549 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/02/24(日) 23:31:17


「……俺に黙秘権は、ない、よなぁ……」
「…………」

 少女はそれに答えず、ただじっと頑なに磨かれた視線でこちらの双眸を貫き、おどけてやり過ごそうと目論む俺を遥か最果てに突き落とす。
 何故彼女は、親しい間柄とはいえ所詮は赤の他人でしかない俺にここまでの執着を見せるのだろう。
 ……わからない。
 いつも生真面目で、それ故に全幅の信頼を預けている彼女なだけに、今俺達の間を漂う重苦しい“何か”が神経質なまでに苛立たしい。出来ることならば、閉ざした口をそのままに、不明の問いに対して丸めた背中を向けてやり過ごしたい気分で満々だ。
 だが、一方で短い付き合いながらも莫耶の秘めたる誠意を熟知しているからこそ、彼女の問いかけには真正面から臨むしか道がないというのも解っていた。

「気になるんだ……」
「……と言うと?」
「カレンのことが。別に今までだって風変わりな奴だなって思っていたんだけど……。何ていうのかな、バストゥークで昏睡しているカレンを見た時、ああ、彼女を離してはならない、ってはっきり感じたんだ。だからここが危険な場所だと理解していても、連れて行くしかなかった」
「…………」
「ヘン、だよな。でも離れたくないんだよ、コイツと。こんなの、俺の我侭に過ぎないってのに……そのせいで、また酷い目に遭わせちまったってのに……でも、また手放してしまったら、今度こそ決定的な亀裂が俺達の間に走っちまいそうで……。はは、信じられないくらい、エゴだよな」
「……そうか」

 本当に、身勝手な我侭だ。
 俺の形振り構わぬエゴイズムが、彼女を壊す。もう既に壊れかけの彼女に、最後の鉄槌を下してしまう。
 思うな。
 幾人ものシアワセを握り潰してきた俺が、人並みの幸福、喜びを手に入れられると思うな。
 この出来損ないの衛宮士郎は、その生涯を贖い/救いに宛てることでしか存在を許されない。己の罪深さを忘れて償い以外の生き方に価値を見出すなど、“許されることではない”。
 その証拠に――――見ろ。
 思いがけない答えを投げかけられた莫耶は素っ頓狂な顔で俺を見据えて……。

「――素敵、だな」

 見据えて…………って、あれ?

「莫耶?」
「いや……。
 おめでとう、シロウ。それはとても貴い感情だ。……ここでは人間と獣人が常に殺しあうのが常の世界。ときには辛いことだってあるだろうし、泣きたくなることもあるだろう。でも2人ならば……1人では耐えられないことも分かち合える。手を差し伸べあって乗り越えることもできる。嬉しいことなら2倍だ。そして、カレンは貴方の隣に立てるかもしれない人……。
 ひたすらに広い世界で出会えるか否かの天文学的数字の中、貴方は彼女を見つけることができた。だから、おめでとう」
「お、う……」
「胸を張って。彼女を守れるのは貴方だけだ。大切な人と一緒に居れば、喩え薄暗い墓地であろうと色鮮やかな花畑に変わる。そして、それはけして身勝手なエゴじゃない。
 重要なのは、夢心地の中で如何に喜びを体現できるかということ……。私はシロウのことを全て知っている訳ではない。だけど、上手くは言えないけど、負い目だけは感じないで。それだけは、絶対にしちゃ駄目だ」
「…………」

 彼女なりの、エール、なのだろうか。
 拙いながらも、一つ一つ慎重に言葉を選び悪戦苦闘しながら語る様は、本人ならずともどれだけ懸命に口を動かしているのか切実なほど理解できた。
 しかし、負い目のない生き方だなんて、果たしてこの俺に在るのだろうか……? 正義の味方として身を費やす以外の道が、在るのだろうか……?
 いくら真理の探究に没頭しようとも、泥沼の如く汚泥にぬかるんだ頭では、明瞭な答えなぞ得られない。

「……そろそろ行こう。流石にこれ以上一定の場所に留まり続けるのは危険だ」
「そう、だな……」

 眠りこけるカレンを負ぶさり、再び探し人の探索を開始する。
 先導する莫耶に連れ添う形で歩いて行くも、どうしてか急に、寝ている筈の彼女の体温が熱いくらいに上昇しだす。背中越しに伝わる熱さが、じわりと肌を湿らせた。

「――士郎、……き」
「えっ。カレ、ン?」

 耳元に投じられた、消え去るか否かのギリギリのラインを定めた弱々しい声。聞こえていない言葉の筈なのに……正体不明の想いが、何故か――――妙に、嬉しかった。
 その真意を確かめるべく首を後方に巡らせるも、隙だらけの胸にぶつかる硬い感触。
 不覚ながら起きた突然の出来事に全身は弛緩し、ついカレンを抱えていた手を外してしまう。……当然ながら、ドスンと低い音を響かせ尻餅をつく黒い物体。

「……痛いわ」
「あっ、ゴメン」

 こちらを胡乱に睨んでくる彼女はこの際置いておくとして、とりあえず目の前に突拍子もなく現れた硬い感触の正体を確かめる。果たしてそこに存在したのは、光り輝く鎧を織り成す銀色のプレート。つまり、俺の目と鼻の先に、ピタリと莫耶が静止していた。

「どうした? 急に立ち止まって」



Ⅰ:「地面に深い穴が空いている……」
Ⅱ:「知らない女性が立っている……」
Ⅲ:「;;」


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Ⅰ:1
Ⅱ:3
Ⅲ:5

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最終更新:2008年04月05日 18:35