458 :もしも遠野志貴が引き篭もりだったら ◆4OkSzTyQhY:2008/04/08(火) 17:25:39
interlude ――tender――
「――どういうことなんでしょうね」
暗がりの中で、彼女はそう独りごちた。
彼女の名はシエル。本名ではないが、そう呼ばれることが多い。
かつて十七代目のアカシャの蛇だったものにして、不死者。
現在は埋葬機関の第七位に席を置き、極東の地において任務を遂行中。
簡潔にまとめると、彼女は化け物専門の、しかもその狩る対象の怪物より怪物な殺し屋である。
その殺し屋は物陰から、ベンチに座って空を眺めている少年をじっと見つめていた。
手にはレイピアのような黒塗りの剣が握られている。無論、彼女の本分を全うするためのものだ。
だが、シエルはまだそれを使わない。
隙を伺っているというわけではない。彼女の技量があればすでに少年は十回以上殺されている。
彼女が現在追っている吸血鬼は、死んでも人に乗り移る吸血鬼である。
まだ赤子が母胎で眠っている内にその魂に侵入し、やがて人格を乗っ取ってしまう。
そのためただ殺すのでは意味が無い。そもそも判別するのも一苦労だ。
だが彼女は過去にその吸血に乗り移られたことがあり、それ故に次に乗り移られる人物も特定できていた。
この島国で有数の企業グループの宗家、その長男。目の前の少年がそれに当たる。
だというのに、ようやく見つけ出したあの少年には全くといっていいほど人外の気配が無い。
実際に街では被害者が出ているのに、だ。ならば既に少年としての人格は失われているはずである。
数時間前、それを確かめるためにシエルは少年の家に乗り込んでいた。
だが実際に会ってみても、少年は引き篭もり以外の何者でもない。
暗示に容易く引っかかり、軽く殺気を当てただけで気絶した。
(……ロアは遠野の長男に転生した。これは間違いありません。
だけど、未だに発現していない? いえ、死人は確認しています。すでにこの街にはロアがいる。
これらは何を意味するんでしょう?)
どれだけ考えても、分からない。
おそらくどこかで何かが間違っている。そんな感覚が付き纏って離れない。
(……そういえば、どうしてあの少年は引き篭もっているんでしょうか)
ふと、疑問に思った。
最初は、もしかしたら昔の自分のように段々と膨れ上がるロアの意識に怯えているのかとも思っていた。
だがいまこうして空を眺めている少年の姿には恐怖の影など微塵も見られない。
そこにあるのは達観と、檻の中の囚人のような孤独感だけだった。
(よく考えてみれば、私はあの遠野志貴という少年のことをなにも知らないんですね)
なぜ親類の家に預けられているのか、何故彼が遠野の当主でないのか。シエルはそれらの理由を全く知らない。
ならば、確かめる必要がある――そう思い立ち、彼女は腰を上げた。
調べる方法は――
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最終更新:2008年08月19日 02:59