152 名前: ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/08/20(日) 02:37:30

「わ、わっ!!」

 見ると両手をバタバタと振ってゆっくりと俺に向かって倒れてくる弓塚の背中が……

「たすけ……っ!!」
「弓塚っ!」

 俺は反射的にかわしそうになるのをこらえて両腕で受け止めようとした。
 …………したのだが、思ったより勢いのついた人の体は重いもので、咄嗟に出した腕程度で何とかなるものではなかった。

 まぁ、結果を言ってしまうと被害者が一人から二人に増えただけである。

「「わぁぁぁぁぁあぁ!!」」

 弓塚を抱えるようにして受け身も取れずに新撰組の階段落ちよろしく豪快にゴロゴロと転がり落ちていく。勢いがなくなった頃には俺の体は痛くないとこなんかないくらいの打撲を負っていた。

「いたた…………こりゃあ痣残るかもな」

 不幸中の幸いか、弓塚は俺の腕の中にいたので大きなケガはしてないようだった。実際今も俺の腕にしがみついて…………。

 ……………………何だろう、この腕から伝わる柔らかい感触は。

「………………」

 一種の期待と不安を織り交ぜた目で改めて自分の腕を見やると、

「あ…………遠野君、その……助けてくれたのは嬉しいんだけど」
「………………」

 しっかりと俺の右腕が弓塚の胸をがっちりとホールディングしてるではありませんかっ!

「ご、ごめんっ! 俺、そういう気があってやったわけじゃ…………ってぇ!」

 決して目を合わせようとしない弓塚に弁明しながら腕を離して立ち上がろうとする。
 が、さっきの打撲を失念していたせいで再び全身に何ともいえない痛みが襲った。

「たたたたた…………」
「大丈夫、遠野君?」
「あぁ…………何とか」

 一通り痛みも収まり、今度はゆっくりと膝に力を入れる。やはり痛みはあるがさっきより何倍もマシだ。

「………………」
「………………」

 何とも気まずい沈黙が流れる。不可抗力とはいえやってはいけない事をやってしまったんだし…………
 そうして弓塚が消え入るような声で「……上、行こっか」という呟きが漏れるまでの数分間は俺にとって苦行といえるものだった。


 感想としてはアルクェイドや先輩よりは控えめで、言わずもがなだが秋葉のそれよりはふくよかで、
 まぁ無難な(?)サイズだったとだけ諸君には言っておこう。



 屋上に出ると、夕陽は雲で覆われて美しい橙が雲の縁にしか照らされてなかった。
 俺はそれを少し残念だと思いながらもどこかほっとしていた。理由は分からないが。

「そ、それじゃあ始めようか……」
「そうだね」

 さきほどの照れが残っているのか、弓塚は台本を両手で開けたり閉じたりしながらそう言った。

「おぉ姫よ。そなたは何故そのように姿を見せてくれないのだ」

 扇子の代わりに見開きの台本を右手に掲げてセリフを吐く。

「私は周りが言うような美人ではございません。帝さま、どうかお引取りくださいませ」

 対して弓塚は着物の袖で顔を隠すかのように俺と同じように台本で顔の半分を隠している。

「お願いだ。もう無理に宮中へ連れて行こうとなど願わない。だからお願いだ、我にそなたの姿を見せてくれ」

 懇願しながら一歩かぐや姫に寄る。合わせて姫はこちらに背を向けて顔をうつむかせる。

「………………」
「さぁ」

 帝の言葉に姫は少しずつ袖の向こうから顔を覗かせる。そうして最後にはその麗しい顔立ちすべてを見せることとなった。

「………………はい、そこまでー」

153 名前: ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/08/20(日) 02:38:40


 パン、と手を叩いて屋上の空気が一変して軽くなる。

「うん。十回目でやっと二人ともそれらしい感じになったかな? こんな短い場面だけ十回やってやっとだけどね…………」
「でも出来ないよりはずっといいよ。出来るような所からどんどんやらないと」

 弓塚が先ほどの演技を引きずってるのか照れ笑いで台本を団扇がわりにパタパタと扇いでいる。

「そうだよなぁ……俺たち出番多いし」

 そう。何だかんだで出番の頻出率でいえば一番は弓塚のかぐや姫でいいとして二番目が俺の帝役なのだ。
 後半なんか出ずっぱりだし最後の締めも俺のセリフだったりするし…………。

「アハハ…………思い出したら何か滅入っちゃったね、色々と」
「…………」

 がっくりと俺のうなだれた肩を見て弓塚が苦笑いをする。と、

「ずっと喋りっぱなしで喉渇いたね。何か飲み物買ってくるけど遠野君は何か飲みたいものある?」
「え、いや別に何でもいいけど……」
「そっか。じゃあ私と同じものでいい?」

 いつの間にか可愛らしい財布を手にして、すでに弓塚が屋上のドアノブを握っている。

「あぁ悪い、弓塚。あとでちゃんと払うから」
「いいのいいの、気にしなくていいんだよ。秋葉さんからお小遣いもらってないんでしょ?」
「うっ………………」

 痛いところを突かれて言葉が出なくなる。確かに今月は密かな短期バイトもしてない。
 っていうか妹に財布の紐を握られてるってどうよ、自分。

「そういう事だから気にしないで。それじゃあすぐ戻ってくるから」
「…………あぁ」

 いってらっしゃい、と言う前に俺の視界から弓塚の姿が消えてしまう。
 俺はため息を一つついてからその場に寝転んでどんよりとした雲をずっと眺めていた。

「…………大丈夫かなぁ」

 屋上で練習してから何度目かの思案が口から漏れた。
 正直まともに演れる気がしない。今は観客や余計なものがないから何とか形になっているけど本番では緊張はもちろんするだろうし観客の目が気になって気になって仕方ないと思う。

 俺が再びため息をつこうと思った刹那、



「おやおやこれは。少年、舞台に立ってもいないのに何たるザマだ」
「っ!」



 寒気のする声聞いて反射的に飛び跳ね、中腰の姿勢のままポケットに常備しているナイフをまさぐる。

「ふむ、やはり君は子供向けの舞台よりもそちらの舞台の方が性に合っているのではないかな?
 だが子供向けとはいえ侮るなかれ。君たちが演じようとしているものは洒脱と狂気、克服できぬ滑稽さがある。まさに『彼女』に相応しい物語だと思わないかね?」
「………………どこにいる」

 既にポケットの中の右手には七つ夜が握られていていつでも応戦できる。だが肝心の相手が見つからない。

「どこにいる。ワラキアの夜」
「何処? 愚問だな、少年。私は噂というものがあるいかなる場所にも発現し、一夜限りの殺戮というドラマを楽しむだけの存在だ現象だ私そのものだ」

 饒舌にかつ喜びの色を浮かべた口調は相変わらず聞いていて吐き気がしそうになる。

「御託はいい、出てこい。欠片も残さず "殺し" てやる」
「これは怖いな。だが残念な事にもう私は見えているよ」

 反響していた声が少しずつ集まって一定の方向へと収束していく。
 ―後ろかっ!


 そうして振り返った先には……

1.以前殺し合った時と同じズェピア・エルトナム・オベローンの姿があった
 戦闘+ギャグ+恋愛(18禁?)路線になるかも。収拾つかなくなる可能性大

2.何故か二頭身になったズェピア・エルトナム・オベローンがいた
 ギャグ+恋愛(18禁)路線? まだ何とかなるかと予想(やりようによっちゃシフト可)

3.腕に「名俳優」と書かれた腕章をつけたズェピア・エルトナム・オベローンが……
 二十七祖の助力を借りて演劇の道へ! 演劇一本ルート

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最終更新:2006年09月05日 15:29