868 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/03/06(木) 19:37:36
よし、氷室に手伝ってもらおう。
俺一人で蒔寺と戦うのは骨が折れる。
ここは一つ、陸上部の誇る知将の力を借りるとしよう。
「氷室、蒔寺を説得するのに当たって、協力して欲しいんだが」
「それはやぶさかではないが……一体どんな事情なのだ?」
「ううん、詳しく話すと長くなるんだけど……」
「構わないさ。私はトラック組とは違って、午後まで練習に打ち込んでいるわけではないからな」
言われてみれば、確かに盛んに走っているのは陸上部のうちの半分程度のようだ。
恐らく走っているのは……いや、走らされているのはトラック組とやらで、残りはフィールド競技組なのだろう。
「それならいいか。えっと、まずどこから話をするべきかな……」
俺は昨日からの顛末をかいつまんで説明していった。
水銀燈に愛想をつかされたこと。
氷室と別れたあと、水銀燈を探していたこと。
水銀燈を見つけたときには、何者かに腕と翼をもがれていたこと。
「まあ、同じ薔薇乙女《ローゼンメイデン》の真紅に助けてもらって、水銀燈を目覚めさせることは出来たんだけど……あたっ!?」
唐突に。
氷室は、無言で俺にデコピンを喰らわせてきた。
不意打ちだったからかなり痛かったぞ、今の。
「い、いきなり何するんだ氷室!?」
「……なんでもない。
目の前で他の女について話をされて少し不愉快なだけだ」
……あ。
いつの間にか、氷室の目が平時より30度ほど釣りあがってる。
「えーと、氷室。
他の女と言っても、水銀燈はドールで……」
「ほう?
ならば私は、告白したにも関わらず、女扱いですらない人形と比べられて、捨てられた女と言うことになるな。
ちなみに衛宮、今の私は遠坂嬢に劣らないほど残酷になれそうな心境だ」
「ほんとすんませんでした」
それは限りなく遠まわしで限りなくわかりやすいポツダム勧告だった。
ホント、そのうち俺の周りの女子はみんな遠坂になっちまうんじゃないだろうか。
「……まあ、話の主題は非常に不本意だが」
そう言って、氷室はデコピンに使った指をそのままビシ、と突き出してくる。
「内容のほうは、深刻だということは理解できた。
今回は前言どおり協力するが……次はないぞ。
これ以上敵に塩を送るのは無しだ」
鼻先一センチを指されて、思わず首を縦に何度も振る。
……しかし、氷室はそんなに水銀燈を敵視してるのか?
昨日見限られたばっかりの俺としては、水銀燈はそんなに好意を持ってくれてないんじゃないかと思ってるんだが……。
「では、あらためて蒔の字に交渉しに行くとしようか。
だが、最悪断られることも有り得るのは覚悟しておくことだ。
そうでなくても、生地だけ貰って、後は自作する破目になることも……十分有り得る」
「まあ、そりゃそうだよな」
そもそも蒔寺楓を頼るという選択自体、俺にとっては大博打なのだ。
成功率に関しては最初からあまり考えていない。
ダメだったら次の手を……くらいの気構えだった。
だが、蒔寺楓から返ってきたのは、俺にとって意外な言葉だった。
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最終更新:2008年04月05日 18:19