34 :Fate/Rise of the Zilart ◆6/PgkFs4qM:2008/05/22(木) 11:27:53
――――――――。
唐突だが――――
ジュノのル・ルデ噴水前で開かれた『モンクは馬鹿じゃない』大会に、
全国から四千人の荒くれモンクが集まった。
「スタジアムにご来場のみなさん、こんにちは。
視界いっぱいを占める逞しい上腕二頭筋が、とっても眩いですねっ!
今日、私達は全世界に向けて『モンクは馬鹿じゃない』ことを証明するため、ここに集まりました。
では早速ですが、どなたか舞台に上がっていただけませんか?」
大会委員長のこの言葉に、
群衆の中から一人のミスラモンクがおずおずと進み出て、舞台に上がった。
委員長が訊ねる。
「15+15はいくつですか?」
ミスラモンクは、十秒か二十秒考えてから答えた。
「じゅうはち」
四千人のモンク達は明らかにがっくり来た様子だったが、みんなで声援を送り始めた。
「もう一回! もう一回! もう一回!」
この声援に応え、委員長が言った。
「今日まで私たちは苦労に苦労を重ね、やっと四千人の皆さんをここにお迎えすることができました。
世界中のヴァナディール・トリビューンの記者達が取材に来ています。
そこで、私は、彼らにもう一度チャンスを与えてもいいと思うのです」
そう言ってまた尋ねた。
「5+5はいくつですか?」
今度は三十秒近くも考えて、ミスラモンクが答えた。
「きゅうじゅう」
委員長は困ったような顔をして俯き、大きく溜息をついた。
会場の意気も上がらない。
おまけにミスラモンクは泣き出す始末。
しかし、これを見た四千人のモンク達は、両手を大きく振りながら叫び始めた。
「もう一回! もう一回!」
このまま進むと取り返しのつかないことになるのではと心配した委員長だったが、とうとう口を開いた。
「OK、OK! それじゃあ、もう一度だけ……。2+2は?」
ミスラモンクは目を閉じ、ゆうに一分は考えてこう言った。
「よん?」
スタジアムは大騒ぎになり、
四千人のモンク達は弾かれたように立ち上がり、
みんなで両手を大きく振り始める。
そして――――足を踏み鳴らしながら、叫んだ。
「もう一回! もう一回! もう一回!」
――――――――。
「度し難い愚挙ではある――――が、
如何様な道も、究めてみれば、見ていて気持ちのいいものよ。
本人に悪気がなければ尚更、な。――――そうは思わんか? 雑種よ」
「すまん、どういうことだ? 俺にはイマイチ話のオチが解らなかったぜ」
「…………」
熱気に包まれた簡易製スタジアムの中で、二人の男が涼しげに立っていた。
一人は吹き荒む風をそのままに、眩い砂金の髪を靡かせ、
魔性の紅蓮を秘める双眸をした、軽装を思わせる黒い上下を纏った青年。
釣り上がった細い眉は果たして彼の不機嫌を表しているのか、微かな険しさが含ませてあり、
がっしりとした体格とは裏腹の細い腕も、心なしか不満気に交差されたままだ。
もう一人は、繊細な美しさを内包する青年とは間逆の、筋骨隆々の厳つい大男。
身形は縦横に伸びた巨躯を助長するかのように、これまた厳しい鎧兜に包まれ、
背中には、その巨大な恰幅を更に上回る編籠を背負っていた。
深い底を満たしていたのは、何に使おうというのやら、剣、槍、斧に始まる刃物の類ばかり。
これらの要素を含めても、青年と大男は、
互いに肩を寄せ合っているのが不思議なほど対象的で、また、異質な存在といえた。
「……まあ、良い。そら、早く案内をせぬか。
こんな所で無駄に暇を費やす程、我の時間は安くなどないぞ」
「オイオイ、お前が見たいって言うから同行したんじゃねえか……。ま、いいけどよ」
尖がる唇をそのままに、
大男はゴツゴツした手を鎧中へと突っ込んで大雑把にまさぐり、
懐から小さな真鍮製の懐中時計を取り出して、目を落とす。
細めた三白眼を凝らして注視すれば、長針は既に、6の数字を横切ろうとしていた。
「ああ、丁度いい時間だ。カザム行きの飛空艇がそろそろ到着する。
これを逃したら、六時間は待ち惚けを喰らっちまうからな。急ごうぜ」
「いいだろう、赦す。王を待たせるという無礼、むざむざ被る訳にもいくまいからな」
そう言い残し、二人は未だ喧騒の止まぬ観客達に背を向け、
ほの暗いエントランスの彼方へと消えていった。
さて、青年と大男――――二人のギルガメッシュの出会いを語るには、
ほんの数刻ほど時間を遡らねばなるまい。
場所は衛宮邸の土倉前。
遠坂凛をはじめとする、衛宮士郎とカレン・オルテンシアの救助に応じて七人が召集され、
異世界への大移動を試みている最中の出来事。
――――当然だが、彼らはそれぞれ明白な意図の下、それを達するために集まっていた。
いなくなった衛宮士郎との再会を目的とする者。
本来の、もしくは仮の主への忠義を尽くすことを至上とする者。
もしくは、ただ何とはなしについて来た者。
それぞれの思惑が重なり合い、それでも確かに存在したものは、
姿を消した両者へと注がれる憂慮の情に他ならならず、
見方を変えれば、彼らは本懐を同じくする“同士”に違いなかったのだが――――
だが、当のギルガメッシュが参加を表明した理由はといえば、
仮の主へのとりあえずの義理立てと、日常に飽いた己に対する慰めの遊興でしかなく、
そこに他者の介入する余地を交えた“愛”など存在するものではなかった。
あるのはただ、満たされぬ心を満さんとする、欲求の顕れ。
世界を自分の領地と称して憚らない王の、
新たに手に入れた土地の仔細を廻り巡る、確認の儀式。
故に、これから異世界に臨むというのに、彼の王は面持ちを強張らせる他の面子とは趣を異にし、
身を包む空気は、緊張の欠片もない、常時の慢心を存分に露とした態度でしかなかった。
――――所詮は遊び――――退屈しのぎ――――。
やがてアインツベルンのホムンクルスから配られる黒い水晶を、
蒐集家としての面も有する彼の好奇心が捉え、
果たして自身の財宝に加える価値があるのか算段をし始めたその時。
「妄想心音(ザバーニーヤ)」
赤く伸びた異形の手が、彼の背後に迫っていた。
「……ぬっ?」
何の脈絡もなく現れた賊に対し、咄嗟に天の鎖を取り出し、
王の背中をとる不埒者を縛り上げようとするも――――間に合わない。
油断…………否、慢心。
それでも、己のすぐ真後ろに迫る暗殺者を目にして尚、
彼の胸中には自身の慢心へ向ける猛省など微塵も存在せず、
それどころか、卑賎な雑種に隙を突かれる理不尽さに怒りすら感じていた。
慢心せずして何が王か。
既に一歩前まで迫る死を前にし、だというのに己の不用心を咎めることもせず、
ましてや臆すことなく踏ん反り返るという、常人では考えられぬ愚行の極み。
(何故に我が薄汚い暗殺者に怯えねばならん? やれるものならやってみよ、鼠め!)
アサシンの妄想心音は、ランサーの宝具のように幸運値で判定を下されるものではなく、
二重存在を作成させない高い対魔力が必要となってくる。
ギルガメッシュの対魔力は、一応はスキルとして有するものの、Eランク相当。
全ては一瞬の、瞬きする暇すら見出せない、一瞬の出来事。
この場に居合わす全ての者が息を呑んだ。
ただ、狙われている筈のギルガメッシュのみが、荒い鼻息を吐き出し、暗殺者を睨みつけるばかり。
やがて世界は全ての時を減速し、動きを止め、
禍々しい朱に染めた腕だけが、ゆっくり彼の胸元へと吸い込まれていき――――
投票結果
最終更新:2008年10月07日 18:06