113 :Fate/Rise of the Zilart ◆6/PgkFs4qM:2008/05/28(水) 23:03:00
(クラーケンクラブ、5000万ギルで買い取ります)
既に幾許かの時が経過しているらしく、茶色く変色した安紙に、
でかでかと大雑把に記された何かの嘆願書。
ただ裏側に糊か何かで壁に貼り付けた安っぽさと、ともすれば、
そのまま忘れ去られているのではないかという長期に渡り捨て置かれたイメージが、
依頼主の物品に対する執心の薄さを窺わせた。
――――クラーケンクラブ。
――――5000万ギル。
普段の彼ならば、こんな市井の一場面に注意を集めることなどまず有り得ないのだが、
そこは異世界への興味が加勢したようで、
意味不明な二つの単語も相まり、彼の視線はそこへ釘付けとなった。
「……おい、雑種よ。クラーケンクラブとは、一体如何様なものであるか、知っているか?」
傍らの大男は、一瞬怪訝な眼差しでギルガメッシュの顔を覗ったが、
彼の視線の先にある張り紙を見て大方の事情を察し、
微かな困惑を含めた朗らかな声で返事を寄越した。
「……ああ、それか。なに、ただの戯言みたいなもんだよ。
俺も一時期躍起になって手に入れようとしたんだけど、
同じくそれを求めるライバルに溢れかえっちゃって、
加えてそれを飲み込んだらしい魔物も滅多なことじゃ人前に姿を現さないものだから、
すっかり都市伝説化してさ。諦めちゃったよ。
野宿しながら狙っている奴もいる訳だし、実質、思い立ったからって今取るのは不可能……」
「そうではない。道具にまつわる経緯なぞ、どうでもよいのだ。
そのクラーケンクラブとやらが、我の財に加えるに相応しい一品かどうか、それを知りたいのだ」
「さあ、俺は知らないな。元々市場に出回るような代物じゃないし」
「そうか……」
微かに不満を込めた吐息を吐き出して、英雄王は肌蹴た襟元を直し、
皺の寄ったベッドから反動を利用して床へと降り立った。
大男から返ってきた回答は、彼が望んだ情報にまるで届かず、
お世辞にも価値があるとは言い難いものだったが、
直後、悪巧みをする悪童のように輝き、光彩を放つ英雄王の瞳を見る以上、
どうも彼にとってはその限りでなかったようだ。
「行くぞ。場所程度は弁えているであろうな、雑種」
「……あん?」
「いつの時代も、未知なる物を求める遠征は、胸を高鳴らせるものがある。
今ばかりは、我の蔵に財がないのも一興であるかもな」
「??」
「そら、呆けている暇などなかろうが。
処刑は先延ばしを賜わしてやるから、一刻も早く我をそこに案内するがいい」
「んん~?」
とうに身支度の整った――――
といっても、黒い上下を纏い、長い鎖を手にしただけの軽装だが――――英雄王は、
突然のことに対応しかねる大男を待つことなく、
行き先もわからぬというのに、隙間なく閉ざされた扉をいち早く開け放つ。
やや遅れて、一人室内に残された大男が、
颯爽と外へ飛び立つ青年の背中へ大慌てで付き添って行った。
しかし――――。
英雄王は、考える。
まさか貨幣の単位に『ギル』を使うなど、ここは熱心な忠臣の徒で満ち溢れているらしいが、
いつの間に民は自分の凱旋に気が付いたのであろう――――と。
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最終更新:2008年10月07日 18:09