663 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/02/28(木) 23:46:51


「夢、だよな……。うん」

そう。
夢だ。先程の記憶は、幻に違いない。
何故かって、あまりにも展開が急すぎるのだもの。
オマケに、消えた謎の少女を追い魔王と戦うだなんてベタなストーリー……改めて振り返ってみるも、陳腐としか言いようが無いではないか。

「しかも闇の王だって? 確かにこの世界には信じられないくらいに魔物が出没しているけどさ、親玉がいるなんて聞いたことないぞ。どこぞのテレビゲームじゃあるまいし」

あるいは、幼少のみぎりに大好きだった特撮モノが、未だに尾を引いているのかもしれない。いくら正義の味方を志す身とはいえ、流石に虚構と現実の差くらいは見極めなければなるまい。
だが――――。

「…………」

そっと、寝起きで未だ痺れの抜けない自身の頬を、撫でる。
しかし最後に少女が残したあの感触は、夢と断じるには生々しい程に、肌に焼き付いていた。
 決して接吻の経験が豊富という訳ではない。虚か実かを見分ける術など俺にはないし、格別なりたいとも思わない。それでも、彼女の唇から直に伝わる熱さは、夢うつつの酩酊状態に冷や水を浴びるほど、現実的だった。

「…………。……いや、夢、だろ」

 言ってから改めて自身の頑迷さに驚き、再び温もり抜けきらぬ布団の中へと身を沈めた。そのまま外界を遮断するかのように、頭を毛布ですっぽり覆い隠す。
 ここ数日やけに動きすぎたせいか、疲れが抜けていないらしく、妙に体が重い。幸い(?)朝食を待ち望むセイバーや藤ねえはいないのだ。カレンや莫耶や巻菜は適当な所で食う手筈となっている。ならば、たまには好きなだけ寝ても罰は当たるまい。
 そう思えば早いもので、柔らかな布団に潜った途端、意識は蒙昧と化し、既に彼方へと沈殿し始めていた。
 ――だがその一方で、己の行動の矛盾を理解してもいた。
 『そこまで気になるのならば、何故直接彼女に会いに行って、その存在を確かめない?』
 解らない。どうして早々に行動を起こさないのか。衛宮士郎の壊れた頭では、答えなど得られない。
 一抹の疑問を抱きながら、深いまどろみの中へと安らかに身を預けていった。


――――――――。


 衛宮士郎は、夢を見る。


「来たか、フランマージュよ」
「お呼びでしょうか、宰相殿?」
「騎士フランマージュ、今日お前に来てもらったのは他でもない。例の北方調査の件に関してだ」
「あの件ですか。まったく、バストゥークのヒュームどもが、要らぬ手間をかけさせる。あんな所を調べて廻りたいなどと……」
「左様。愚かなり、ヒュームよ! あの呪われた地に偉大なる力が眠っているなどと本気で考えているのであろうか、連中は? 永遠なる楽園の扉が、あのような醜悪な魔物ばかりが徘徊する地に隠されているとでも? ふん! 笑止の至りよ」
「しかし好き勝手にうろつき回らせておく訳にもいきますまい。調査という名目で何を企んでいるか、知れたものではありませぬ」
「そこでだ。お前はその調査隊に同行し、他国の動向をしっかり見張ってもらう。まさか何も見つからんとは思うが、もし万が一、北の地で何かが見出されるようなことがあったなら、その時は他国の連中にそれを奪われてはならん。速やかに回収し、我が国へと持ち帰るのだ」
「承知しております。もとよりこのフランマージュ、任務には常に粉骨砕身であたる所存でございますので。どうかご懸念なさいませぬよう……」
「あ奴等は無知故に、巧妙で狡賢い。良いか。いかに暁の女神のご加護があろうと、決して油断するでないぞ。
 王が美しいお妃を娶られた矢先のこと。きっとそう遠くない内に立派な世継ぎもお生まれになることだろう。我らがサンドリアは、これからも更に前進して行く。誇り高き我が祖国が他の国に遅れをとるなど、決してあってはならんのだからな」
「心得てございます」
「うむ、心強い限りだ。しかと頼んだぞ、フランマージュ」
「はッ! このフランマージュ、一命に代えましても!」


――――――――。


「結局、見つからなかったね。ラオグリムとコーネリア……」
「あきらめな。狩人のあたしが探して見つからなかったんだ。誰が探したって無駄さ。おそらく、あの二人はもう……」
「ふん、ヒュームとガルカが! 勝手に辺りをうろつくから、こんなことになる。まったく、役立たずどもめが」
「ちょ、ちょっと、フランマージュ。いくらなんでも、その言い草はないんじゃない?」
「……もういい。これ以上続けてもムダだ。どうせ何も出てきやしない。調査を中止して、この地から引き揚げよう」
「その件に関しちゃ賛成だね。あたしゃもうウンザリだよ、こんな陰気な土地は」
「でも、まだ全て見て廻った訳じゃ……」
「これだけ見れば充分だ。毒にも薬にもならぬ廃たれた小国が残っているだけで、他には何もありゃしない。まったく、こんな荒れ果てた地で、何が見つかると思ったんだか。とんだ骨折り損のくたびれもうけだ」
「ああ、そうだな……。仕方ない、計画は中止だ。明日、早速この地を離れよう」

「おい、ウルリッヒ」
「何だ、フランマージュ」
「ひとつ確認しておきたいんだが……本当にお前の言うように、ラオグリムとコーネリアは不運な事故に遭ったのかい?」
「どういう意味だ?」
「近頃バストゥークじゃ、ガルカとヒュームの間で、何やらキナ臭いことになっているそうじゃないか? なあ? ウルリッヒよ」
「なんだと!? 貴様、何が言いたい……」
「まあ、そう熱くなるなよ。実際に何があったかなんてことは、私にはどうだっていいんだ。お前達の国の事情など、知ったことではないからな。ただ、そんなことでこれ以上、私を煩わせるなということだ」
「…………」


――――――――。


「…………」

 手元に視線を落とせば、固く握られた、黄金色に輝くクリスタルの光明。そのまま窓に視線を移せば、既に日は高く真上へと昇り、昼の様相を呈していた。
 外から聞こえる子供達のけたたましい遊び声が、惰眠の暴食から自身を呼び覚ましてくれたのだと教示する。
 俺は……。



Ⅰ:追う
Ⅱ:追う(カレンも誘う)
Ⅲ:追う(カレンと巻菜も誘う)
Ⅳ:夢の続きをみる


投票結果


Ⅰ:0
Ⅱ:3
Ⅲ:2
Ⅳ:6(over kill)

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最終更新:2008年04月05日 18:37