには与えられていない。
魔力が奔り非現実の空間ごと切り裂いていく。
切り裂かれた首より溢れる血液が魔法陣を描き、その身が白い光に包まれる。
光の中から現れたのは幻想種たる天馬。
その天馬を完全なる兵器へと変える輝く縄を手に、周囲を薙ぎ払いながら舞い上がる。。
『騎英の――
僅かの後に軌道を変え、直上から舞い降りる光は、まさしく雷光だ。
――手綱!』
まるで互いに引き寄せているかのような速度で、雷土が地上を撃つ。
絶叫が響く。
痛みによる苦しみの叫びではない。
その絶叫は、恍惚による物。
その恍惚と共に、バーサーカーはその身を消失させた。


『Battle Termination』
センターオーパスのその表示と共に、再び世界が揺れ、非現実の空間は現実空間に上書きされる。
三者が、三様に消え去った衛宮士郎を呼んだ。

最初に倒れている衛宮士郎を見つけたのはライダーだった。
すぐさま駆け寄り、状態を確認する。
「う……ライ、ダー?」
「はい、無事ですか? 士郎」
「ああ、なんとか……気分が悪い程度で、何の問題も……」
立ち上がろうとして、再び倒れ込む。
「無茶をする……幾ら『空間が消滅すれば元通り』と言う説明を受けていたとはいえ」
「……全くです」
桜は安堵していたが怒ってもいた。
情報空間に撒き散らされる瞬間を目撃していたからだ。
それは酷くショッキングな光景だった。
「いや、ホントは食らうつもりは無かったんだけど……間に合わなかったんだ」
そう言って衛宮士郎は頭の中に残った設計図を消し去る。
幾らか頭は晴れたが、肉体はまるで自分の物とは思えぬままで、正に満身創痍と言って良かった。
「まあ、結果良ければってことで……それより三人とも、大丈夫なのか?」
「私は大丈夫です」
「少なくとも士郎に心配されるほどではありません」
「うんうん」
桜、ライダー、名城が順に答える。
「とりあえず安全な場所に隠れていてください、私は他の面々に連絡を取りに行きます」
説明する暇など無かったが、ライダーはこの戦場における状況をほぼ正確に判断し、優勢を確信していた。
このSC空間突入直前に、戦場に来た全員の無事を確認している。
このまま戦闘を続ければ、恐らく敵を圧倒できるだろうという確信があった。
「そっか、とりあえず少し……」
ふーっと力が抜け、最後まで言い終えることなく意識を失った。
「無理もありませんね……二人とも、士郎をお願いします」
そう言って、士郎の身体を二人に預けた。


不退転:それと同時、殺意を感じた
暗殺者:同時刻、ビル内下層
騎乗兵:同時刻、ビル内上層


投票結果


不退転:1
暗殺者:5
騎乗兵:0

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最終更新:2008年04月05日 17:26