884 :遠坂桜 ◆0ABGok2Fgo:2008/03/06(木) 21:42:22


 夜の街。煌びやかな灯りの数々。
 それが自分にひれ伏しているように思えて、慎二は笑った。
 事態は予想通りに回っている。
 予期せぬ事件との遭遇やサーヴァントの独断行動はあったが、目的は遂行できている。
 この一週間、冬木市内を駆け回った。自重していたサーヴァントも焦れてくる筈だ。
 英雄なんて、気の大きな馬鹿が大半なのだ。
 我が物顔で鼻先を駆け回る慎二たちを快く思っている訳がない。
 上手くいっている。慎二自身のサーヴァントを除けば、だが。
「暇だな。誰ぞ動き出さんのか」
 プリンの群を抱え込み、ライダーは言った。
 彼女は星々纏う金の髪を持ち、女神の如き優雅さに包まれた英霊。
 瞳には陽光の輝きがあり、眉には武勇を秘めた豪胆さがあった。
 埒外の美しさは、やはり人の血だけでは生まれぬのだろう。
 だがそんな女が胡坐をかいて、安物のデザートを平らげている様は実に滑稽だった。
 慎二は咎めるように、視線をライダーに向けた。
「…あまり見るでない。照れる」
 ライダーが頬を染める。
 薄いドレス一枚で跳び回るくせに、この反応は何なのか。
「どうでもいいけど、ちゃんと見張ってろよな、バカ」
「ぬ…バカと言ったか」
「バカにバカって言って何が悪いのさ」
「一応言っておく。撤回しろ」
「ハッ。お断りだね、バーカ」
「そうか」
 ライダーは無造作に慎二の首根っこを掴んだ。
 小高いビルの屋上とは眺めが良いが、宙吊りにされた場合はその限りではなかった。
「きゃあぁあっ!」
 そのまま有無を言わさず、女性的な悲鳴を上げる慎二を足場の先へと突き出す。
 無論、慎二の顔は女性的ではない。モナリザよりムンクの『叫び』との類似点が多い。
「謝る気になったか?」
「や、やめろ! やめろって!」
「本を使うか? 痛みがあると、つい手を離すかもしれんが。
 何も言わぬならこのままだが、私は腕力に自信がなくてな」
「謝る、謝るから! だから、や~め~て~!」
「よしよし。ならば、よかろう」
 ライダーは慎二を引き戻して頭を撫でた。
 ライダーの豊かな乳房が目に入る。
 慎二は反射的に手を伸ばした。
 しかし目標は英霊である。当然のように避けられ、慎二は尻を蹴っ飛ばされた。
「痛って…何すんだよ!?」
「……貴様な、子供でなければ殺しているぞ」
「なっ、ガキ扱いするな!」
「そうか。では殺そう」
「…いや、待ってよ。僕って、まだ大人ではないよね?」
 慎二を刺すライダーの目は冷たかった。
 その目線が不意に夜の街へと向く。瞳に灯った光は強く、戦士の輝きだった。
「動いた。あそこだな」
 ライダーが深山町の一角を指し示した。
「詳細はわからんが、サーヴァントがあそこに居る。魔力を感じた」
 ライダーの指す先に広がる街。衛宮士郎の家に余りに近過ぎる。
 嫌な予感が慎二の胸を襲った。焦燥が胸を焼き、慎二に鞄をひっくり返させる。
 予想通りそして意に反して、携帯電話でコールしても士郎は出ない。
「何で出ないんだよ、アイツ…くそ!」
「そうか、あの少年の住まいがある辺りか。では、ゆるりと構えている訳にもいくまい」
 虚空から白馬が現れ、ライダーは躊躇なく跨る。
 対照的に慎二はうろたえた。
 慎二からすれば、一対一での本格的な戦闘は時期尚早だった。
 今は撹乱と諜報に徹し、漁夫の利を得るべきなのだ。
「お、おい。
 まだ行かないぞ。どんなヤツか判らないんじゃ、勝ち目があるかも――」
「黙って乗れ。友を見捨てる気か?」
 ライダーは言った。異論は認めないと、その目が語っていた。


再:文句を言いつつ、ライダーの胸に手を伸ばす。
小:白馬に乗る。
論:だが断る。


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最終更新:2008年04月05日 17:44