378 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/02/14(木) 23:02:30


――Interlude


 一閃。
 迫り来る異形の豪腕を撥ね退け、煌く刃を隙だらけの横腹に叩き込む。途端、分厚い筋肉に守られていた胴は水道管が破裂したが如く赤い水流を奔出させ、剥き出しに突き出された私の鼻面を容赦なく穢す。
 戦場。重ね合う怒号。剣戟。
 戦場。重なり合う骸の山。死臭。
 ここは冬木では決して目にすることがなかった、けれどもかつては見飽きるくらいに目に焼き付けていた、戦場の光景に相違なかった。
 続けて二匹目のトロール――――伝承として伝えられる妖精としての風貌は微塵も見受けられない、筋肉の塊――――が勇みたつ私を殴殺するべく棍を振り上げて突進してくる。
 巨体、といって侮るなかれ。彼らの瞬間速度は常人のソレを遥かに凌駕し、幻想の類に相応しい凶悪さで重厚な鎧に真空を纏い、突貫して来ているのだ。その様は喩えるのならば列車を人型にまで縮めた風体か。運悪く暴走列車に轢かれた傭兵は、ぐちゃりと嫌な音を響かせ、すぐ横を10数メートル彼方まで吹っ飛ばされていく。
 まともに受け止めれば英霊たるサーヴァントとて彼と同じ末路を逃れられまい。だが――だが、しかし――――。

「うお、オオオオオオオオオッ!」

 胸の内に昂ぶるは灼熱の炎。
 自らの倍に匹敵する怪物の巨身を難なく避け、擦れ違いざまに手加減抜きの薙ぎ払いを加える。外皮の堅牢さとは裏腹の柔らかい手応えが刀身に響き、刹那、怪物の腹から噴出した、やはり赤い液体が白銀の鎧を染めた。
 刃に纏わり付く腸と血を振り払い、一匹でも多くの命を斬り殺す。
 斬っては剣を振り払い。斬っては剣を振り払い。
 ――――なんて単純。
 なるほど、これは互いの名誉を競う決闘ではない。正しく私が見識として有する戦場の姿に他ならないではないか。

「オイ、騎士王殿! 突っ走りすぎだぞ!?」

 誰かが叫んだ。知らない。五月蝿い。聞こえない。
 先程から否応なしに込み上げてくる嘔吐感を必死で飲み込み、一秒も惜しんで剣を振るう。まるで鮮血のシャワー。敵から流れ出たモノだけじゃない。コレには熟したトマトのように潰れた味方のモノも含まれていた。

「うっ、う……」

 糸を引くのではないかと思うくらいベトベトに穢れた髪。噎せ返る鉄錆の臭い。
 今、自分がどれだけ汚物に塗れているかを自覚した途端、腹中に抑え込んでいた濁流は遂に咽喉元にまで上り詰め、不覚にも戦場の只中だというのに膝を屈してしまう。
 なんて油断。なんて愚か。
 万が一にも絶好の隙を晒した難敵の背中を見逃す訳がなく――――いつの間に傍に居たのやら、黒い……現代に甦った恐竜としか呼べない巨大な体躯をした犬が、三つ首の内の一つを以って私の胴に齧り付き、軽々と天上まで持ち上げる。

「ガ……っは。ケル、ベロ……?」

 地獄の番犬。冥界から逃げ出す亡者をその獰猛な牙で貪り喰らう、冥界の神、ハデスの忠犬。
 何故そんな狂犬がここにいるのか……なんて、最早不思議事でもなんでもない。ここは幻想の具現。神話の世界。現にヴァルハラの騎士に私は……。

「ぐあっ、ア――――!?」

 思考に耽る暇もなく、一メートルにも達するであろう規格外の牙が、魔力で編まれた鎧をキャラメルか何かのように噛み砕いていく。次いで鎧を貫き、胸板へと吸い込まれていく先端。
 薄れゆく意識の中、数人の傭兵達が私を救出してくれようと奮戦している様子が視界に映るが、当の狂犬は二つの首とトカゲと見紛うかのような尻尾で迎撃に当たり、意地でも牙を離そうとはしない。
 ごぷり、と閉じた口から血泡が漏れ出る。
 死。
 何ともつまらない死に様。
 私には三つ首を纏めて締め上げるだけの腕力もなければ、殺意を消し去る銀の竪琴もない。――ましてや幾度もの戦場を共にしてきた愛剣すらない。よって、残された道は死、のみ。
 目的を果たせずに朽ちる己の不甲斐なさに涙が浮かぶ。せめて最期にあの少年の姿を思い浮かべ――――

「投影、開始」

 ――――そんな、懐かしい、愛しい言葉を聞いた。
 数瞬の間を置いて、体躯は悪意ある暴力から、優しい、しかし限界まで鍛え抜かれた逞しい腕の中へと移り変わる。それは確かに、記憶に刻まれた少年の匂いに相違ない。

「シロ……」
「セイバー」

 頬に一粒の雫が線をなぞる。
 目一杯の安堵が胸に広がっていくのを見定めた直後、私はゆっくりと目を閉じた。


――Interlude out.



アーチャーは……
Ⅰ:カッコ良くあるべき(寝取られフラグ+1)
Ⅱ:カッコ悪くあるべき(私達は友達ですよね?)


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最終更新:2008年04月05日 18:30