819 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/03/06(木) 00:31:52
天が二色、三色と数多の層を成し、それらがやがて黒一色に統一され始めた頃合。
闇に包まれた世界の中でも特に不明な薄暗さを醸す厩舎に向け、
三つの黒い塊がひっそりと、静まり返った街を起こさぬよう、往来を蜚蠊の如く蠢いていた。
ふと何でもなしに後ろを振り向けば、不思議そうにこちらを見つめ返す四つの瞳。
内二つは猫の如く金色に光り輝いていた。
「…………」
全身を包む黒の装束と、それと不釣合い――否、
むしろソレを映えさせるのが目的で衣装を着用しているのではと疑ってしまうくらい、艶やかな銀髪。
相変わらずの穿いていない下半身だったが、幸い不審がる通行人は一人として存在せず、
それどころか驚いたことに、この世界では“サブリガ”なる、
どこからどう見てもパンツ以外に認識し得ないファッションとして一般に定着しているとのこと。
……文化の相違というものには、漫然たる恐ろしさを感じざるを得ない。
「…………」
もう片方の人影は、肩まで届かぬ髪に、若干の幼さを残す顔立ち――先程の人物と比べると平凡極まりない外見であったが、
ただ一つだけその人物を普通から隔離される要素があった。右腕が肩口からすっぽりと断たれているのだ。
……しかし、この人物を真に“異常”せしめる要素は決して外面ではないのだが……それはこの際置いておくことにする。
さて、そんな妖しげな面々が厩舎に押しかけた所。
もう既に世界が闇夜に包まれる時間だというのに、独り藁を鋤で掻き続ける勤勉なオヤジの姿は、果たしてそこにあった。
「こんばんは。夜遅くにすまないが、三人分頼む」
俺の要望にオヤジは笑顔で応え、そうして定型通りに三人分の騎乗代を受け取り、黄色い巨大な鳥が人数分柵から解き放たれる。
この世界の不思議な動物を間近で目にすれば、毎度のことながら、熱い不思議な興奮が沸き立ってくる。
推し量るに、多分もう一生慣れることはないかもしれない。
……さあ、出発だ。
全員手馴れた様子で鞍に跨り、途中で放ってしまわぬよう手綱をしっかりと握り締め、
微細な力加減により進行方向を股下の巨鳥に伝える。
だが……。
何時の間にそこに居たのやら。
唐突に、背後から棘を含んだ声が投げかけられたことにより、出発は二の足を踏む羽目に陥った。
「何処に行く気かしら? エミヤシロウ? ヒサオリマキナ? カレン・オルテンシア?」
「シャントット……」
声の主は、尊大な口ぶりとは裏腹に、その体躯はせいぜいチョコボの脚の半ば程度。
心なしか、幼い顔立ちはむしろ愛嬌すら見て取れる。
だが油断するなかれ。別段その姿形は彼女がそういう種族であるからであって、中身は外面同様若輩者という訳では決してないのだ。
加えて、彼女という人格を織り成す気概も。
「……別に私達がどこに行こうと貴女には関係ないと思いますが?
それとも、人間歳をとれば、人恋しくなって仕方が無いのかしらね?」
「カレン!」
「フン……相変わらず口が達者な糞餓鬼ですこと。
ご安心くださいまし。わたくし、とりわけアナタ方を引き止めようなどと思っておりませんから。
代わりに、慈悲溢れるわたくしが、頼りないヘッポコくん達にひとつご教示をと思いまして」
「えと、アナタは僕達が何処に行くのか知っているのですか?」
「さあ? 存じませんが。……オホホ、そんな顔をしないでくださいまし。ですが――――」
一旦言葉を切り、老獪な魔術師は先を続ける。
「覚えていまして? エミヤシロウ? わたくしが貴方に伝えたクリスタルの伝説を」
「…………えっと」
あれは確か……大体半年ほど前。
そう。俺とシャントットが、莫耶から預かったクリスタルの所有権について言い争っていたとき。
「――全ての起こりは『石』だった。そして、俺の持つクリスタルが土を創世した」
「石! そう、全ては貴方が所持する冷たい石から始まった……。
そして、言い伝えには続きがある。どんな嵐の夜をも貫き輝く星々――――かつて世界を救った、クリスタルの戦士の伝説が!
ホホ。……とは言いましても、誰もアナタ方が伝説のクリスタルの戦士だとは微塵も思っておりませんので、ご安心くださいまし」
「はあ」
クリスタルの戦士……。
こちら風に解釈するならば、この世界における英霊。
それも言い伝えが真実ならば、世界の運命を左右した、かの英雄王にも引けを取らぬ大英雄。
だが、何故その英雄の話が今出てくるのだろう? 彼女の話は、今の俺達にとって、あまりにも脈絡がないように思える。
見れば、隣に居るカレンも巻菜も、どう返答するべきか逡巡している風であった。
「そんなに深く悩まれては、却ってこちらが困りますわよ。
要は、彼等のように世界を救うなんて気負わず、守るべきものをきちんと守りなさいということですわ。
……まぁ、貴方の場合、クリスタルを最優先に考えるべきですが」
「はは……サンキュ。でも――」
「でも、何です? しょーもないことを口にしましたら殴りますわよ?」
「いや。アンタって意外と優しいんだなって……」
「……わたくし、ブチ切れますわよ」
――――――――。
前へ。ひたすらに前へ。
軽快な、それでいて確かな反動を込めた振幅を以って、俺達を乗せたチョコボは風を切りながら、前へ前へと駈け進む。
柔らかな草地を踏み抜く脚力は如何程のものか。
その尖った爪はどれ程の土を払い除けているのか。
明らかに人間の限界を超えた速度には感嘆の念を抱かざるを得ないと共に、
それを乗りこなして超常的速度を我が物としている自分が密かに誇らしい。
横を見れば、以前あれほど騎乗に苦戦していた巻菜も今ではすっかりチョコボ乗りこなし、
片手でも安定した姿勢を保つまでに到っている。
更に首を伸ばして彼女の向こうを眺めれば、俺達のペースに難なく着いて来るカレンの姿。
嬉しい誤算だった。カレンは俺の予想に反してチョコボ免許を既に取得していたのだ。
彼女もジュノで厩舎のオヤジの試験を受けたのだろうか?
鉢合わせなかったのは悪い天の巡り合わせとしか言えないが、済んだことに今更愚痴をこぼしても仕様があるまい。
「――――で、あの娘がどこに居るのか、貴方は知っているの?」
「北の大地! 30年前の北方調査団が立ち入った場所だ。そこに莫耶の目指す人物がいる。
したがって、彼女もそこに向かっている筈だ!」
闇の王。20年前、人間と獣人が争う水晶大戦を起こした張本人。そして、ウィンダスの星の神子が占った、彼の復活。
まだ僅かな点と点が繋がったに過ぎないが……
それでも、断片的に入手した情報を照り合わせば、過去に行われた見えない何かが見えてくる気がする……。
闇の王とはいったい何者か。30年前と20年前に何があったのか。
莫耶と彼にどういった接点があるのか。
多くの疑問も、北の大地に行けば自ずと明らかになる筈だ。
「……で、北と大まかに捉えられても、具体的に何処に向かえばいいかわかっているの?
ちゃんと明確な目的地を定めて走っているの?」
「…………ん?」
北。北……きた。キタキタ……あれ?
……ああ、そういや全然考えていなかった。
…………やべ。割りと本気にカレンがこちらを睨んできてる……。
「馬鹿ね……。本当に、使えない駄犬だわ」
「いや、ホラ。適当に北へ行けば着くかな~とか。思わない?」
「一度便器に頭を突っ込んで冷静になることをお勧めします。……所在!」
何を思ってか、同じくチョコボを駈る傍らの少女を呼び寄せ、会話が可能な範囲にまで近づけさせる。
――――ときに何故、俺達の中でも抗う術を持たぬ、非力を誇る彼女が、
ウィンダスに残らず俺達と共に死地になるであろう場所へ向かっているのか?
勿論、身を守る術をもたない彼女を同行させるのは、俺としては到底気のすすむ話ではなかった。
だからカレンが彼女を連れて行くと提案した時は断固として反対したのだが……結局押し切られる形となって現在に至る。
彼女は一体何を考えて巻菜を連れて来たのだろう?
正直彼女を巻き込むことに対する不満は、今でも隠しきれないくらいに胸中に渦巻いている。
……それはそうと、アイツの罵声、あの一件以来どうしてか心地良く耳に響くのだけど……俺って、末期なのかなぁ?
「所在。私達はまずどこに向かえばいいのかしら? 教えて頂戴」
「……あん? なあ、カレン。いくらなんでも薮から棒過ぎるだろ……」
性悪な反面、いつも理知的に振舞う彼女が呟く、曖昧な質問。
カレンらしくない、問題をそのまま相手に放り投げる横柄な態度。
常時の彼女との差異と微かな失望が胸中に生じ、
巻菜の困った顔を拝むべく首を巡らせたその時――――ちょっとした驚きに、目を見張った。
「北の大地、というとザルカバードのことですね。
で、サンドリア領のロンフォールの森に繋がる峠からボスディン氷河を伝い到着と。
そうなると恐らく彼女が目指す場所とは、かつて闇の王の居城であった、ザルカバード奥地にあるズヴァール城ですかね。
正直、ここからだといくら急ごうとも四、五日は必要なくらい遠いですよ。
ただし、地形が複雑なことと、辺りを徘徊するデーモン族やアーリマン族が強いこともあり、足止めを喰らうのは必須でしょうが」
「……え? お前、行ったことあるの?」
「いえ、全然。ただ、留守番している間は暇だったんで、そこいらの本と一緒に地図を読んでいたんですよ。
詳細な地形や、どんな魔物が出没するかくらいならわかりますよ?」
ちなみにここの正確な位置だって言い当てられますが、と言い張り、彼女にしては珍しくニッコリと微笑む。
何故だかカレンも心底意地悪そうに微笑む。
ひとり罰が悪い俺。
「……とにかく。そんなに日にちを費やしていちゃ、こっちが団体行動な分、追いつくのは厳しいな……。
何かいい方法ないかな?」
「返答に窮するわね……。私達が有する移動手段では、チョコボに乗って走らせるのが最速よ?」
「僕にも正直ちょっと。他に方法があれば、迷わず選んでいるんですけどね」
チョコボより速く、俺達でも可能な移動手段か……。
はて、それって何かあったっけ?
注:今回の選択はちょっと特殊な形式で。
ズバリ、FFに存在するチョコボより速い乗り物って何でしょう?
選択肢の代わりに名前を書いてください。同じものが五票集まった時点で決定で。
ヒントは……なしでw 出てこない場合は『なし』と記入してください。
投票結果
飛竜:3
カヌー:1
黒チョコボ:1
飛空挺:5
ホバー船:1
ガーデン:2
魔列車:1
フィガロ城:1
魔導アーマー:1
最終更新:2008年04月05日 18:39