185 名前: ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/08/20(日) 14:43:55

「ワラ……キア?」
「どうした少年、急に覇気が失せてしまったぞ。それで演技が務まるとでも思ってるのか?」

 いや、そりゃ覇気も失せるって…………。
 左腕に「名俳優」と書かれた腕章をつけた二十七祖は何故か胸を張っている。俳優なのに何故かメガホンまで持ってるし。

「…………なぁ、お前何する気だ?」
「随分とご挨拶だな。タタリの残滓をかき集めてまで発生してやったというのに」
「何?」

 俺の言葉に不敵な笑みを浮かべてお決まりのお辞儀をして、

「僭越ながら私が手助けをしてやろう。もちろん少年が望むならの場合だが。先に言っておくが勘違いしないでくれたまえ。
 私は見るに耐えない演技を大衆に見せてしまうのが心苦しくてね、それで馳せ参じたというわけだ。
 もとより当分の間発生できない大規模なタタリが出来るまでの暇潰しというのもあるのだがね」

 まったく、随分と長台詞が好きな野郎だ。ともかくあちらが言うように敵意は全くないようなので俺は大人しくナイフをしまった。

「で、助けるっていうのは本当みたいだけど、どう助けるんだ?」
「ふむ……一番は私自身が舞台に立つ事なのだが他の者達が気後れしてしまうからな。いや、その前に真祖の姫君にお灸を据えられるのが先か」
「あぁ、そうかもな…………」

 そうして二人ともシュラインの殺し合いでのアルクェイドを思い出す。何か妙な所で吸血鬼と共感してしまった。

「それが駄目ならどうするんだ? まさかお前が俺達に指導してくれる、なんて言うんじゃないだろうな?」
「いやいや、そのような事はしない。もとよりタタリは他者に依存する存在。自ら進み出るなど愚の骨頂に過ぎん」

 言いながら自己陶酔に浸るように曇りきった空を仰ぎ見る。

「ならば私は私本来の機能を果たそう。タタリとしての機能を、な」
「なっ……! やはりお前は」
「あぁそう身構えるな。先も言っただろう、私に人を殺せるほどのタタリなど起こせない」

 再びナイフを出す俺に対して大袈裟に肩をすくめるワラキア。

「じゃあどういう事だ」
「確かに取り憑くというのに違いはない。だが少年、貴様が今まで見てきたタタリなどとは比較にもならないほど小さく、
 そして悲しくなるほど子供騙しなものだ。私自身が笑いたくなるほどな」
「どうしてお前はそこまで……」
「……………………ふむ」

 僅かな間の沈黙。手に汗握るというほどのものでもなかったがどこか神聖なものに感じられた。

「……いや、私の真意などどうでもよかろう。ただの気まぐれとでも思ってくれ。さしずめ老婆心で茶々を入れる演技狂とな」

 そう言ってマントを翻し再び笑みを浮かべながらこちらを見て、

「それでは今日はここで失礼するよ。タタリの対象は少年次第だ、楽しみにしておく事だな」
「なっ…………おい、ワラキア!」

 俺の言葉を聞かずにワラキアは跡形も無く消えてしまった。代わりに、

「遠野く~ん。飲み物買ってきたよ~!」
「あ…………弓塚」

 入れ替わりで弓塚がペットボトルを抱えて戻ってきた。

「……どうかした? 遠野君」
「え? あ、いや…………何でもないよ」

 その場を取り繕うような声を出してしまい大丈夫かと思ったが、弓塚はしばし首を傾げていたがすぐに考えるのをやめた。

「そっか…………それじゃあまた練習始めようか」
「あぁ、でもその前に少し休まないか? お互いさっきまで緊張しっぱなしだったし」
「そうだね…………あ、その前にハイ、遠野君」

 そう言って俺にペットボトルの片方、どこにでも売っていそうなスポーツドリンクを差し出す。

「わざわざ悪いな、弓塚。本当ならこういうのって男の俺がやるもんなのに」
「いいのいいの。遠野君、運動した後に貧血で倒れる事もあるんだからゆっくりしなきゃ」
「ハハハ…………」

 本当、俺は周りの人に迷惑や心配をかけてばっかりだな。

「ごめんね、同じものって言ったのに私ので売り切れだったみたいで」

 弓塚の手に握られているミルクティーがたぷん、と音を立てる。

「別にいいよ。買ってもらったのに文句言うのもおこがましいし」
「うん、ありがとう。ところでどこで休もうか? そろそろ下の皆の様子も気になるけど、ここで休んでそのまままた練習しようか?」
「う~ん、そうだなぁ…………」

和.このまま屋上で休む。二人でまったりと会話タイムへ
戻.一回皆の所に戻ろう。やっぱり抜け駆けはよくないよね?

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最終更新:2006年09月05日 15:30