543 :遠坂桜 ◆0ABGok2Fgo:2008/04/16(水) 22:07:20
慎二は顔を上げた。
立ち上がり、脇に置いてあった大きめのダンボールを手際よく組み立てていく。
慎二がその中にすっぽりと収まる。
そうして、嫌な静寂が居間にもたらされた。
「……あの行動はどう理解すればよいのでしょうか、マスター」
セイバーがおずおずと尋ねる。
士郎はこめかみを押さえた。
「慎二、出て来い。そんなことしたって仕方がないだろう」
目の前の慎二入りダンボールに向けて、士郎は語りかけた。
「嫌だ!」
「何でそんな事してるんだ?」
「……ふん。衛宮になんて言うかよ」
確かにプライドの高い慎二には言えないだろう。
警戒し合うのが当然だと説きながら、ライダーが居ないことに気付かなかったのだ。
恥としか言えない事態だった筈だ。
そして慎二が自分の恥を認めることなど、中々あるものではない。
「そんなに恥ずかしかったのか。
でもなあ、そういう周りの空気とか読まないのが慎二の強さだろ?」
「な…恥ずかしいとか、そんなワケないだろ、このバカ!
それに空気読めないのは衛宮の方だ!」
「いや、空気読めないんじゃなくて、空気読まないのがだな」
「そんなのどっちでもいいよ! そういうトコが空気読めないって言ってるんだ!」
ガタガタと揺れるダンボール箱。
それに平然と対応する士郎。
セイバーは考えるのを止めていた。
「ともかくだな。誰がバカにする訳でもないから、とっとと出て来い」
「ハア? バカにする? 僕がそんなトコを見られたって言うのかよ、おまえ」
「あれ、そういう話じゃないのか」
「当たり前だ! 僕がそんなこと、する訳ないじゃないか!」
「じゃあ、何で引き篭もってるんだよ」
「……だ、だから、衛宮に話す気はないって言ってるだろ」
再度、黙秘権を発動した慎二。
士郎は眉間に皺寄せた。
慎二自身の家で篭っているなら放って帰るが、ここは士郎の家である。
物騒極まりない聖杯戦争の最中、慎二をこのまま放置するのも気が引けた。
イリヤたちが取って返して襲って来ないとも限らないのだ。
「マスター。ライダーが戻りました」
セイバーの言に違わず、ライダーの姿が居間の中に現れる。
霊体化とは便利なものである。
窓を開けることもなく、風も起こさずに居間に入ってきていた。
「おい、エミヤシロウ。ここの結界は何なのだ?
今もこの屋敷に入ったが、私に対して何にも反応していない。
かといって、注意を逸らすのでも、魔力を溜め込んでいるのでもない」
「いや、それでいいんだ。『侵入者』に反応して鐘が鳴るだけだからな。
親父が作ったヤツだから俺は詳しく知らないけど、それしか効果はないと思う」
「そうなると、ここは守りに向かぬな。ところでシンジは――」
そこまで言って、ライダーは硬直した。
能面のような無表情さで、ダンボールを見ている。
察するに、箱の内部に居住する生物の見当はついているようだった。
「中か?」
「ああ、その中だ」
ライダーの問いに、士郎は神妙に頷いた。
「……そうか。私が戻るまでに話はどこまで進んだ?」
「多分、魂狩りの魔術師を止めるって事は決まってる」
「充分だな。もう寝ろ、続きは明日だ。それまでには引き摺り出しておく」
ライダーはそう言って、指をペキパキと鳴らす。
その仕草はまるで、もう一仕事こなそうとする剣闘士に見えた。
大型肉食獣に比べれば楽なもの、という感じである。
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最終更新:2008年08月19日 02:50