603 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/04/21(月) 22:15:08


「蒔寺のコレも、ひょっとしたら……あぁ」

 言いかけて、慎二は俺以外の二人に視線を送った。
 そうだ、氷室と三枝さんには、蒔寺についての説明はまだしてないんだったっけ。

「僕の話の前に、そいつらにも説明しておいたほうがいいね。
 ま、見ればわかるだろうと思うけど」

「蒔寺は今、心が子どもの頃に戻っちまってるんだ」

 場の視線が一斉に蒔寺に集まる。
 びくっと身体を震わせて後ろに下がる蒔寺。
 ……それも仕方ないか。
 蒔寺の主観からしてみれば、知らない年上の人たちに囲まれてるんだし。

「ううむ……幼時退行、というわけか」

「うわぁ……こういうのって、ほんとにあるんだ……」

 そんな蒔寺の様子を見て、俺たちの話を信じざるを得ない様子の氷室と三枝さん。
 こと蒔寺との付き合いなら、俺なんかとは比べ物にならないくらいに深い二人だ。
 今の蒔寺を見て、思うところも多いのだろう。

「ま、こうなった原因は衛宮が転ばせたからなんだけどね」

「えっ?」

 ぎくっ。
 慎二がズバリと指摘してくる。
 もっとも、隠し立てするつもりは無かったけど……改めて言われると、辛い。

「衛宮くんが……?」

「どういうことだ、衛宮」

 問い詰める氷室の真摯な目と、三枝さんの純粋な目が痛い。

「いや、あの時は……蒔寺に雛苺を見られるわけにはいかない、と思って、つい……」

「でも、蒔寺はドールのことをあらかじめ知ってたみたいだけどね。
 衛宮のやったことって、完璧に余計なことだったんじゃない?」

 今、俺の心臓に、慎二の言葉が刃物のように突き刺さる音が聞こえた。
 受身判定に失敗したのですぐには立ち直れません。 

「でっ、でも、衛宮くんは知らなかったんだし仕方ないよ」

「まあ、そうだな。私も蒔寺に話したことを伝えていなかったから、多少は非がある」

 二人がフォローしてくれるのは、素直に嬉しい。
 しかしその慰めが、心の刃物傷にやたらとしみるのはなぜだろうね。

「さて、それじゃ話を続けようか。
 衛宮の余計な行動のせいで、蒔寺は精神が子どもに戻った。
 ここまではいいよな?」

 ……慎二、お前も少しは……いや、言うまい。
 俺は無言で先を促した。
 正直、さっきのダンボールは俺が使いたい。

「つまり、記憶に混乱が見られるってことなんだけど……ところで、記憶って何だと思う?」

「記憶?」

 突然、質問を振ってくる慎二。
 その意図がわからず、首をひねる俺。

「その人の覚えていること?」

「脳内に蓄積された過去の経験、それに付随する自己分析……だろうか」

 三枝さんと氷室が、それぞれ自分なりの回答を口にするが……慎二の答えはそのどちらとも違った。

「記憶は自分という存在のバックアップだよ。
 ゲームのセーブデータみたいなものさ。
 いままでの自分の情報がそこに詰まってる。
 人間は、毎日新しいデータを上書きし続けている……無意識のうちにね」

「じゃあ、今の蒔ちゃんは、そのデータが壊れちゃったってこと?」

「いや、壊れたというよりは、間違えて古いデータを読み込んだ状態だね。
 本当は最新のデータがあるはずなのに、外部からの衝撃で読み込みがズレたのさ」

 誰かさんのせいでね、と言外に含ませながら、慎二は笑った。
 しかし今回の俺は完膚なきまでに反撃が出来ないのであった。

「さて、そこで問題になるのは、元に戻す方法だ。
 記憶喪失の類は、本人が意識的に戻すことは難しい。
 セーブデータを書き込むのも、読み込むのも、無意識の働きによるものだからね」

 つまり、記憶を直すためには、無意識へ刺激を送るしかないってことか。
 よく、記憶喪失の人間に、以前好んでいた場所や行動を再現させるという話を聞くが……あれはそういう意味だったのか。

「さて、ここからは連想ゲームだ。
 キーワードは無意識、そして薔薇乙女《ローゼンメイデン》。
 この二つから……僕が何を連想したか、わかるよな?」

「あ」

「む」

「「nのフィールドか!」」

 俺と氷室の声が重なった。
 nのフィールドはヒトの無意識が繋がる場所。
 そこから辿っていけば、蒔寺の記憶が戻せるかもしれない!

「でも……出来るのか、そんなこと?
 どうなんだ、雛苺?」

「うゆ?」

 今の話を聞いていたのかいないのか、雛苺は俺の呼びかけに首をかしげた。
 氷室が俺の代わりに噛み砕いて説明する。

「nのフィールドから、他の人の記憶に入れるのか、ということだ」

「うーん……」

 しかし、雛苺の返答は、芳しいものではなかった。

「ヒナには、そういうことは出来ないの。
 そういうことが出来るのは……翠星石か、蒼星石なら」

「翠星石か……」

「……蒼星石?」

 聞いたことが無い名前だけど……薔薇乙女《ローゼンメイデン》の名前だろう、恐らく。

「その二人なら、記憶に介入することが出来るのか」

「うん。二人は『夢の中の庭師』っていうんだって。
 ヒナはよくしらないけど……」

 うーん……。
 雛苺以上に、情報を持っていそうなのは……やっぱり、他のドールだよなぁ。
 しかし、水銀燈の衣装を探しに来たら、蒔寺が幼時退行して、そして新しい薔薇乙女の情報が出てきた。
 だんだん当初の目的からずれてきたような気がするけど……。


α:家に帰って水銀燈に相談だ。
β:遠坂邸へ行って真紅の助言を聞く。
γ:初心に帰って水銀燈の衣装の当てを探す。


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最終更新:2008年08月19日 03:49