48 :Fate/Rise of the Zilart ◆6/PgkFs4qM:2008/05/22(木) 21:56:32


 ――――ぞぶり、と。
 かくして凶手は寸分の違いも誤らず、王の胸元へと沈んでいった。

「ごふ……きさっ……!」

 激昂するギルガメッシュの怒声が、静まりかえった場に響く。
 次いで伝播してきたのは、体内から直接伝わってくる、指が心臓をまさぐる感触。
 常人なら卒倒しかねないオゾマシサに、流石の英雄王も眉を顰めた。
 後はこの間抜けな心臓を潰せば、それで終い。
 なんて簡単。そう、全ては一瞬の――――

「おのれ……貴様ァッ!!」

 だが。
 今、英雄王の心中を占めていたのは、心臓に達する負傷への危惧や恐怖の類ではなく、
 卑賎に過ぎない輩が、恥じ入ることなく王の懐中へ手を挿し入れたという、
 不遜に対する燃え狂う憤慨の情念だった。
 怒りは痛みを凌駕し、全身に走る体を裂かれた痛みをものともせず、
 手にした鎖を眼前の卑しい暗殺者に投げつける。

「――――キ?」

 何故――――?
 仮面を被り素顔の隠しているアサシンの髑髏面が、知らずとそう訴えていた。
 投擲された鎖は、まるで意思を持った蛇のようにアサシンの身体へと巻き付き、
 人間にしては長過ぎる四肢を容赦なく締め上げる。
 ――――天の鎖(エルキドゥ)。
 女神が遣わした雄牛すら捕縛する鎖は、いかにハサン・サッバーハが神性適正のない反英雄とはいえ、
 Cランクの筋力では脱出不可能な程の締め上げと強度を有していた。
 ギルガメッシュの胸元からザバーニーヤが引き抜かれ、それに伴い血飛沫が地面に紅い点を描画する。
 後はこの間抜けな刺客を斬れば、それで終い。
 なんて簡単。そう、全ては一瞬の――――

「待ちなさい、ギルガメッシュ!」
「待たぬ! 穢らわしい鼠風情が……我の身体を蹂躙した罪、せめて死を以って贖え!」

 今でこそ平民と違わぬ生活をしているものの、
 彼の者こそ、かつては都市国家ウルクを治め、この世全ての財を蒐集した王の中の王。
 猛り狂う英雄王を止めることなど、例え名立たる英雄が数人がかりで挑もうとも不可能なのである。
 故に、これから行われる処刑を止める術などあろう筈もなく……
 いずれ数瞬の後には穏やかな庭園に血の雨が降る運命であり、
 既にそれは確定してしまっていると言って良かった。その筈だったのだ。
 既に確定された未来に何の躊躇いも見せず、
 いざ黒い肢体を両断せんと、右手を掲げ――――最初の異変は、起きた。
 差し出された柄を掴む筈の指先が、どうしてか、空を切る。
 いつもは主の意思に従い、自ずと手中に納まる刀剣が、今は理解出来ぬことに己の命に応えない。
 ふと前を見れば、あれだけ強靭な圧力で締め付けていたアサシンの姿はあらず、
 目標を見失い、地にのたうつ鎖が残されているばかり。

(はて、我は雑種の庭先に居た筈だったが?)

 周囲を見渡せば、自分を中心とする景色は何時の間にやら荒野のそれと変わり、
 追い討ちとして放たれた更なる異常が、
 先程まで頭蓋を満たしていた怒りを中和し、彼の首を斜めに傾げさせた。
 頬を叩く渇いた風に、暗く淀んだ曇り空。
 碌な整地の行われていない、凹凸の激しい粗悪な路道。
 地に目を凝らせば、地上では見たことのない小生物が足元を駆けずり回っている。
 おまけに、アサシンもだが、辺りを賑わしていた六人の雑種の姿が露ほども見当たらない。
 だが、それでも彼の胸中を満たしていたものは、決して不快に属するものではなかった。
 湧き出るものは――――不思議な懐かしみ。
 遥か数千年の時を隔て、故郷など既に滅んだ後に呼び出される英霊の、恒常的に有り得ぬ感情であった。
 そして――――

「む」
「む」

 しばらく目的もなく歩を進める内に出会った、第一発見者。
 眼前の大男は、赤い頭巾と厳しい鎧兜に包まれていた。



Ⅰ:「オイ、貴様。ここはどこだ?」
Ⅱ:「雑種よ、お前は何者だ? 名を名乗れ」
Ⅲ:「何と見るに耐えぬ不細工な面だ……消えるがよい」


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Ⅰ:0
Ⅱ:5
Ⅲ:2

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最終更新:2008年10月07日 18:08