420 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/02/17(日) 20:08:55
真紅を見送ったあと、俺は、雛苺を連れて穂群原学園までやってきた。
水銀燈は、人前に姿を見せたくない、という意見を尊重して、土蔵で待っていてもらうことにした。
雛苺を連れてきたのは、蒔寺に会いに行くついでに、氷室とも会えるだろうと踏んだからだ。
雛苺も、氷室に会えるということと、学校という場所を見てみたいということで、二つ返事で同行することを了承してくれた。
「シェロゥ、ここが学校なのー?」
学園に続く坂道を登りきったところで、正門が見えてきた。
雛苺がそれを指差して尋ねてくるのを、頷いて応えてやる。
「ああ、そうだ。
多分、向こうで氷室たちが練習していると思うんだけど……」
なにしろ部活動からは随分距離を置いていた俺である。
運動部のグラウンド利用ローテーションなんぞ知っているはずもない。
もしもグラウンドに陸上部がいなかったら、部活棟のほうを当たってみなけりゃならないか……と思っていたのだが。
「おらー! 走れ走れそして死ねー!
陸上競技とは死ぬことと見つけたれー!!」
……などという、やたらめったら自己主張の激しい怒声が、学校の外まで響いてきたので、俺の心配は無駄に終わったのであった。
こんな声を張り上げるのは、冬木広しと言えどあの女ただ一人に違いない。
雛苺が、その声を聞いて、俺のほうを見上げてきた。
「シェロゥ、今の声……?」
「大丈夫だ雛苺、アレは上手く軸さえずらしておけば勝手に自滅する類の猛獣だから」
もっともアクティブモンスターなのは否定できないが。
そう言って雛苺を諭し、校門をくぐる。
入ってすぐに眼前に広がる校庭では、陸上部の練習にかろうじて見えなくもない光景が繰り広げられていた。
「いいか! 陸上部は許可なく死ぬことは許されない!
この練習を終えるまではお前たちは地上最下等の生物だ!」
「ま、蒔寺先輩、無茶苦茶ですよー!」
「なにを甘ったれたことを!
そんな調子でイングランドの精鋭騎士どもに勝てるとでも思ったかー!?」
「そもそも私たちがそんな人らと戦うことが無茶だと思うんスけどー!?」
「文句言った奴はアウトローだ!
文句言わない奴は訓練されたアウトローだ!
もう誰にもアタシのことをいらない子だなんて呼ばせねー!!」
「うわあぁ八つ当たりだ完璧にー!」
グラウンドに引かれたトラックの中を、魔王に追い立てられる父子のように駆けずり回る陸上部の面々。
そしてそれを追いかける魔王役こそ、我らが黒豹スペースコンバットこと、蒔寺楓その人である。
「うーん、忙しそうだし、今は無理かな?」
早々に見つかってラッキー、と一瞬思ったが、どうも声をかけられる様子ではない。
さて、どうしたものか……。
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最終更新:2008年04月05日 18:17