838 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/05/07(水) 22:28:46


――Interlude side 1st Doll


「……むー」

 なにかしら。
 なんだか良からぬ気配がするわ。
 具体的にはあっちの……新都の方角から。

「まあ、士郎がどこで道草食ってようと、私は興味ないけどぉ」

 でも、何かあったのかしら……。
 もう三時を過ぎたって言うのに……たかだか服を探してくるくらい、もうちょっと手際よく出来ないのかしら。
 もっとも、私の服を適当に探してきたりしたら、許さないけど。
 そう……士郎には、私のために、最高のドレスを探してもらわなくちゃ。
 士郎が……私のために。

「……うふふ…………はっ!?」

 い、今のは空耳よ!?
 決して、私がにやけたような笑い声を上げたわけじゃないんだからっ!

「そっ、そうよ。
 そもそも士郎のことだから、真面目にやってるかどうかすら怪しいものよ」

 士郎は優柔不断だから、またどこかで人助けとかしてるのかも。
 ううん、もしかしたら外で別の女と会ってたりなんかして、それで……新都で、デートしてる、とか。

「だっ、ダメ、ダメよぉ!
 士郎は私のミーディアムよ!
 そんなことしちゃダメなんだから!」

 慌てて頭の中から妄想を振り払う。
 特に鼻の下を伸ばしている士郎の顔は、見たくないので念入りに消去。
 あー、うー、もうっ。
 なんで私が、こんなにそわそわしなくちゃならないってのよ!

「……ふん。
 それもこれも士郎のせいよ」

 そうだ。
 私がこうして暇をもてあましているのも。
 どこかから良からぬ気配を察してしまうのも。
 不完全になった体の心配よりも、別のことで心配してしまうのも。 
 全部士郎が悪いのだ。

「もう……士郎のばか。鈍感。ジャンク」

 言いたいことを言いながら、私は土蔵のジャンクの山の上に寝転がった。
 お世辞にも寝心地が良いとは言えないけれど、構うもんですか。

「士郎……」

 私の契約者。
 最初は、いくらでも代わりの効く供給源のつもりだった。
 ただ、ちょっとだけ興味が沸いたから、契約してやっただけの。
 その結果は……まあ、失敗、だったわねぇ。
 下僕のくせに、私が他のドールと戦おうとするたびに一々口うるさく反対してくるんだもの。
 でも……癪だけど、今なら分かる。
 士郎は、アリスゲームに参加することには、とても反対していたけれど。
 アリスになることを諦めろ、とは一度も言ったことが無かった。

「ふん。
 アリスゲームをやめて、どうやってアリスになるって言うのよ」

 士郎は一々生意気だ。
 この薔薇乙女《ローゼンメイデン》第一ドール、水銀燈に口答えするなんて。
 でも……なぜかしら。

 ――足りないところは助け合うのがパートナーだろ?

 その言葉に、心がとても楽になったのは。
 その言葉を……もっと、聴きたいと思っているのは。

「早く帰って来て欲しいわぁ……」

 ……………………はっ!?
 わ、私ってば、今、なにをっ!?
 違う、違うわ、今のは無しっ!
 ちょっと慰められた程度で、人間と馴れ合うような水銀燈じゃないわぁ。
 あの時、再契約したのは……っ……そう、気まぐれ!
 単なる気の迷いよ、それ以外に考えられないわぁ。

「ああもうっ、水銀燈ったら何を考えているのよぉ……!」

 立ち上がる。
 ま、まずこの場所がよくないわね。
 ここは士郎の名残がたくさん……じゃなくて、一人きりだと余計なことばっかり考えちゃうし。
 うん、そうに違いない。
 私はジャンクの山から飛び降りて、土蔵の入り口に歩み寄った。
 外はいい天気みたいね……少しは私の気も晴れるかしら……。

 ――危ないっ!

「……………………え?」

 一瞬、どこからか声が聞こえてきたような気がした。
 それが幻聴ではなく……ついでにいうと、聞こえてきたのではなく『降ってきた』のだと気付いた時には。
 ソレは、もうすぐそこまで近づいてきていた。

「えっ!?」

 猛スピードで、土蔵に向かって一直線に、『見覚えのある鞄』が突っ込んできていた。

「きゃあっ!?」

 咄嗟に私は、頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。
 結果的には、それが幸いしたみたい。
 突っ込んできた鞄は、私の頭上を通り過ぎると、そのまま土蔵の中へ飛び込んでいった。
 そして……土蔵の中で、おもちゃ箱を盛大にひっくり返したような音。
 擬音にするなら、どんがらがっしゃーん、って感じかしら。

「い……今のは……」

 ゆっくりと頭を上げて、土蔵の中を振り返る。
 何が飛び込んできたのかは分かる。
 見覚えがあるどころか、ありすぎて困るくらい。
 というか、空を飛んでくる鞄なんて、私は他に知らない。
 呆然としたまま、私は飛び込んできたものの名前を呟いていた。

「……薔薇乙女《ローゼンメイデン》の、鞄……?」


銀剣物語 第七話 了』



さーて、次回の銀剣物語は?

 あ、三枝由紀香です。
 鐘ちゃんと衛宮君は、なんだかとってもいい雰囲気みたいです。
 あんなに嬉しそうな鐘ちゃんは初めてかも……。
 一方、水銀燈ちゃんのところには新しいドールさんがやってきました。
 ……え? 私たちのグループにも何かあるかもしれないんですか?
 そ、それじゃあ次回は、

「大決戦! 水銀燈VS翠星石」
「蒼星石、衛宮家にとてもなじむの巻」
「その名は名探偵カナ!」

 の、三本です。
 次回もまた、見てください。
 じゃん、けん、ぽん!


ぐー:「大決戦! 水銀燈VS翠星石」
ちょき:「蒼星石、衛宮家にとてもなじむの巻」
ぱー:「その名は名探偵カナ!」


投票結果


ぐー:3
ちょき:5
ぱー:3

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年08月19日 03:50