330 :遠坂桜 ◆0ABGok2Fgo:2008/02/11(月) 22:05:59
朝食後、大河は一足先に学校へ向かった。
教員である大河は、部活動の監督以外にも仕事があるのだという。
この機を狙っていたのだろう。慎二は二人になると、すぐにブツを取り出した。
「ほら、衛宮。本とCD-R」
「…なあ、慎二。こういうのさ、いつも持って来られても困るぞ?」
「嘘つけ。一度も受け取り拒否したことないくせに」
士郎は目を逸らした。手は何気なく、ブツを確保している。
慎二の品にハズレはなく、バイトの同僚たちへ有効な交渉材料となる。
加えて、士郎だって男の子なのである。良質なブツを突き返す理由はない。
最近のお姉さん系と金髪さん系の不足。士郎の不満はそれぐらいのものだ。
「しっかり隠せよ。僕が巻き添え食らうのだけはゴメンだからな」
「心配すんな。藤ねえの漁りそうな場所は避けてる」
「よし。しばらく入荷はないから、あまりバイト先でバラ撒くなよ」
「わかった」
間桐邸に帰りたくないが故に、慎二はしばしば衛宮邸に泊まる。
その見返りとしてなのか、慎二は半ば強引にブツを置いていくのだ。
慎二らしい、妙な公平さの保ち方だった。
一通り品々を眺め終わると、士郎は危険物の隠匿を開始した。
CD-Rはパソコンの横に。機械に疎い大河が触れることはない。
本は自室の押入れに。スペースは少ないが、バイト先で処分するので問題はない。
要は、大河にさえ発見されなければ問題はないのだ。
「慎二、そろそろ出掛けるぞ」
士郎が居間に戻ると、慎二の姿はなかった。出掛ける準備をしているのだろう。
「テレビぐらい消せよなぁ…」
士郎は愚痴を零し、リモコンを手にした。が、電源は切らなかった。
ニュース。
冬木での連続通り魔殺人。被害者が一人増えていた。
頭に血が上ってゆくのを感じる。
普通に生きていた人たちが、理不尽に生を終わらされた。
きっと家族がいた。きっと友達がいた。それが、誰かの悪意で殺された。
犯人はまだ続けるつもりなのだろうか?
…もし、そうなら――
「――俺が止めてやる、とか思ってるワケ?」
慎二がいつの間にか、鞄片手に居間に戻っていた。
士郎の手からリモコンを取ると、慎二はあっさりとテレビの電源を落とした。
「…別に。そんな無茶する気はない」
「衛宮が無茶しないって言っても説得力ゼロだね」
「む…」
「刃物で一撃、致命傷。助けを呼ぶ暇もなし。一人きりのヤツしか襲わない。
言っとくけど、素人の衛宮がどうにか出来る相手じゃないよ」
「いや、だから捕まえようとは思ってないって」
「フン。じゃあ、急にバカを思い立たなければいいさ。
四件も続いたんだ。夜中に一人で歩くアホは居なくなる。その間に警察が捕まえるよ」
ミイラ取りがミイラになる、ということがある。
素人の無謀は、被害を増やすだけなのは確かだった。
「慎二は事件のこと、詳しいんだな」
「……まあ、ね。昨日、馬に乗ってるからって、犯人にされそうになったしさ」
「馬なんて飼ってたのか?」
「何が居たって、うちの勝手だろ。
ほら、さっさと行こうぜ。遅れると綾子がうるさいし」
慎二の後に続き、士郎も部屋を出る。
ふと、さっきの続きを考えた。
もし蛮行が続くなら、止める力が必要なのではないか。
そうしないと、誰かの悲しみは続く。増えていく。
それを――止めたい、のだ。
士郎は空を仰いだ。
太陽にかかるように、雲が姿を見せていた。
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最終更新:2008年04月05日 17:36