323 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/09(土) 23:22:09


「衛宮は、どうなんだ? 私のことは、何とも思っていないのか」

 目線だけこちらへ向けて、氷室は俺にそう尋ねた。
 その横顔は、俺が見てもわかるほどに不安そうだ。

「……よく、わからないな。
 好きっていうのが家族に対するものとは違うのか、どうなのか。
 氷室のことは、その……か、可愛いと思う、けど」

「む……」

 言葉の羞恥に、お互いに押し黙る。
 無音に近い、港に打ち寄せる波の音だけが一帯を包む。
 二人して足をぶら下げて持て余しながら、しかし言うべきことが見つからない状況。
 この状況を打開するためには……。

 そうだ!

「ひ、氷室」

「なんだ?」

 思わずどもってしまった。
 ええい、覚悟を決めろ、俺……っ!

「じゃあ、これから…………デート、しよう」

 昨日、氷室を家に誘った時の比ではないほど緊張しながら、俺はそう提案した。

「……なん、だと?」

 目を大きく見開いて、俺の顔を覗き込んでいる氷室。

「だから、二人でデートしよう。午後も、その、予定とかは無いんだろ?」

320 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/09(土) 23:18:04


「待て待て待て衛宮!
 で、で、デートだと!? 今からか!?」

 予想通りと言うか、思い切り狼狽する氷室。
 それだけならば昨日と同じなのだが、あいにく今日は俺も一杯一杯だった。

「そ、そうだよ。お互いに好きかどうかはっきりさせるには、それが一番だろ」

 自分でもわかるほど顔を真っ赤にしながら、俺は趣旨を説明した。

「今日一日相手と付き合ってみて、駄目だって思ったなら振ればいい。
 もし恋だって判断できたんなら、そのときは……まあ、それはそれで、ってことで」

「……な、なるほど。物は試し、お互い恨み無しで、ということだな」

「そ、そうそう、そういうこと」

 まあ、もっとも。
 俺のほうから氷室を振ることは、恐らく有り得ないのだが。

321 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/09(土) 23:19:30


「しかしだな衛宮、私たちは制服のままだ。
 これではデートに差し支えするのではないか?」

「ん……大丈夫、そろそろ授業が終わるし、帰宅部だと思って振舞えばばれやしないさ」

 時計を見て確かめる。
 今は午後の2時を回ったところ。
 これならば学生服でもそうそう怪しまれまい。
 すると、氷室が俺をじっと見て、唐突にこう言った。

「……大したナンパ師だな、衛宮は」

「な」

 ナンパ師!?
 生れてこの方言われたことのない人物評に、おもわず一瞬絶句してしまう。

「な、馬鹿なこと言うな!
 こんなに恥ずかしい思い、そう何度もしてたまるか!
 これは相手が氷室だからであってだな、誰彼構わずやってるわけじゃ……!」

 思わず猛烈な反論をしてしまう。
 っていうか、言うに任せてとんでもなく恥ずかしいことを言ってないか、俺……?

「……ふむ。そうか、なるほど。つまり、」


 氷室は、すっと俺の肩に寄り添ってくると、


「私は、衛宮にナンパされた、最初で最後の女という事だな」


 とびっきりの笑顔で、そう言った。


「さて、そうなるとデートのプランはお任せしよう。
 期待しているぞ、衛宮?
 私は、この感情が恋だと信じたくなってきたのでな」


α:まず、喫茶店でお茶にしよう。
β:昼飯がまだなのでファーストフード店へ。
γ:映画館というのはどうだろうか。

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最終更新:2006年09月09日 23:56