380 :遠坂桜 ◆0ABGok2Fgo:2008/04/02(水) 21:17:21
士郎が林の先、黒い街を見据える。
放っておけば危難に突き進む。士郎がそういう人間だと知っている。
一つ困難を退けても、士郎の性質では次々の脅威にいずれ潰される。
それは好都合の筈だ。士郎はマスター、敵の一人なのだから。
しかし何故か、慎二はそうなって欲しいとは思わなかった。
「衛宮。おまえ、魂を狩ってる魔術師を探し出すつもりか」
「ああ、知った以上は放っとけないだろ」
「…好きにすればいいけど、さ。
でも聖杯戦争はマスターとサーヴァントで一組。おまえ一人じゃ戦えないんだぜ?」
士郎が弾かれたようにセイバーを見る。
何かのために自分が犠牲となること。それを、士郎は非としない。
だが誰かが巻き添えになるとすれば、違う。
迷い。硬く絞られた唇が、士郎の心を表していた。
「マスター、心配は無用です。
私もそのような蛮行は許せない。貴方とともに戦います」
「それで、勝てるワケ?
さっきは僕らが助けなきゃ、どうなってたか判らないと思うけど」
力強く言うセイバーに、慎二は訊ねた。
セイバーはその問いに明確な敵意で応じる。
負けたとは言え、バーサーカーと打ち合えるセイバーは相当に強力なサーヴァントだ。
そこに疑いの余地は無い。ならば、その自負も当然だ。
ライダーとは比べ物にならず、恐らく他のサーヴァントに対しても優位に立てよう。
だがバーサーカーは『士郎を狙ってきた』のだ。
これからも常に、士郎たちは優先的な標的だろう。
その状況で他の魔術師を追う余裕があるとは思えない。
「私はバーサーカー以外に遅れを取るつもりは……いや」
セイバーが言葉を切り、頭を振る。
「シンジと言ったか。先に貴方の話を聞こう」
感情を収め、セイバーは極めて理知的な瞳で慎二を見る。
怒りながらも慎二の意図を読んだ。さすがに英霊、ただの小娘では無い。
慎二は片頬だけで笑った。
「僕はどっかの誰かと違って、正義感を振りかざす気は無いんだ。
けど敵が肥えるのは困るから、魂狩りはどうにかしたい。
あと、バーサーカー。アイツは僕らだけでも、君らだけでも勝ち目は薄い。
でも僕らが組めば勝機は大きくなるし、最悪でもライダーが居れば逃げ切れる。
どうだい? 利害は一致してる。僕らは組むべきだと思わない?」
「今の話だけならば、確かにそうだ」
セイバーが視線を士郎へと向ける。
「えーと…」
ぽりぽりと頬を掻く士郎。事態を呑み込めていないらしい。
「衛宮、おまえ次第ってことだよ」
「……うーん。俺は手を組みたい。
探すのも数が多い方がいいに決まってるし、慎二と争いたくないしな。
けど。セイバー、でいいんだよな? おまえはそれでいいのか?」
ぱちくりとセイバーは瞬きをした。
宇宙人でも見るかのように、士郎を見つめている。
初めて少女らしい所作を見せた、という気がした。
「え…はい、マスター。
魂狩りの魔術師とバーサーカーに共同して当たる、という点に異論はありません」
「そうか、よかった」
士郎が微笑んだ。
セイバーは士郎をまじまじと見つめ、それに照れた士郎は顔を逸らす。
微笑ましいやりとりだ。
慎二は唾を吐きたい気分だった。実際、吐いたような気もする。
「…で、結論は僕と組むってことでいいのかい?」
「ん、そうだな。よろしく頼む、慎二」
士郎が右手を差し出す。
「フン。頼まれてやるよ、死なれるのも後味悪いからね」
それを直視せず、慎二は手を取った。
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最終更新:2008年08月19日 02:49