13 :はじめてのさーう゛ぁんと ◆XksB4AwhxU:2008/03/11(火) 21:42:51


「ふぃっっっっっしゅ!!!!」:衛宮と一緒に学校に行く。(視点変更→衛宮)


 ~interlude in~

 後悔とは、『後』で『悔』やむと書く。
 なるほど、良い得て妙だ。人は先に起こることを悔やむことはできない。悔やむのは常に過去であり――――過去の自分に、である。
「あの時ああしていたら」とか、「こっちじゃなくてあっちを選んでおけば」とか。選んだ、あるいは行ってしまった事柄。さらにはその先の未来を全て俯瞰《ふかん》した後で、過去《IF》の世界の話を想像し、人はため息を吐くのだ。

 しかしてそれは、無意味なことである。

 過去は変えられない。おそらく、タイムマシンを使ってさえも。時間とは流れであり、大河だ。いくら上流へ遡《さかのぼ》り、河の水を両手で掬おうとも、別の水がその穴を埋めるように。大きな流れは何も、変わらない。

 だが、そこに救いが無いわけではない。
 確かに、過去を変えることは難しい――――不可能であろう。しかし未来がある。河が幾筋にも広がるように、未来はいくらでも変えられる。右の道を選んで失敗したのであれば、次は左の道を選べば良い。選んで失敗したのであれば、次は選ばなければ良い。
 これを人は、反省と呼ぶ。

 故に俺は、後悔を止めて反省をしなくてはならない。今回の反省点。それは。


「――――もう蒔寺の口車には乗らないよ」
「唐突に何の話だよ!?」

 隣を歩くナマモノが、きしゃーと気炎をあげる。
 ……思えば、全て蒔寺が原因だった。コペンハーゲンで失敗をやらかしたのも、お見舞いでスベッたのも、遠坂のイメージがズタズタにされたのも―――― 。
 遠坂のイメージが崩れたシーンを回想し、思わず体をさする。無論と言うべきか、遠坂に殴られた箇所を。
 その幻痛と共に、遠坂に言われた言葉が、断片的に蘇る。

 曰く、俺はモグリの魔術師だ。
 曰く、管理者である遠坂に金を納めろ。
 曰く、一般人の前で魔術を使うとは何事か。むしろ何様か。
 曰く、金を納めるのと私のパトロンになるのと死んで遺産を徴収されるのとではどれが良いか。
 曰く、弟子になりたいって? ……………………じゃあ講習代としてお金払ってね。今は前金で良いわさっさと出しなさい。これだけ? ちっ、少ない。まあ後は貸しにしとくわ。トイチで良いわね?

 ……すごいぜ遠坂。ほとんどが金の話だったぜ。

 しかし成り行きとは言え、魔術の師匠ができたのは喜ぶべきことだ。ほぼ十年間修行を続け、未だ『強化』すらまともにできない現状を打破できるかもしれない。
 うん、懐が痛くなるとか遠坂のイメージが崩壊するとか、この際置いておいて良い些事だ。そういうことにしよう、そうしよう。

「聞いてんのか衛宮ーーー!!」

 突然殴られた。グーで。今だに痛む二の腕を。声すら上げずに悶絶する、俺。
 涙目で蒔寺を見上げると、何か俺を威嚇していた。何でさ。
 帰りたくなってきた。

「帰りたくなってきた」

 正直に口に出してみる。

「ちょっ、待てよ! 忘れ物に付き合ってくれるって言ったじゃん!? 嘘つきー!」

 本気にしたのか、こちらの裾をぐわばっ、と掴む蒔寺。

「あ、ちなみに、この『ちょっ、待てよ!』ってのはキムタ○のモノマネな? 私の中ではもう奴はアイドルじゃない。一昔前の遺産だ。時代は○サナギだよ、○サナギ。
 前スレ>>594、595分かりづらくてスマン、そして>>615、616フォローさんきゅー!」

 蒔寺はいつも意味不明だったが、今日はそれに輪をかけて電波だった。
 とりあえず適当に「冗談だ」と言ってなだめて、止まっていた足を動かす。
 まだ信用ならないのか、蒔寺の手は裾を掴んだままだ。

 タシッ、タシッ、タシッ、タシッ、タシッ。
 コツン、コツン、コツン、コツン、コツン。

 二人分の靴音が、やけに耳に残る。
 ――――無音。通り魔事件やガス事故の影響だろう、日が沈んで間もないというのに、通りからは既に人の気配が消えていた。

 タシッ、タシッ、タシッ、タシッ、タシッ。
 コツン、コツン、コツン、コツン、コツン。

 故に。唯一の音源である靴音だけが、夜の静寂《しじま》に木霊《こだま》する。

 身が切られるような風
 眠った街の夜の中
 誰もいない通り
 街頭の光も届かず
 寂しげにたたずむ裸の木
 見上げた月は雲に溶け
 時折通り過ぎるテールランプ
 浮かび上がる影は人
 闇に溶けるかのような姿
 静かな街

 その光景が。まるで・自分一人/誰もいない/だけの、世界/(荒野)/になってしまった。か、の・ようで――――。



 ――――赤い■界。崩■た瓦礫。散らばった■■。力は無く。救いは無く。未来■無く。ごめんなさい。夢想する。力。■。絶対に■れず■がらず貫く■。ごめんなさい。無数に。懺悔の道はかく語りき。全ては遠き■■■。ごめんなさい。■標の丘。黒い太■。赤。黒。茶色。全てを■う。ごめんなさい。■■ 士郎は生き残り衛宮 士郎。反転し、■壊。ごメんなサイアりがとう。■は■で練鉄。誰■の血糊、硝子は■む。全■■惨劇■乗■越■■。不敗。不勝。


   ――――彼の者は常に――――。





「な、」
「――――名!?」

 鼓膜が震える、その感触に体が過敏に反応する。
 周りを見渡す。薄青い歩道。猫の爪を思わせる痩せた月。道は限りなく賽の目に続く。
 そこでようやく、蒔寺の呟きによって、現実に引き戻されたことを知る。
 忘れない。衛宮 士郎はあの惨劇を。そこでただ一人生き残ったことを。忘れていない。だから俺は正義の味方にならないといけない。全てを救う存在になるべきだ。
 ああでも時折こうして。未だに未熟な俺を急かすように、過去が襲い掛かってくる。
 ほら、あの影には、醜くひしゃげて焼け爛《ただ》れた■■が。あの道の向こうには無数に突き立った■が「何か喋れーーー!!!」
「あ痛ーーー!?」

 足の甲を思いっきり踏み付けられた。

「痛ぇ痛ぇ痛ぇ! ローファーが! 物凄く固く作られたローファーの踵が足の甲に!?」
「何か喋れよ手前! マダムに媚びへつらうホストのごとく喋れよ! とにかく何でも良いから話せよ!」
「何でさ!?」
「誰が怖がりの乙女だゴルァ!」
「誰もそんなこと言ってない! て言うか恐いなら恐いって言えば良いだろ」
「私は恐くねー!!」
「脛ー!? 爪先が脛にー!!?」

 踏まれ蹴られた足を抱え、ぴょんぴょん飛び跳ねる。裾を掴んだままの蒔寺も一緒に。
 ――――痛みが引く頃には、過去は心の奥底へと帰っていった。少し納得いかないが、蒔寺のおかげだろう。

「じゃーもー分かった。歌え。ほら。早く」
「……さっきから思ってたんだが。蒔寺が喋ったり歌ったりすれば良いだけの話だろ」
「…………?」
「…………」
「…………おぉ。」
「…………」
「天才?」

 お前が馬鹿なだけだと思う。

「良っしゃー、一番・蒔寺 楓。歌いまーす。

 ♪お化けなーんてなーいさって当たり前だろぉがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 わざわざ足元の小石を拾ってから、折角拾ったそれを地面に叩きつける。ばしーん、と弾けた小石は、自販機に八つ当りをした。
 そしてそのままの勢いで、俺を掴んでゆさゆさと揺さ振りだした。

「衛宮ー……衛宮衛宮衛宮ー……えーみーにゃー……」

 彼女にしてはやけに弱々しく訴えかけてくる。

「分かったよ。落ち着け。俺、歌うよ。歌うよ俺。歌えば良いんだろチクショウ。」

 何で自爆した奴のフォローをしてんだろ? 『蒔寺の口車には乗らない』じゃなくて『蒔寺に関わらない』の方が良い気がしてきた。

「ただし。笑うなよ。俺、下手だから」
「何でも良いよぅ……。歌えよぅ衛宮ぁ……」

 ……今更ながら緊張してきた。ええい、為せば成る!
 一つ大きく息を吐き、緩やかに大気を吸い込む。
 紡ぐのは、讃歌。愛と勇気に生き、正義に死んだ、とある人の代名詞《テーマソング》。


 ――そうだ! うれしいんだ みんなの笑顔
   たとえむねのきずが開いても

   なんのために生まれて なにをして生きるのか
   こたえられないなんて 「そんなもんでいいんじゃね?」

   今は死なないことで けっかてきに生きる
   だから君はとぶんだ てきとうに

   そうだ! 楽しいんだ 風を切るのが
   たとえ「きもちわるい」と言われても

   短・短。短パンマン すね毛丸出し
   行け! 社会のまどもぜんかいで――


 歌った。歌ったよ。歌っちまったよ。
 後に残るのは静寂。先程よりも重く冷たく痛い。
 どうしようもなく気が重いが、ゆっくりと口を開く。

「な? 下手だったろ?」
「いやむしろ上手くてムカつく……じゃなくて! 何でここで『短パンマンのマーチ』!?」
「これ以外の歌はよく知らない」
「それってダメじゃね!? つーか私が知ってるのと歌詞が違う気がすんだけど?」
「ああ。普段テレビで流れてるのは、二番なんだ。これは一番」

 ぐわーいらん知識が増えたー、と蒔寺は頭を抱えた。どうやら歌っている間に、本来の煩いペースを取り戻したらしい。良かった良かった。
 だがしかし、ここで一つだけ問題が発生。今通りかかったOL風の女性が、あからさまに笑いを堪えて足早で去っていった。歌わない方が良かったかも。

 いやしかしいくら蒔寺とは言え、困っている人を助けたんだ。ほら、前だって蒔寺ん家の炊飯器を直したじゃないか。でもそのために恥ずかしい目にあうのは。いやいやいや、そんなことで挫けてどうする。親父も草葉の陰で泣いてるぞ。『やあ、士郎! 元気かい? 僕はとっても元気だよ!』煩ぇよ親父、笑顔で夜空に浮かんでくるな、その立てた親指と両側の美人な天使は何だ!

「うーっし、とうちゃーく!」

 俺が今後の進むべき道について悩んでいる間に、穂群原学園《目的地》に着いていた。

「じゃあさっさと取りに行くか。職員室……はもう無人? 鍵開いてるかな?」

 校舎を見上げるが、見た限り明かりが点いている部屋はなかった。

「行ってみるか……蒔寺?」

 学校に到着してから、微動だにせず立ち尽くした蒔寺に、今更ながら不信感を覚える。

「おい蒔寺? どうしたんだ?」

 肩に手をかけると、彼女はビクリと震え、

「エ、……衛宮。あれ、何だと思う……?」

 そう言って、彼女が指差した先には……。

 ~interlude out~




   【選択肢】

彼を思う:黒い剣士が、グラウンドに佇み、こちらを見ていた。
月を想う:オレンジの弓兵が、屋上に立ち、月を見ていた。
石を重う:「「カっ、カレイドルビー!!!!」」


投票結果


彼を思う:0
月を想う:0
石を重う:5

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最終更新:2008年08月19日 03:31