398 :エルメロイ物語 ◆M14FoGRRQI:2008/04/04(金) 07:44:00
「なあ、あの走ってるのちちょまんちパティじゃないか?」
「えー、ウソー、カッコイー」
「ウホウホ」
ちちょまんちパティ、本名はパトリシア・コーラルサワー。
その走る姿はとても魔術師とは思えない程に美しい。
事実彼女は強い、『AAA』と『ちょっちゅね軍団』の決戦では当時一年生だったにも
関わらず三将を務めアオ・ビッグボディ相手に引き分けの快挙をなしとげる。
その後も決して負けることはなく、練習試合を含め彼女は現在2000試合無敗!!
「離せ、ゲミ・ラマンのパチモン!!」
「しまったー!彼女をかついだままでは霊体化できないではないかー!
ああー、重力に引かれて落ちていくー、この勢いで激突したら骨折は必死!」
そんなパトリシアが、授業が終わった後は校舎と男子寮を繋ぐ一本道を走って往復
する事を日課としていたパトリシアが、潰れた。
「なあ、ちちょまんちパティが空から降ってきた男の尻に潰されたぞ」
「キャー、2000試合無敗の彼女の衝撃KOシーンよ」
「ムホウホ」
落下点にたまたまいた女学生にヒップアタックをかましたエミヤはクリボーを
踏み潰したマリオのごとく大跳躍しチャダと共に空へと消えていく。
「なあ、これって特ダネじゃないか?」
「イヤーン、今月の時計塔スポーツの三面記事はこれで決まりね!!」
「ウホゴホ」
目撃者の男子学生がカメラで倒れているパトリシアを激写し、
女子学生がマイクを向け、ゴリラがメモの準備をする。
「まてーいルパ-ン」
そこに走って通り過ぎるのは僕らの主人公ウェイバー。
その走る姿は、魔術師として見てもかっこ悪い。
事実彼は弱い。勉学に打ち込みめったに運動などせず、唯一の趣味である
時計塔プロレスも主に観戦専門であり、ルームメイトに技を試し掛けしたりもない。
「なあ、さっき通り過ぎたあれって元アーチボルトゼミのウェイバーじゃないか?」
「エー、私よく見てなかったー、そんなのよりこっちの特ダネよリーダー」
「ウホウホ」
ややあって立ち上がるパトリシアにマイクを押し付ける女子学生。
「ちちょまんちパティ、無敗記録がパーになってしまった心境を一言!!」
「・・・てねえ」
「はい?」
「まだ、アタシは負けてねーぞコラ!!3カウントも入ってないし失神も(ちょっとしか)
してねー!」
パトリシアは絶妙のアドリブ力とそこそこ回る頭で自分の状況を理解し、
マイクパフォーマンスで今にも切れてしまいそうな無敗記録を守ろうとした。
「でもこの状況、リングならドクターストップかかっていてもおかしくはないですよね」
だが、学生新聞部の追撃の手は厳しい。後頭部型に凹んだアスファルトを指差し負けを
主張する。『あのパトリシア敗れる』、これは彼らにとって絶好の三面記事。
ロード・エルメロイ追悼特集が飽きられてきて次のネタが欲しかった新聞部にも引けぬ
理由があった。このままでは負けた負けてないで千日戦争となり双方共に時間の無駄と
なる事は傍でメモを書いているゴリラにも明らかだった。
結果、パトリシアがちょっとだけ妥協。
「そ、そんじゃあ三本勝負ってことで!!」
「つまり?」
「さっきの負けは認める。だけどアタシは今から尻男を追いかけて二回倒す。
あんたらはそれを記事にする」
そして、新聞部もちょっとだけ妥協。
「なあ、お前らはどう思う」
「『ちちょまんちパティ、謎の男に三本勝負で先取されるも逆転勝利!』、イヤーン、
結構イケルんじゃないこれ」
「ウホホホ」
全員の意見が一致、議論終了即実行。
「いくぜ、お前らアタシが勝つ瞬間をしっかり記事にしろよ。なんせアタシは
二千試合で!無敗で!練習試合込みで!スペシャルなんだからなーっ!!」
「「「アラホイサッサー」」」
こうしてゼニガタイムは『伝承能力・今日は俺とお前でダブル銭形だ』に格上げされた。
ここは時計塔校舎を出てすぐにある広場。
授業を終えたカップルのいちゃつきの場としても有名なそこは今――。
「そらう」
半ば恋人達の休憩所と化していたベンチに似つかわしくない60歳前後の男が一人、
手に杖を持って座り込んでいた。
「そらう」
力なく老人は自分より先に逝ってしまった娘の名を呟く。
彼こそがミスター・ソフィアリ、時計塔の現降霊科学部長でありエルメロイ派の中心の
一人となっていた人物である。
だが、今の彼はただのボケ老人。ベンチに染み渡る尿がそれを如実に示していた。
重い空気と染み渡るアンモニア臭、でも自由落下の前にはそんなの関係ねえ。
「ワンナッープ!」
「そら、ウッ!?」
空を見上げた老人に赤い尻のドアップ、そして激突。直後ピロリロリンという音と共に
反動で飛び去っていくエミヤ。
「まてールパーン」
しばらくしてソフィアリ氏に気づかずベンチの前を通り過ぎる銭形ウェイバー。
「ルパン在るところに不二子ありー」
さらにベンチを通過していく銭形パトリシア。
そしてさらにその後に三人組がベンチを通過、しない。
「なあ、ションベン漏らして倒れてるあれってソフィアリ学部長じゃないか?」
「アレレー、何か様子おかしくありませんかー?最近ボケボケしていたけど昨日までは
人前でオシッコまではしていなかったですよー?」
「ゴホホホ」
持ち前の事件に対する嗅覚で事件の匂いを嗅ぎ取った新聞部トリオは立ち止まる。
「なあ、そういえばまだソフィアリ学部長に対して直にインタビューした事って
なかったよな」
「ウーン、今がチャンスってこと?」
「ウホー」
ややあって立ち上がるソフィアリ氏にマイクを押し付ける女子学生。
「学部長、娘を失ってさらに地位ももうすぐ失ってしまいそうな心境を一言!」
「に、く、い」
「はい?」
ぎりりと歯軋りをし、ソフィアリ氏は会議を思い出す。
自分の運命を狂わせた男ウェイバー・ベルベット。
彼を陥れるために聖杯戦争の証拠を捏造してまで追い詰めた。あの男さえいなければ
全て上手く行くはずだった。そう、突如現れて窮地に立っていたウェイバーの弁護を
担当した男、コルネリウス・アルバの使い魔を名乗り証拠の矛盾を指摘し、
あいだあいだにウェイバーのルームメイトへの執拗なセクハラをしながら余裕で形勢を
逆転してしまったあの男さえいなければ。
(この辺の事情についてはまとめうぃきで会議室編を読み直して復習してください。
グッドエンドを目指す良い子のみんなはもちろん会議室ルートを選んだよね?)
「おのれエミヤーマン、やってくれた喃。お主さえおらなんだら馬鹿学生に
全ての責任と罪を押しつられた所を、やってくれた喃」
この日、新聞部にとって誤算だったのはソフィアリ氏が曖昧でも覚醒した状態でも
なく近づいた者全てを切り捨てる魔人と化していた事だった。
もし、ゴリラが肘と膝で止めるのに失敗していたら杖から抜き放たれた刀が三人を
輪切りにしていただろう。
「しかも今度は足蹴、いや尻蹴ときたか。もはや許すまじ」
抜き身の仕込み剣をかざしソフィアリ氏はエミヤの飛んでいった方角に突き進む。
三人銭形、味方にすると頼もしいが敵に回してこれほど恐ろしいものはない。
時計塔第一体育館、その地下にある魔術訓練場。
魔術は理論のみで良しとする魔術師が大半を占め、数少ない実践派は逆にここで行える
模擬戦闘程度では満足できない為、めったに人が訪れない場所。そこにエミヤとチャダは
いた。
「どうやらポンコツ魔術師は撒けた様だな。さて、ようやく二人きりになれたね」
「こんな事までして、お主何を考えておる。何をする気じゃ」
「何をかって?そんなの決まっているさ」
【人物紹介12 ゴリラ部員】
筋肉はゴリラ、牙はゴリラ、燃える瞳は原始のゴリラ、背中には「葛木」の字。
寡黙な人物であり基本的に飼い主であるモブキャラ女子学生に「ウホ」等の肯定を
意味する一言を言うのみだが、たまに解読しがたい命令が来たりすると、
「それは激しくか?それとも優しくか?」と聞いたりもする。
数ヶ月前自分が何者かすらわからぬままロンドンをさまよっている所を拾われ、
以後使い魔兼数合わせ部員として女子寮の一室に住み着いている。
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最終更新:2008年08月19日 03:09