303 :Fate/Rise of the Zilart ◆6/PgkFs4qM:2008/06/20(金) 22:41:09


 ――――とある日の未明。
 静かに響く波の音をよそに、一人の青年が美しい更紗の輝きを潮風にたなびかせ、
 そのすぐ横に、青年とは似ても似つかぬ泥臭い大男が大股を担ぎ、傲岸と歩いていた。
 ザク、ザクと白砂を掻き分け進む様は、ある種の異様を含めてか。
 丑三つ刻は亡者の時間。
 あるべき目に熱を中てられたが如く爛れ
 鋭い三指の鉤爪を有するゴーストの群れが彼らの周囲を飛び交っているというのに、
 ただの一匹すら襲撃を試みる輩は現れず、それどころか突き出す足先に随い道を明け渡すという体たらく。
 外見こそ亡者の風采が圧倒的に奇怪であったろうが、
 黙々と歩む両者が放つ雰囲気は百鬼夜行の集団に負けず劣らず強烈であり、濃い。
 誰が知ろう。肩を揃えて進む両者が同じく『ギルガメッシュ』の名を冠する者同士であり、
 片や森羅万象のあらゆる物を有する王の中の王、片や世界を救う伝説の戦士に匹敵する無名の剣豪――――。
 以上の事を仔細に吟味するまでもなく、死して尚機能した『生き続ける』という本能、
 彼らの威武を察知し敵に回すことなく道を譲ったその判断は、この上なく正しかったといえる。
 そして、亡者の身の弁えに拘わらず、この異常な光景を露とも感じさせない自然な歩みで、
 暗闇の先へと潜っていく青年と大男。
 彼らの進む先に構えるは、ただでさえ暗い闇を更に密集させた泥濘の窯口。
 ――――オンゾゾの迷路。
 『オンゾゾ』とはこの地方に住むタルタル達の言葉で貝塚を指し、
 元は太古の地殻変動により作られた天然の洞窟である。
 だが、魔法国家に訪れた大魔法時代の黎明期、禁呪の類により術者の手に負えぬ失敗作が生まれてしまうことが多々あった。
 或いは毒を吐き続ける朝顔。或いはひとりでに歩き回る机と椅子。或いは勝手に放電し続ける猫。
 このような魔法廃棄物やその他ウィンダス連邦で発生する様々なゴミを棄てるために選ばれたのがこの深い洞窟であり、
 しばらくの間利用されていたのだが……
 しかし、不安定な魔力を秘めた廃棄物は良からぬモノを呼び寄せ、洞窟に住んでいた生物の突然変異を促し、
 強い魔力を秘めた魔法生物を生み、それらを悪用しようとするゴブリンどもの根城となった。
 この度、その危険性がウィンダスに認定され、仕事に飢える冒険者達の討伐対象地域へと加えられたのである。
 だが、彼ら――――特に英雄王に至っては、そんな危険など何処吹く風の無関心であるらしく、
 纏う空気には一片の緊張すら見出せない。
 それはいつもの油断か、それとも何らかの奇策あってのことか。
 気侭を信条とする英雄王の気心は、喩え万人に無限の歳月を与えようとも、決して掴むまでには至るまい。

「おい、良いものを思いついたぞ。拝聴を賜わす。涙を流して聞き惚れるがいい」
「……あん?」

 と、それまで固く沈黙を守っていた件の英雄王が、突然、目を童子の如く輝かせながら言い放つ。

「作詞作曲、我。英雄王の唄。
 ♪ギル・ガメッシュ ギル・ガメッシュ ギルギルギルギル
 ギルギルギルギル ギルギルギルギル~ ギル・ガメッシュ♪」
「………………」
「♫天・上天下 天・上天下♫ 我我我我 我我我我 我我我我 我我我我~ 唯我独尊♪」
「………………」
「――どうだ? 危うく耳が蕩ける所であったろう?」
「………………」
「そら、早く褒め称えるがいい。頬が疼いて堪え切れぬわ」
「へぇーっ、スゲーいい出来じゃねえか! 何て云うか、ギルギルが凄く腹の底に響いてくるっていうか……
 胃をキリキリ締め付けてくるっていうか……」
「そうであろう、そうであろう。……実を言うとだな、『エンキドゥ行進曲』というのもあってだな……」
「マジかよ! YOU、CDデビューしちゃいなYO!」
「そうであろう、そうであろう! 一層讃えるが良い! …………む。おい、あれがそうなのではないのか?」

 一瞬。彼らが談笑に夢中になっている針一刺し分の刹那。
 それまでの緩んだ緊張は灰も残さず、岩陰に身を隠す彼らの瞳に宿すは狩猟者の眼差し。
 やがて慎重に洞穴の奥へと気配探知の触手をもたげれば、
 長く伸ばした感覚の延長上に、確かに異物の体表が存在した。

「……見えたか?」
「……応」

 ほんの僅かな間であったものの、
 オンゾゾを包む闇を隠れ蓑とし、黒く巨大な物体が岩と岩の間に移動する隙を、
 英雄王の人ならざる眼球は克明に捉え、逃さなかった。
 限りなく完璧に近い無音の流れは文明に生きる人間のものでないことは明らかで、敢えて語るのならば野生による俊敏さ。
 骨格を無視した相手の実力の一端を否応無く窺わせてくる。

「ついてるぜ……滅多に姿を現さない奴に、着いて直ぐ鉢合わせしちまうとは……。
 おまけに他のライバルも出払っているみたいだしな……」
「……そういえば、まだ貴様には言っていなかったな」
「……何が?」
「この世は遍く我の所有物だ。まずはあのクラーケンクラブとやらを手始めとし、
 この世界で『財』と名の付く全ては我の蔵へ入れることに決めた。
 伝説の武具であろうと、世に一つ限りの希少な道具であろうと、全ては我の物である」
「オイオイ……本気か……?」
「あの化け物の骸が鏑矢の代わりだ。我が一方的に縛って嬲って終わり。
 ……貴様は手を出すな。指を咥えてそこで見ているがいい」

 怪物と比べれば如何に巨漢の英雄王とて小人であるというのに、
 それでも、より大きく、強く、英雄王は大股で踏み出していく。
 にゅるりと。己へと迫る敵対者に反応し、怪物の長い六本の脚が蠢きながら威嚇の姿勢を取る。
 かつて幻の武器であるクラーケンクラブを飲み込んだ怪物――――
 冒険者曰く“オンゾゾの主”とは、巨大な蛸の姿をした突然変異種なのである。



Ⅰ:「そういえば、以前食べた、たこ焼きとやらの味が忘れられぬな……」
Ⅱ:「こんな化け物如き、正視するまでもない。よそ見――――否、そっぽ見で充分である」
Ⅲ:「突然……クシャミが出そう、だ……はっ……はあっ……!」


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Ⅰ:0
Ⅱ:0
Ⅲ:5

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最終更新:2008年10月07日 21:46