861 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2008/03/06(木) 04:31:00
「一度退くのが賢明ですわね」
決断までの時間は極々短いもの。
既に異常繁茂した半ばまで破れていた窓に体当たりし、そのまま外へと跳び出す。
常人ならば足を折り、命さえも危うい突破口。
しかし彼女は魔術師であり、それに仕えるのは英霊として人外の域に置かれた存在である。
跳び出すと同時に着地地点を視認し、気流、質量を操作し着地に備える。
「これを選んだということは、下のアレをどうにかするのを優先する、と言うことで良いんだな?」
同様に着地したジェネラルが自らが跳び出した地点へ向けて連べ打ちを行い、数人を撃ち抜くと共に残り全ての頭を下げさせる。
「ええ、上の敵、情報は得られたのでしょう?」
「一応、おおまかなところはな」
それを使って有効な手だてが立てられているわけではないが、戦闘能力については大凡収集できている。
前後から現れた男女についての情報は特に得られていないが、追撃が無い事から判断して大きな戦闘能力は無い物と判断する。
「それで十分、とは言いませんが……」
着地し、僅かに残る衝撃を前方宙返りで逃し、砲火の先の敵を見据える。
「今は完全に未知のこちらに集中しましょう」
「とはいえ、どう攻めるね? 銃砲撃の類でダメージは与えられているようだが……あの調子だぞ」
ドロドロとカラダから崩れて落ちた液体がスライムのように蠢き元の姿に戻っていく。
「本格的に不気味ですわね……」
不快さを隠す事もせず、だが冷静に見据える。
小銃の銃弾を幾度となく受け、それでも止まることなく砲座へ突撃し破壊する。
そこには驚異を排除する、と言う本能だけでなくどこか意思のような物を感じ取れた。
「見たところ無差別破壊をしているわけでは無い……だとすれば司令塔があるのではなくて?」
例えるならば、前面に展開させた兵士にとってのジェネラルのように。
「だとすれば中央の『女王蟻』、そう名付けることにするが、あれがそうなのではないか?」
「残骸を食べ散らかす異形に知恵があるとは思えませんわ、その他の小物も同じ」
「……なるほど、アレは命令をこなすだけであとは暴れ食し繁殖するだけの存在と言うことか」
それは理性的な思考ではなかったが、感情的にはジェネラルも同意してしまうに十分な異形だった。
「それが正しいとすれば命令は極めて大雑把な代物で……あれを操る魔術師が居る、と言うことになるか」
周囲を見渡してみるが、それらしき存在は視認できない。
それは必然である。
どこからでも見られるような場所に居るとすれば狙撃の危険があるし、そもそもわざわざ戦力から離れるとは思えない。
そして周囲の灯りと呼べる物は街灯以外には月明かり程度で、遠距離からの視認は不可能ではないが難しいだろう。
「暗視装置の類でないとすればあとは魔術と……」
ジェネラルが言葉に詰まる。
「まさかさっきの連中に隠れていたか?」
仮説が正しい物として操作、という点に関して言えば上の敵と下の敵は同一の物だ。
操られた振りをすることも不可能ではないだろうし、『自らを他人のように操る』ないし他人と同時に操ることも可能かもしれない。
可否の判断は置くとして、そうだとすれば外見から判断することは完全に不可能と言うことになる。
「確かにそれは可能でしょうが……そう言った類の魔術を好む魔術師が居るとは思えませんわ」
魔術師は自我を強く持つ。
それは彼女自身がそうだったし、彼女の知る全ての魔術師が自我を優先していた。
それが例え一時的であり、手綱を自らが握っているとしても『操る』魔術の対象を自分とするとは思えなかった。
しかし、それでもその可能性を捨てず、ビルへと振り返る。
その途中、視界の隅になにかが映った。
「あれは……」
動いてしまった焦点を視界の隅であった場所に向ける。
見えたのは――
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最終更新:2008年04月05日 17:30