308 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/03/27(木) 21:38:53
弓道場だ!
雛苺の声がしたのは、こっちの方角からだった。
今日は日曜日、桜も練習があるようなことは言っていなかった。
だから弓道部は活動していないはず……でも、万が一ということもある。
もしかしたら、自主練習をしに来ている生徒がいるかもしれない。
そいつに雛苺を見られたとしたら……。
「どうか、杞憂でありますように……!」
誰にともなく、そう呟く。
神とか仏とか英霊とかに祈るのは、以前やって懲りた。
所詮、最後のギリギリになって頼れるのは自分の力、つまり自分の脚力であるわけで、もっとスピードを出せ俺の足。
「蒔寺たちが見に来る前に、隠すなりなんなりしないとな……」
「おいこらバカおたまっ!
話の途中で逃げるんじゃねー!!」
「ぶっ!?」
こ、こんなときに限ってなんでこんなにレスポンスがいいんだ!?
背後からの怒声に振り向けば、そこには俺以上のスピードで追いかけてくる蒔寺が!
ってうわあのマキジ超早えぇ!!
さすが自称冬木の黒豹、ぐんぐん俺との差を縮めてきてるぞ!
「やっばい……急いで雛苺を保護しないと!」
俺は全速力で弓道場の中に駆け込んだ。
幸い、まだ蒔寺との距離はある。
このまま最速で雛苺を見つけて、適当な場所に隠してしまえば……!
「衛宮!?
なんだよオマエ、何しに来たんだ!?」
「あ、シェロゥだー!」
「え、慎二!?」
中に居たのは雛苺だけじゃなかった。
意外にも、と言うべきか、よりによって、と言うべきか。
そこに立っていたのは、俺の悪友こと間桐慎二だった。
何があったのか、雛苺は首根っこから引っ掴むようにして持ち上げられている。
持ち上げている慎二の顔はなかばキレかけていたが、雛苺のほうはキャッキャと笑っている。
「な、なんでさ……?」
というか、まさか慎二がいるとは思わなかった……三年になってから部活に顔を出してないって聞いてたからな。
……でも考えようによっては、これはラッキーか?
慎二は他の生徒と違ってこっち側の事情にも聡い奴だ。
少なくとも、下手にごまかして話さなくてもいいわけだし。
「っと、今はそれどころじゃないんだった。
雛苺、ちょっと悪いんだけど、どこかに隠れてて……」
「……は?
ちょっと待てよ衛宮。
このチビ、オマエの持ち物なワケ?」
雛苺を急かそうとしたら、いきなり慎二が突っかかってきた。
な、なんだ、この忙しいときに?
「持ち物っていうか、保護者だよ。
慎二、今は急いでるんだ、雛苺を渡してくれ」
「いきなり、入ってきて何を言い出すんだよ。
そう言われて、ワケもわからずはいそうですか、って渡せるか?」
怪訝そうな顔をしつつ、手に持った雛苺を持ち上げてみせる慎二。
うう、説明したいのは山々なんだ!
でも今は時間がないんだってば!!
「それに、僕はこいつに少しイライラさせられててね……このままじゃ気が済まないんだ」
な、なんか慎二が異様に邪悪な笑みを!?
一体、雛苺になにをやられたんだろうか……?
「ここか衛宮ぁー!?」
ギャー、蒔寺がもうすぐそこまで来ている!?
このままでは、蒔寺が雛苺とエンカウントしてしまう……!
仕方ない、非常事態につき……強硬手段だ!
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最終更新:2008年08月19日 03:46