31 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM:2008/03/12(水) 00:06:33
「いきなり何言ってんのさ。来いよ、巻菜」
あっさりと。
気付けば、自分でも正直どうかと思うくらいに、口が先に動いていた。
「ハ――――、本当に、いいの? 私、皆の足、引っ張りまくっちゃうよ?
そのせいで全員死ぬことになっても、責任持たないよ?」
「ご自由に。俺が来いって言ったんだから、どうぞ気兼ねなく、胸を張ってついて来たらいい。
ま、本音を言うと、今更いちいち訊ねて欲しくはなかったケド。
……それに足手纏いのレベルで語るなら、俺も大言吐けるような立場じゃないしな」
言い終え、出来る限り爽やかな笑みを浮かべて話を締め括る。
嘘偽りの無い答え。決して短いとは言えない時間を共有してきた、仲間への想い。
……だが、当の彼女にとっては琴線に触れる行いに値したのか、苦難に満ちた顔はよりいっそう苦渋に満ち、
こちらの姿を射抜く視線には、鋭い険すら含まれていた。
「……ふざけないでよ」
「ん?」
「バッカじゃない? 状況を考えてよ、状況を。
普通に考えたら、魔王の居城なんかに村人Aを連れてく馬鹿、いないでしょうに。
何なのアンタ。脳みそ腐ってるの?」
「えっ? ゴメン、ひょっとして行きたくなかった?」
「――だからっ!!」
巻菜の怒号が暗く静かな倉庫に響き渡り、油断しきっていたこちらの耳を容赦なくつんざく。
いったい、彼女は何に憤り、何を求めているのだろう?
苦しみに喘ぐ顔を恐る恐る窺えば、そこには確かに存在する脱却への願望。
彼女は、俺に何をして欲しいのだろう?
「ホント、アンタって徹底的に壊れているよね。こうまで壊れていちゃ、模倣なんて絶対無理……。
むしろ救えないのは貴方の方だよ。私が模倣を諦めた、三人目の怪物さん」
「はぁ……どうも」
「ぐっ! だからっ、私は――――!」
「よくわからないけどさ、巻菜。要するに俺は――――」
いつだって正直に、体当たりで。
狭量で不器用な衛宮士郎に出来ることといえば、その程度のこと。
……ゴメン、切嗣。俺、全然女の子に優しくないかも。
「――――お前に居て欲しいって思ってるんだけど。それじゃ、駄目なのか?」
「――――…………」
彼女の言うとおり、単純な労働力や腕っ節という面で捉えるのならば、巻菜は少々頼りない。
だがそれ以上に受け取ってきたモノがある。大切な想いがある。
紛うことなどあろう筈がない。久織巻菜は、間違いなく俺の仲間だ。
「……ハハ、何それ。アンタにはカレンがいるじゃん。
何? 二股かけようって腹? その歳で愛人でも欲しいの?」
「馬鹿、失礼な奴だな。それとも聞こえなかったのか?
俺が来いって言ったのはな、二人とない、俺自身がお前を必要としているからだよ。
だからさ、一緒に来て欲しい。巻菜が良ければ、だけど」
「…………」
濁流の如く無限の言葉を紡ごうとも、最早それはただのノイズにしか堕すまい。
故にもう喋らない。どう行動するかの決定権なんて、もとより本人以外には持ち得ないのだから。
しかし――――。
「…………」
「……巻菜?」
俯く姿勢は、道端に佇む地蔵に劣らずに固く。
着々と時間が進んでいく中、巻菜は驚くべきことに、まるで微動だにしなかった。
募る不安は、ただ脈々と、容赦なく。
狼さえも固唾を飲んで見守ろうかという切迫した状況の中、
ふと、黙した姿勢を保ち続ける彼女の背から『白い』物体が這い上がり、
空気を読まず、肩越しに顔を出す間抜けの愛嬌。
白い――――本当に、染み一つなく、白いナニカ。
一片の予兆もなく起きた怪異に心奪われ、本人に声を掛ける暇などあろう筈もなく。
ソレは問答無用に俯く彼女の身体を徐々に這い――――
気付いた頃には、無い筈の右腕が『白い』右腕となって肩口から生えていた。
直後、五指はワナワナと動きだし、遂には完全に血が通いきったらしく、肘を曲げ始める有様。
「それ、は――――?」
「歓喜(仮名)ちゃん。とある悪魔から餞別として貰った義手なんだけどね。
使う必要もないし、第一窮屈だから埃を被せていたのだけど……
でも、隻腕のままだとこの先不安じゃない? せっかくだし、使わせてもらおうかなって」
「へ、へえ。最近の義手って、進んでいるんだな」
馬鹿な。そんなワケがあるか。
それでも自身の狭い頭では理解に到ろう筈もなく――――
混乱に喘ぐ様を満足そうに悦と変え、巻菜は芯の通った声で宣言する。
「改めてよろしく、士郎。女ったらしの貴方だけど、必要としたからには、きちんと責任とってよね」
是非も無い。
呆けた頭では、鸚鵡返しをするのが精一杯だったのだから。
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最終更新:2008年08月19日 03:21