136 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/06(水) 02:49:54


 情報が足りない。
 氷室を探すのに、持っている情報だけでは圧倒的に足りない。
 それを得るために、俺は一度学園へ戻ってきた。
 あわよくば、このあたりに氷室が居たりしないだろうか……とも思ったが、残念ながら氷室の姿は見当たらない。

「あ、チャイム……」

 授業に区切りがついたことを告げる音が、スピーカーから流れ出る。
 丁度4限目が終了し、昼休みに入るところだったようだ。
 これ幸いと校舎の中へ侵入。
 いや、ここの生徒なんだから侵入も何も無いんだが。
 目指すは3年A組の教室である。

「あ、衛宮くん」

 3年A組を覗き込んでみると、早速三枝に捕捉された。
 ……遠坂の姿は見えない。
 またどっかに行ってるのか?
 それならそれで好都合、と教室に踏み込む。

「よう、三枝、蒔寺」

 見れば、三枝は弁当を広げ終えたところだった。
 だが、いつも三人で囲んでいるであろう机は、今日は二人しか居ない。
 そしてもう一人のほうは、俺を見ると嫌そうな顔を隠そうともしなかった。

「……なんだよ。昨日ので味を占めたか?
 それともアタシたちが二人しかいないなら勝てるとでも踏んだのか?」

 自前の弁当をパクつきながら、警戒深そうに俺を睨む蒔寺。
 すまん蒔寺、だがお前に協力してもらわないとならないんだ。

「いや。氷室が行きそうな場所に、心当たりとか無いか?」

「は? なにそれ?
 なんでアンタがそんなこと知ろうとするのさ?」

「朝から居ないって聞いてさ。
 探しに行こうと思ったんだが、俺じゃ氷室の行方がわからないから。
 二人なら、何か知ってるんじゃないかと思って」

「……由紀っちに聞いたんだな」

 ちらり、と三枝を見る蒔寺。
 不安そうに小さく頷く三枝を見てから、再び俺に視線を戻す。

「残念だけどお断りだね。
 アンタが行くくらいならアタシが自分で行く。
 衛宮の手を借りる理由は、」

「氷室のこと、俺に責任があるかも知れないんだ」

 その一言に、蒔寺の動きが止まった。
 動かし続けていた箸を緩慢な動きで机に置き、椅子を引いて立ち上がる。

「…………衛宮。アンタ、昨日氷室に何かしたのか」

 直感の為せる技か、蒔寺は昨日の氷室の行動を察したらしい。
 ……覚悟はしていた。
 俺は、この後の展開を半ば予想しながらも、正直に頷いた。

「――ああ」

「……っ!!」

 殴られた。
 蒔寺の右拳が、俺の横っ面を思い切り捉えた。
 さすが蒔寺、ビンタではなく拳打か。

「ま、蒔ちゃん!?」

 周囲に居た生徒が、何事かとこちらを振り返る。
 ……遠坂がどこかに行っていて良かった。
 こんな姿、とてもあいつには見せられない。

「だから、俺は氷室に謝らなきゃいけないんだ。
 蒔寺。心当たりがあったら教えてくれないか」

137 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/06(水) 02:51:03


「…………」

 殴られた頬を押さえながら、それでも俺は蒔寺をまっすぐ見た。
 振るった腕をゆっくり下ろして、蒔寺は俺を睨んでいたが……やがて顔を背けた。

「ちっ……氷室の家は、新都の駅前にあるマンションだ。
 休みの時は基本的に活動範囲はあっちがメインなの」

「……鐘ちゃん、通学以外ではあんまりバスは使わない、って言ってたよ。
 だから、あんまり遠くには行ってないんじゃないかな」

 ……ありがたい。
 既に俺に背を向けて、昼飯を再開している蒔寺。
 殴られた頬にそっとハンカチを差し出して、それでも笑顔で俺を見る三枝。
 本当に、ありがたい。
 二人の言葉も、二人の氷室に対する友情も。
 不覚にも熱くなった目頭は、殴られた痛みの為だけではないだろう。

「氷室は、きっとアンタを殴らない。殴りたくっても、殴るようなヤツじゃない」

 ボソリと。
 蒔寺が背を向けたまま言葉を紡いだ。

「だから、さっきのは氷室の分の先払いだ。
 アタシの分は……アンタが氷室に謝れば、ツケにしておいてやるよ」

 ……蒔寺、お前、いい奴だな。
 言葉にしたらまた殴られそうだったので、心の中でだけそう呟く。
 口に出すのは、ただ一言。

「サンキュ」

 俺は廊下へ飛び出した。
 時間は正午、まだ時間はあるはずだ。

138 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/06(水) 02:52:46

――Interlede Side Himuro

 閉じていた瞳を開いて、私はゆっくりと立ち上がった。
 長い間座っていたため、少し背をそらして柔軟する。
 ここは静かで、最初は考え事には最適かと思ったのだが。

「……思った以上に根が深いのか、な」

 黙っていればその分、考え事がまとまらない。
 こんなことは珍しいと言える。
 今までの人生で、結論が出ないことはあっても、結論に辿りつこうとすることが出来ないのは初めてだった。
 頭が拒んでいるのか、それとも――心が気付いていないのか。
 ……普通の女性ならば、これを素直に解釈して受け取れるのだろうか。
 問題は、私自身が普通の女性であるかどうか、だが。

「ここにいても答えは出ない、か」

 首を振って歩き出す。
 これ以上考えていると、どうしても……衛宮のことが浮かんでくる。
 時計を見る。
 いつの間にかもう正午を回ろうとしていた。

「……どこへ行こうか」

 衛宮と連想して、衛宮と縁のある人物たちを思い描く。
 遠坂嬢、間桐嬢、柳洞生徒会長……。
 今しばらくは、彼女たちと顔を合わせたくない気分だった。

「まあ、この時間では会うわけが無いとは思うが」

 それでも構わないだろう。
 心の赴くままに動けるのなら、どんなに楽かわからないのだから。

――Interlude Out


《1時間》
α:衛宮邸付近を捜す。
β:学園付近を捜す。(11~12時に確認)
γ:商店街付近を捜す。(9~10時に確認)
δ:間桐邸・遠坂邸付近を捜す。
ε:柳洞寺付近を捜す。
ζ:未遠川の公園付近を捜す。(10~11時に確認)

《2時間》
η:港付近を捜す。
θ:駅前付近を捜す。
ι:教会付近を捜す。
κ:幽霊洋館付近を捜す。

《3時間》
λ:郊外の森を捜す。

これまでのアドバイス
ライダー「考え事ならば、静かな場所でするのではないでしょうか」
子ギル「いつも一緒に居るお二人なら、心当たりがあるんじゃないでしょうか」
蒔寺「氷室の家は、新都の駅前のマンションだ」
三枝「バスは使わない、って言ってたよ」

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最終更新:2006年09月06日 18:06