39 :エルメロイ物語 ◆M14FoGRRQI:2008/05/22(木) 14:32:13
(スライムが助かると思うって?何バカな事を言ってるんだ君は。魔術に携わる物として、
いやそれ以前に霊長類としてどうかと思うよ。なあ、一度病院で頭調べてもらった方が
いいんじゃないか?・・・まあ、実際スライムは助かったのだけどね。しかし、ここは
結果がどちらにせよ「助かるなんて思わない」というのがスジってものだろう。
君には失望した。あ、ごめん。最初から何も期待していなかったから失望も何も
ないか。訂正しよう。私はこれまでもこれからも今後一切君に期待しないし、質問も
投げかけない。「はい」と「いいえ」の二択すら間違うおバカな君にもありがたい事だろう。
さっ、それじゃあ話を続けようか。えーとどこまではなしたんだっけ)
体の厚みが無くなり、水のように地面に広がっていくスライム。この場にいる者の内、
スライムを使い魔にしているあるいは実技でスライムを作った事のある者、すなわち
この場にいるほとんどのものがそれがスライムの寿命が来た事の知らせだとしる。
人工生物とはいえ命は命、ソフィアリ氏の暴走を止めるだけの実力が無い者以外の
この事態を遠巻きに見ていた人々は、その死に様にある者は胸を打たれ、ある者は
正視できず顔をそむけていた。
だが、しかし奇跡は起こった。突如空から降ってくる人頭大の赤いゼリー状の物質、
それは正確にこるねりうスライムの体の中心に着弾したかと思うと、瞬く間にしぼんで
いく。いやスライムがゼリーを取り込んでいるのだ。その証拠にゼリーが小さくなって
いくのに対し、地面に広がっていたスライムの体は比例するかのように立体化していく。
(『スライムの製作者であるコルネリウス・アルバが』
『瀕死のスライムが吸収しやすいようゼリーの様な物質に魔力を込めて』
『ミスターソフィアリに邪魔されないようにそのゼリーを届ける』
原因はわからないが、凄く確率の低い偶然が重なったんだよ。なあ、思いもしなかった
だろこんな展開!なに、最初からそう思っていた?あのね、これは君の為に行われている
展開予想テストじゃないんだよ。君がやらなきゃいけないのは私の洗練された言葉を
なるべく忠実に記事にして再現することなんだから。だからさ、こういう時はこういう
んだ。「すごいですね部長。こんな事ありえるんですか」。さん、はい。・・・よろしい、
とにかく私達は奇跡を見てしまったんだ)
奇跡を見てしまった凡人はそれがどんな内容であれある方向へと行為が収束していく。
凡人に出来る唯一の事、それは奇跡を賞賛し、その誕生を祝福する事だ。
スライムが完全にもとの形に戻った時、時計塔レスラーの一人が叫んだ。
「復活!スライム復活!」
やがて、レスラー全員が唱和し、それは野次馬連中にも伝播していく。
「復っ」「活!」「スライム」「復活!」「スライム復活!」
祝福の嵐の中体育館の入り口からパジャマ姿のインド風少女が現れる。
そして、目の前の存在に気付く。
「・・・こるねりうスライム?」
「なにぃ、あいつはこるねりうスライムという名前なのか!」
「そうかっ、復っ活っ!こるねりうスライム復活!こるねりうスライム復活!」
チャダの言葉によりスライムの名前を知った皆は言い換えて唱和を続ける。
「復活!こるねりうスライム復活!」
「こるねりうスライム復活!」
「こるねりうスライム復活!」
講師達もいつしか唱和に加わっていた。ソフィアリ氏も仕込み杖を収め両手を後ろに
組み声を張り上げる。若い頃に失ってしまった熱さを思い出し涙する者までいた。
プールに大きな水音が立ち、水柱が二本あがる。やがてプールのへりに手が掛けられ
エミヤとエダブエが上がって来た。体育館の前の騒ぎに気付き、様子を見に駆けつける
二人。
「パティ、これは何事かね?」
「あっ先輩、復活ですよ復活。アタシらスライムの復活に立ち会ったたんですよ。
先輩も唱和してください」
「復活!こるねりうスライム復活!」
二人の男がスライムを称える輪に加わる。この事件の元凶であるエミヤの登場に対し、
皆気付かない、気にしない、気にしている場合じゃない。
今は何よりこの唱和を優先させなければ。
「復活!こるねりうスライム復活!」
「復活!」
「こるねりう!」
「スライム復活!」
プールに再度大きな音が響き渡る。ウィリアム・アーチボルトがプールサイドに
ダイレクトで激突した音だ。しかし、皆振り向こうともしない。きっと彼もすぐに
起き上がってこの唱和に加わるであろう。そう確信しての事だった。
「復活!こるねりうスライム復活!」
「復活!こるねりうスライム復活!」
いつしかパンツ一丁で顔に布をグルグル巻きにした貧弱な体の男が中心で高速で尻を振り
ながらハイテンションで音頭を取っていた。
チャダの着ていた布の巻き方が結局分からなかったウェイバーは顔を隠して外に出れば
恥ずかしくないだろうと考えこうして出てきたのである。
(体育館から出てきて輪の中心に立ったのがウェイバー・ベルベットである事は体格から
して明らかだった。しかし、それを誰も指摘しない。指摘する事により場の空気が
冷える事を恐れたためだろうね。それだけ場は熱狂していた。もう、私以外の全ての
人間が唱和に参加していた。そう、常に特ダネの臭いを意識していた私が最初に
気付いていた。何で後からきたウェイバーがノリノリになっているのに先にプール
サイドに落ちてきた人はこっちにこないのか。ひょっとしたらこの輪に加わる
タイミングを逃したシャイな人なのではと思い、私は部員にこの場の収録をまかせ
そっと輪から離れ、プールに向かった)
プールサイドに着いた新聞部部長はピクリとも動かないウィリアムに声を掛けてみる。
「なあ、なんであんたはあっちへ行かないんだ」
反応はない。
「一体何のタイミングを狙っているんだ?なあ、黙ってないで答えろよ」
無反応のウィリアムにイラつき倒れている体に蹴りを入れる。何の抵抗も無く蹴られた
方向に体は半回転し、移動した頭が飛び込み台の角にぶつかる。後頭部からどくどくと
血が流れ出すが、それでも全く反応をしない。というよりも転がり方が意識のある人間
の転がり方ではなかった。新聞部部長の顔から血の気がさっと引き、祭りの熱狂から
現実に引き戻される。
そして、
「医務室―!!」
魔術の訓練による事故の割合が高い事から医務室の一つが体育館横に存在した事が幸運
だった。新聞部部長は殺人者にならずに済んだのである。
(あの時は本当に肝が冷えたよ、空中からの姿勢制御もできないボンクラごときに私の
人生を台無しにされちゃあたまらなかったからね。彼を引きずっての医務室までの
ダッシュは多分100m辺り10秒ジャストぐらいは出ていたと思う)
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最終更新:2008年10月07日 18:03