343 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/02/13(水) 00:07:19


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 ウィンダス連邦――。
 魔力に満ちた水と、偉大なる大樹の恵み。
 月と星の加護を受けし、それはそれは古き都。

 この国にはある伝説がある。
 遥か昔、飢えと寒さに彷徨える民は、眩い星に導かれてこの地に至ったというものだ。
 眩い星は天へ戻るときに自らの声を聞く神子をこの地へ遣わした。
 その神子は星の神子と呼ばれ、ウィンダスに繁栄と栄華を約束した。

 そして永き歴史のうちに、
 いつしか民は魔力に長けた魔導の子となり、
 ウィンダスに知恵と強さをもたらした。

 彼らによって究められた5系統の学問。
 その最高院、5つの院は国を動かす重要機関となり、
 ウィンダスを学術都市と呼ばれるまで高めたのである。

 近年では流浪の民ミスラとの間に新しい絆が結ばれ、
 ウィンダスはより一層大きな国へと成長しつつある。

 しかし、民の願いはいつもひとつ。
 永き平和を。平穏を。
 はるか彼方の星々に見守られながら……。


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 側面を碧風が駆け巡る。たなびく雲は何処に向かうものやら。
 手持ち無沙汰から周囲を見回せば、青々とした空から降り注ぐ日光が蒼海に反射し、思いがけない目くらましを被ってしまう。――ふとそんな平凡さが何だか健康的に思え、固く結んでいた筈の唇がみるみるほころんでいく。
 しかし気を緩ませるのも刹那の出来事。手から唐突に伝わる震動が確かに異変の到来を告げ、至急対応を宛がうべく、性急に行動を促しているではないか。
 ――上等だ。今度は返り討ちにしてやる。
 緩んだ口元を今度はへ文字に結び、弛緩していた三角筋、及び上腕二頭筋を目一杯膨らませ、多少の焦れを加えながら徐々に徐々に後方へと加圧していく。
 大丈夫。この手応えなら、いける。
 今こそ叫ぼう。あの言葉を――――。

「フィィィィィッシュ!!!」

 ――直後、ざっぱぁんと威勢の良い擬音語が付きそうなくらいの勢いで、海面からビチビチ跳ね回る貝類の姿が飛び上がる。次いで手早く釣り糸を手繰り寄せ、見事手中に収めることに成功する。……ちなみに何故釣竿で貝類が釣れるかは聞かないで欲しい。世界には俺達の知らないことがまだまだあるのだ。

「へっへっ、これで通算15匹目の当たりだぜ。……おや? そこなカレン殿はまだ0匹でござるか? うほほ、もしやボウズとシスターをかけていたり? これは失礼。気付かなかったでござるよ」
「……喋り方がキモイわ。大体僧侶と修道女じゃ崇拝する神が違うでしょうに」

 喧嘩を売っているの? と彼女は続け、険を含めた視線を竿が握られた手元へと戻す。
 何故だか脈々と込み上げてくる黒い衝動を必死に飲み込み、気を紛らわすべく天上の空を見上げれば、丁度頭上を飛んでいたカモメが陽光を遮りながらクゥークゥーと鳴いていた。
 俺達は今、甲板で久方ぶりに羽を伸ばしている。……そう。俺とまだ幼かった莫耶がウィンダスに向かうべく乗船した、あの船だ。
 結局俺はどうしてもあの指令の転向に納得がいかず、直接ウィンダスに行ってシャントットに問い質すことにしたのだ。勿論預けているクリスタルを確実に返して貰うため、という理由も含まれてはいたが。

「……楽しかったでしょうね。私が見知らぬ世界を宛てなく彷徨っていた間、ずっとあんな可愛い娘と同棲していただなんて。――――恨むわ、この悪魔」
「ま、待て。それには多分に語弊がある。ていうかちゃんと説明しただろうが。聞いていなかったのか?」
「どうだか。貴方が重度の色魔だということは周知の事実ですから。まさか異世界に来てまでフィッシュ&ハントしているとは思いも依りませんでしたがね。フン」
「ああっ、もう……」

 再会できた時は本当に嬉しかったのに……その喜びも、また刹那。
 二つとない見目麗しい容貌をした眠り姫はその実目を覚ませばとんでもない辛辣気質だった、だなんてあまりにも王子役の奴が報われない。

「文句を言うなら、俺に聖骸布を巻いてくれた時、傍で待っていてくれれば良かっただろうが。そうすればわざわざ離れ離れにならずに済んだものを」
「だらしなく気絶した者に頼るほど、私落ちぶれてはおりませんので」

 そう言ってから微動だにしない釣竿に業を煮やし、2、3度アクションを加える。
 そんな中、ふと何でもなしに彼女に返さねばならない物があったことを思い出し、慌てて首に巻かれていた赤い布を解いた。

「危うく忘れる所だった……。カレン、これ。聖骸布」

 釣りに熱中するシスターの眼前に、無造作に握られた布を突き出す。対するカレンはそれが少々意外な出来事であったのか、きょとんと対応しかねる様子であった。

「ありがとうな。詳しい原理はいまいち解らないけど、おかげで助かったよ」
「……?」
「はい、どうぞ。受け取ってくれ」
「…………」
「カレン?」

 容易く受け取ってくれるものとばかり思っていた聖骸布は未着手のまま放置され、当の彼女はどうしてか無表情から段々と顰めた顔に変化していく真っ最中。その鬱憤を招く対応の拙さが今の俺にはどうあっても思い至らず、流れ行く時間に比例して不安ばかりが降り積もる有様だった。

「貴方……一応聞いておくけど、まさかそのまま返すつもりだったの?」
「へ?」
「よく見なさい。すっかり汚れてしまっているわ。……間抜けね」
「あっ……」

 見れば、ずっと身に着けていた弊害か、綺麗に澄んだ赤色はすっかり曇り、あまつさえ痛んだ赤色の如く脱色してしまっていた。途端、予想だにしなかったトラブルに心は逸りきり、焦りが胸中に渦巻き立つ。

「ご、ごめん」
「いいわよ、別に。例え新品同然に煌びやかであったとしても、受け取るつもりはありませんでしたし。出来の悪い犬には主と繋げる縄が必須でしょう?」
「?」
「……何でもないわ。聞き逃しなさい」

 何故だか白い頬を赤く染め、俯く彼女。意味がわからないものの、どうしてか俺も釣られて真っ赤になり、同じく俯く始末。青春、と称するには色々とギリギリな俺達ではないか。

「2人とも、どうしました?」
「何か用? 所在……」
「もう陸が見えてきましたよ。懐かしのウィンダスです」

 なるほど、巻菜の言うように、ウィンダス特有の緑色をした大陸がすぐそこまで迫ってきていた。視覚を強化して眺めれば、国のシンボルである星の大樹の威容が見える。
 ウィンダス連邦――――。
 少女と過ごしたバストゥーク共和国も感慨深い国ではあったが、しかし過ごした月日で語るのならば、ウィンダスは比較にならぬほど世話になったものだ。クリスタルを預けているシャントットを始め、狩人の極意を授けてくれたペリィ・ヴァシャイ族長、同じく狩人として世話を焼いてくれたセミ・ラフィーナ。一概には言い難い恩義が彼女らにはあった。
 予期せぬトラブルに巻き込まれる危機感はあるものの、やはり親しい人々との再会は待ち遠しい趣がある。
 そうして考えに耽っている内に、大陸は強化を使うまでもなく詳細な様相を視覚に示し、あっという間に船の横腹を桟橋に寄せるまで接近していった。
 あの一件以来すっかり船が苦手になってしまった莫耶を船蔵から連れ出し船から下りれば、それまでの波の揺れを感じさせない強固な大地の手応えが足の裏を貫き、不覚にも安定している筈の地面でたたらを踏むという粗相をしでかしてしまう。長時間船に乗っていた影響であろうが、見れば、皆も一様にフラフラと不安定な足取りを呈していた。

「フ……」

 そんな様にどこか可笑しさが湧き、からかいの声を掛けようとした時――――何かが俺の背中にぶつかった。ぎょっとして振り向くも、しかし背後には見知った白い猫の姿が目に入る。

「セミ・ラフィーナ……。セミ・ラフィーナじゃないか! 久しいな!」
「エミヤ……どうしてここに……。い、いえ、ごめんなさい、今急いでいるの。ちょっとどいて」

 白い狩人はそう言った後、さも慌てた風に彼方へと走り去っていく。一方、久々の再会を喜び合おうと沸き立っていたこちらにとっては、まるで一陣のつむじ風に出会ったかの如く目を白黒させるしか仕様はなかった。

「シロウ? あの方とは知り合いなのか?」
「ああ、昔世話になった人でね、恩人なんだけど……」
「何やら急いでいる様子でしたね」

 何が何やら訳がわからないが……しかし、無事こうしてウィンダスの地に足を踏み入れることができたのは事実。とにかく今の俺達には行動を起こすしか道はないのだから。



Ⅰ:クリスタルを返して貰いに向かう
Ⅱ:親しい人達の元を訪ねる
Ⅲ:観光気分で散歩する


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最終更新:2008年04月05日 18:29