584 :はじめてのさーう゛ぁんと ◆XksB4AwhxU:2008/02/26(火) 20:49:20
チョコを省いたチョココロネ:「まだあった! 俺の一発芸!!」賢い衛宮は反撃の方法を思いついた。
「まだあった! 俺の一発芸!!」
『正義』の文字を37個ほど書いていた負け犬が、突然立ち上がった。どうでもいいけど、正義の『義』の字が『技』になってる。
「あーうん、もーどーでもいーよー?」
「お前からネタ振りしたのに、ひどいな」
だって衛宮だしー。
「こ、今度は何のモノマネかな?」
「……由紀香よ。実は気に入っていたのか?」
「いや、モノマネじゃないんだけど……。
準備が必要だから十分、いや五分待っててくれ。すぐ戻るから!」
言うや否や、衛宮は病室から飛び出していった。
「あ、外行くなら何か食べ物買ってこーい」
走り去る背中に言葉を投げ付けるが、跳ね返されて廊下に落ちた。
「何か衛宮って、落ち着きがなくて慌ただしい奴だったんだなー」
「う、うん。私は寡黙で事務的な人だと思ってたんだけど……」
「まあ、何にせよ蒔にだけは言われたくないだろうな」
「うがー!? 花も恥じらう大和撫子を差して何を言うかー!!」
怒りに任せて鐘っちの額を小突く小突く。鐘っちは欝陶しそうに手で払う払う。
「ま、待たせた……な」
衛宮が再び現れた。
「なっ!? 衛宮君、貴方……!!」
なぜか汗だくで。遠坂が驚くのも無理はないと思う。腕時計を見ると、きっちり五分後だった。
無言で差し出された紙袋を受け取る。チョココロネが入っていた。しかも人数分。
「衛宮って、時々可哀相になるぐらい律儀だよなー」
「ところでなぜチョココロネなのだ? 嫌がらせか?」
「衛宮君、汗凄いよ? タオル使う?」
「蒔寺、うるさい。氷室、何となくだ。三枝、大丈夫だからそのピンクのタオルは引っ込めてくれ」
一息でツッコミ切ると、額に浮かんだ汗を手で拭う。
「回路生成最速記録……ふふふ……」
衛宮が何か言ったが、小さすぎて聞こえなかった。
そしてなぜか、遠坂が無言で奴を睨んでる。
「じゃあ芸やるぞ。三枝、バナナ取ってくれ」
由紀っちは素直に、サイドテーブルからバナナを取る。「トレース・オン」衛宮が再び何か言ったが、やはり小さすぎて聞こえなかった。
そして視線に殺気がこもり始めた遠坂。
「はい、ここに何の変哲もないバナナがあります」
「あー分かった! バナナを食って『消失マジック』とか言うつもりだな!?」
「うるさい黙ってろ皮ごと食うのはお前だけだ。――このバナナに、ハンカチを被せます」
即席マジシャンのポケットからハンカチが登場。布切れに阻まれ、バナナとマジシャンの手が見えなくなった。代わりに、昔やっていたアニメ『そらいけ! 短パンマン』の文字と、短パンをかぶった三頭身のキャラが見える。
衛宮よ。そのハンカチは一体、何年前から使っているんだ?
「そうしてこれを一回転……」
くるり、と回る。
「二回転……」
愛と勇気の使者が回る。
「三回転……四回転……五回転……」
友達ゼロの孤独なキャラが、くるり、くるりくるり。
「そしてハンカチを……ワン、ツー、スリー!!」
バッ、と正義の味方が空を飛び。マジシャンのポケットへパトロール。
再び現れる、黄色く美味しそうなバナナ。
「えっと……」
マジシャンの視線が泳ぐ。私から鐘っち、由紀っちと見ていき、遠坂のところでぴたりと止まった。
「遠坂、これ」
「え……?」
差し出されたバナナを受け取った遠坂は、一瞬呆けた顔をした後、体を震わせ目を見開いた。まるで、隙を突かれて後ろに回り込まれたかのように。
衛宮はお構いなしに、先程作った紙皿を遠坂の膝に置いた。
「零さないように食べてくれ」
しかも意味不明なことまで言ってるし。
「…………」
遠坂は最大警戒のまま、恐る恐ると皮を剥く。すると。
ぼとぼとぼと。
本来は一本に繋がっているはずのバナナ。しかし、特に何かしたようには思え
ないのに、それは六つの破片になって皿にばらまかれた。
「!?」
遠坂がガタッ、とイスを鳴らした。由紀っちは目をぱちくりさせ、鐘っちは何やらニヤニヤしている。
そして、マジシャンが場を締め括る一言を。
「――だから、零さないように食べてくれ、って言ったのに」
わざとらしいほど仰々しく、衛宮がお辞儀をした。
その瞬間、ぺちんぺちん、と拍手をしながら大興奮の由紀っち。
「す、すごーい! 衛宮君どうやったの?」
「貴様実は魔女っ娘か妖怪か! かまいたちか! 何をしたー!?」
「それを言ったらマジックにならないだろ?」
「うがーッ!! 教えろ教えるなら教える時! お前はそのためだけに生まれてきたんだー! 教えて氏ね!!」
「なおさら教えるかっ」
蟷螂の構えから、突きを繰り出す。衛宮、回避。
「――針と糸、だな。いや針だけでも可能だったか」
突然の鐘っちの言。衛宮は目を丸くする。
「氷室分かったのか?」
「いや、知っていただけだ。しかし本来は、すでに下拵えしたものを準備しておくのが定石なのだが……。よくもまあ目の前で、しかも僅かな時間でやったものだ」
「まあ思い付きだったし。と言うか芸なんてやる気はなかったし」
「それでもやってしまうのが衛宮、か。……ふむ。実に興味深い」
「二人だけの空間を作るなよぅ! 私も混ぜろよぅ! 黒豹は寂しいと溶けてバターになるんだぞ! 何だ、そのバターでダチョウの卵の目玉焼きを作るのが目的だったのか!?
とにかく、 私 に も 教 え ろ ー !」
「ググれカス」
どうあっても教えてくれないようで。私はすっぱり諦めて、ぶつ切りになったバナナを一切れ、口に放り込んだ。
「蒔寺さ……!?」
「んあ?」
もぐもぐと咀嚼していると、何やら慌てた様子の遠坂が。
「ええと……大丈夫なのかしら?」
「何が? バナナが? 普通に美味いぞ。ちょっと青いけど。ほら由紀っちもー」
「はむっ!? 蒔ちゃん!?」
別の一切れを摘み、由紀っちの口へと押し込んだ。続いて鐘っちへと、
「ふん」
腕を掴まれ、バナナが奪われる。そして普通に食べられる。
「鐘! 空気読めよ!」
「蒔にだけは言われたくないな」
「ちぇー。良いもん、遠坂にやるもん!
なー遠坂ってもう食べてるー(↓)」
遠坂に視線を移せば、すでに彼女はバナナを一切れ、手に持っていた。匂いを嗅ぎ、舌でちょっと舐め、目を閉じブツブツと呟いて。ようやく口に入れた。
「……何の変化もなし……本当にただ『バナナを切る』ため……そんなことのためだけに……」
そしてもう、その視線だけで害を及ぼしそうな凶悪な物を衛宮に向けた。正しく視害線《しがいせん》。
「……さて、そろそろお暇《いとま》させてもらおうかしら」
遠坂は表情を優等生モードにした。……それでも、衛宮を見る目はキツイのだが。ちなみに衛宮は視線に気付いた様子はない。
時刻は夜の6時半。そろそろ面会時間の終了だ。
「そうだな。あー……良かったら、二人とも送ってくぞ?」
衛宮は外を――あるいはそっぽを――向きながら言う。つられて外を見てみれば、すでに夜が始まろうとしていた。
「送り狼かっ!? しかし負けないぞ! 何てったって私は『穂群原の黒豹』だからな! 豹は狼ごときには屈しない!!」
「誰が送り狼するかっ」
「こいつ! 私に魅力が無いとか言いやがった!」
「日→英→日の翻訳機でも詰まってるのか!?」
……とか何とか言ってはみたが、ぶっちゃけるとありがたかったり。夜道って何か出そうじゃん? 食事中の○イリアンとか。戦闘中のプレデタ○とか。それはそれで楽しそうかも。
「それではお大事に。三枝さん、氷室さん」
「はい! 今日はありがとうございました!」
「うむ。そちらも蒔にはくれぐれも注意してくれ」
「え、そこは衛宮じゃないのかよ!?」
色々あったけれども。こうして、『ドキドキ☆お見舞いイベント♪』は終了したのであった。
と思いきや。
「ところで衛宮君。少しお時間よろしいかしら? お話ししたいことがあるの。二人きりで。そこの廊下の影とかで」
にっこりと花開いたかのような笑顔の遠坂。ただし、ラフレシアとかウツボカズラとかの類で。
「うぇええ!? と、遠坂それって……」
「急いでいただけるかしら? せっかちな男は嫌いだけど、待たせる男はもっと嫌いなの。すぐ終わりますから」
とか言いながらすでに、衛宮の腕を取って歩きだす。戸惑う奴を無視して、彼女は廊下の影へと消えていった。
「…………えぇと?」
置いてきぼり。誰がどう見ても置いてきぼりです。完全無欠天下無敵ちょうび八栓無情に服す並みに置いてきぼり。
「ちょっ、待てよ!」
一昔前の某アイドルのようなことを口走って、彼女等を追い掛けようとする。
しかし、その足は走りだすのを止められた。
「ガッ……!?」
小さく聞こえた、押し殺したような低い悲鳴に。
ドスッ、ドスッ、ドスッ。
くぐもった、やけに遠い、重い音が連続で鳴る。例えるならそれは、60kgのサンドバッグをボコボコにしているかのような――。
廊下の影。そこには遠坂達しかいない。なぜならこの先には中庭に続く重いドアしか無いはずで、そこに他の人がいるはずは無いわけで、すなわちこれはとおs
「あーうん(ドスッ)。気のせい、気のせいだってば(ドスッ)。きっとあれだよ入院中のボクサーが我慢し切れずにこっそり練習してるんだよ(ドスッ)。そうだそうだきっとそうだ間違いねぇ(ドスッ)。聞こえねー、何も聞こえねー(ドスッ)。蒔にゃんのお耳は唐突にその機能を失うにょろよ(ドスッ)。蒔にゃんって胸キュン(ドスッ)? めがっさかわいいにょろ~(ドスッ)。
聞こえねー湿った打撃音とか魔術師とかモグリとか金納めろとか一般人とか騙されたとか弟子とか回路とか師匠とか金納めろとかパトロンとか前金とかちっ少ないとか全くもってこれっぽっちも聞ーこーえーなーいー」
腕をぐるんぐるんと振り回し、雑音雑念雑食を遮断する。なんとかフィールド展開! 盾は二分五十秒しか保ちません! 逃げても良いんじゃね?
そーだちょっと喉渇いたなー。ジュースでも買ってくるかー。ついでに遠坂達も喉渇くだろうし買ってやろう。どうして分かるのかって? そりゃあ遠坂は運動--いや喋りすぎだろうからな! 自販機のおっちゃん、スポドリ三本!! あいよ、今日は活きの良いスポドリが入ったよ!
カバンからサイフを取りだし、硬貨を投入。
カバンからサイフを。
カバンから――。
「カバン無ぇーーー!!?」
驚愕の新事実! 蒔寺 楓はカバンを持っていなかった!
待て待て、落ち着け私、まだ慌てるような段階じゃない。こういう時は『素数』を数えて落ち着くんだ。2、4、6、8、10、12……。
よし、落ち着いたら記憶をまさぐれ。私はいつからカバンを持ってなかった? 病室……持ってない。病院までの道程……持ってない。フルールでパイを選んでた時……持ってない。校門で遠坂と待ち合わせた時……持ってない。教室を出ていく時……………………机の横。
「学校かよ!? 途中で気付けよ私!」
しかしマズイことになった。カバンにはサイフから家の鍵からシューズから、必要な物を突っ込んであるのだ。
「……しょうがない、取りに戻るかー」
「それは止めておいた方が良いわ」
「わっひゃひぃ!!??」
背後からの遠坂の声に、文字通り飛び上がって驚く。
「もう日が暮れます。最近は物騒ですから、真っすぐ帰ることをお勧めします」
アンタが物騒だ! と口走りそうになって思い止まる。
何も見えないよー。げっそりした衛宮が腹とか二の腕とか普段は目立たないところをさすってる姿なんて見えないよー。
「それじゃあまた明日ね? 蒔寺さん。――衛宮クン」
「お、ぉう!!」
ビクン、と敬礼でもしそうな勢いで直立不動で返す衛宮。しかし次の瞬間にはわたわたと、
「と、遠坂! 良かったら送るけど……!」
と言った。何と言うブラウニー。
当の遠坂はと言うと。
「――あら。ご心配なく。私、身を守る方法は心得ていますから」
一瞬だけニヤリと振り返り。「言いたい事は言い終わった」とばかりにさっさと出口へ向かい、薄黒いオレンジの世界へと消えていった。
…………とりあえず。
カバンどうしよー。
~interlude out~
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最終更新:2008年04月05日 18:13