952 :Fate/Rise of the Zilart ◆6/PgkFs4qM:2008/05/16(金) 23:13:55


Prologue


 ――――昔々、ある所の物語。
 世界に土が齎され、
 世界に水が齎され、
 世界に火が齎され、
 世界に風が齎されたばかりの頃の、
 遠い遠い昔の、ホントかウソかの御伽噺。

 今ではどこかも分からない遥かな向こうに、
 非常に高度な知性と文明を併せ持った王国がありました。
 名をジラート。
 どこまでも豊かで、どこまでも穏やかな真世界。
 この時代に生きる人々は、まだ心の闇を知らず、
 綺麗で、純粋で、透き通った心の持ち主ばかりでした。

 そうして全ての起こりである『石』は、
 世界を生命で満たし、偉大なる神々を生み、
 光に包まれた幸福な時代が続きました。
 世界を守り続けたクリスタルの戦士も、
 それに安心して、ゆっくりと静かな眠りに落ちていったのです。

 誰もが永遠に続くと思っていました。
 誰もが終わりはないと信じていました。

 ですが、何を以ってしても、永遠なんて都合の良いモノは存在しません。

 栄華を極めた人々は、いつしかそれだけでは物足りなくなってしまい……
 恐れ多くも、神様のおわす楽園への扉を目指してしまったのです。
 ですが、彼らは知らなかったのです。
 世界を司る大きな存在に比べれば、
 自分達なぞどれだけ小さな存在に過ぎないのか……。

 やがて、神様は彼らの所業に怒り、天から大きな龍の王様を遣わしました。
 気性の烈しい龍の王様は、広大な大陸を自分ごと深い海の底へと沈め、
 再度浮かんで過ちが起こらぬよう、閂をかけてしまったのです。
 こうして豊穣の国は地上から消え去り、
 永年続いた楽園は、ものの数日で跡形も無くなってしまいました。

 世界にはもう、神様以外誰もいません。

 犯した罪は気付かれることもなく。
 犯した咎は問われることもなく。
 誰も知らず、ただ重く。

 これはまだ、現在を生きる人間達が生まれる遥か以前の物語。
 一万年という気の遠くなる時間を隔てた何かのユメ。


――Interlude


「……答えて頂きたい、間桐翁」

 息が詰まるような、それでいて、
 徹底して相手を問い質す気概を含めた語気が、暗く湿った部屋に響く。
 ピチャリと雫の落ちる音が響いた直後に返ってきたのは、
 相手を小馬鹿にするような、いかにも老獪めいた笑い声。
 声には僅かにクラリネットを叩くメロディが混ぜられていたが、
 その音源を発する蝶番の正体を見れば、
 刹那の連想への後悔と、一抹のおぞましさに及ばざるを得ないだろう。
 止まることのない木枯らし音。
 膝に乗せた手を固く握り老人嗄れ声をただ黙って聞いていた彼女ではあったが、
 数分もすれば身を包む不快の情にいよいよもって耐え切れなくなったらしく、
 目尻に携えたホクロを震わせ、老人の嘲笑に怒声を以って抗議した。

「答えて頂きたいッ! 聖杯戦争は終結した……。
 なのに、何故、あんなことを! どうして……今になってアサシンを使うのです!?
 貴方が内に秘める欲心の事と次第によっては、協会はマキリを悪意ある魔術師と認定し、
 この土地におけるあらゆる権限を剥奪するも已む無しとします」

 次いで両者の間に挟まれたテーブルが、一際高く音を立てて撥ね上がる。
 既に活力も失い全身のあらゆる機能も衰えた老人に対し、あまりに激し過ぎる仕打ち。
 だが、対座する老人は――――

「……なっ……」

 ――――余所見。
 彼女の訴えに微塵の興味も抱いていないという明らかな証拠。
 力の有無で言えばテーブルを叩くという明らかな暴力の行使と違い
 この行為には全く存在すらしていなかったが、故意か否かで語るのなら、
 こちらも負けじと激しいものが含まれていた。

「…………間桐……臓硯……ッ」

 腹の底から螺子を巻くように歪な声を吐き出し、
 そこでようやく老魔術師は皺の寄った顔を緩慢に振り向かせた。

「……ほ? 呼んだかいの?
 すまなんだのぅ、近頃歳のせいか、滅法耳が遠くなってのぅ。
 呵々々。――――で、何の話じゃったかいの?」
「……アサシンのことです。ハサン・サッバーハは貴方のサーヴァントだ。
 なら、彼が行動を起こす理由は、貴方との繋がりに他ならない。
 答えなさい、間桐臓硯。貴方は何を企んでいる? 何故、アサシンに私達を襲わせた?
 こちらの要望は、そちらの申し開きとサーヴァントの契約の破棄。
 もし従わなければ、家名も御身もただで済むとは思わないことです」

 ひとしきりの啖呵を言い終え、彼女――――バゼット・フラガ・マクレミッツは、
 ほんの数十分前の出来事に思いを巡らせる。
 遠坂凛。間桐桜。そのサーヴァント、ライダー。
 行方不明となったカレン・オルテンシアのサーヴァントであるギルガメッシュ、ランサー。
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。その侍従、リーゼリット。
 そして、自らを異世界の人間と語る、莫耶とかいう女。
 事の発端は、まさしくその莫耶という少女から起こった。
 一年前に行方を眩ました寄宿先の主人――――衛宮士郎。
 そして、同じく姿を消した、冬木の監査役であるカレン・オルテンシア。
 捜索に捜索を重ねて終ぞ一片の手掛かりも得られなかったというのに、
 半月前、偶然衛宮邸の前で傷つき倒れていた彼女を桜達が介抱し、その口から発せられた両者の名前。
 異世界やクリスタルなどといった単語には多少面食らったものの、
 少女の素振りに虚偽の言質は見当たらず、加えて藁をも掴む思いだった彼女達は、
 敢えてその狂言に乗るしか仕様はなかったのだが……。

「…………」

 アインツベルンの持ち出した黒い水晶により異世界への移動を試みている最中、
 それぞれ魔術回路の起動に集中する八人の背中に黒い影が迫った。
 見間違えよう筈のない髑髏の面に、白で覆われた顔とは間逆に、風に揺らめく黒のローブ。
 果たして満足に別れの言葉も告げることもなく、成功したのか失敗したのか、
 不安ばかりが心を満たす中、彼女達は世界から姿を消すこととなった。
 苛立つ本音を押し隠し、再度バゼットは回想する。消え行く直前に、少女が残した最後の言葉を。

『バゼット・フラガ・マクレミッツ。私がここを留守にする間、貴女に冬木の管理者を代任します』

 外来である筈の自分に託された、まさかの大役。
 或いは己程度の器には収まりきらない程の選任に、
 肩は今更乙女の如く緊張に震え上がり、足は高揚の武者震いで竦み、
 全てが駆け抜けた後に残されたものは、胸の内で大きく広がる誉れ高きこの想い。

(ええ、やり通してみせますとも。貴女が居ない間は、私が冬木を守ってみせる。
 ですから、凛、ランサー、皆……どうか蟠りなく頑張ってきてください……!)

 かくして――――遠坂凛とはまた別に、彼女自身の戦いが幕を開けた。
 力強く握られた拳から、皮手袋の擦れた音が鳴り響く。
 無造作に固めた拳骨はただ熱く、魔術の行使では得られない不思議な情熱に満ちていた。


――Interlude out.



1群2群、両方からお選びください。

1群
Ⅰ:イリヤサイド
Ⅱ:ギルガメッシュサイド

2群
Ⅲ:あ、ぽこたんインしたお!(1ぽこ)
Ⅳ:エーーース(暗・竜・侍)
Ⅴ:よん?(モンクは馬鹿じゃない)


投票結果


Ⅰ:1
Ⅱ:5


Ⅲ:2
Ⅳ:3
Ⅴ:5

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最終更新:2008年10月07日 18:08